第四話 お揃いのカップ
#第四話 お揃いのカップ
馬車が街に近付くのにつれてルーク様は窓の外の景色に目を移されたのでようやく心が静まった。
街はやっぱり活気があって、どの店も軒先まで商品が並んでいるし店員とお客さんとの掛け合いが雑音として聞こえるけれど何故か楽しい気持ちになってくる。
大きい通りで降りてルーク様と並んで歩いた。
ルーク様は一応大人だからエイル様と違って飛んでいかないと分かっているものの、自分の背の高さ(および足の長さ)を理解せずスタスタと歩いて行ってしまいそうなので念のためリードを付けておく必要がある。
「ん」
私は手を差し出した。
ルーク様は一瞬ぽかんとしてその手を見つめられたが、すぐにその真意に気付き顔を赤くして口を押えられた。
「クロエ、まさか」
「手を繋がないとルーク様は勝手に一人で行かれてしまうでしょう?」
「まさか!そんな事はない。私はクロエと一緒に歩くつもりだ。だが、クロエが迷子にならないように手を繋ごう」
ルーク様の手は身長と同じように大きくて、そのくせ文官だからか指が細くてしなやかだ。
その指はやはり男性の指で触り心地が硬い感じがする。でも、頼もしい。
・・・あくまでもリードとしての感想ね。
私は文房具商へ向かう道中、そっとルーク様の手を引いて速度を緩めたり、前を歩いて少し引っ張ったりしながらリードした。
ちょっと私に話し掛けてくれれば歩く速度なんて分かりそうなものなのに。
「ルーク様、私が三人にカップを買って来たのを覚えていますか?」
「もちろんだ、書斎で仕事をする時にはいつもあのカップでお茶をいただく」
「今更なのですが、私の分のカップを買っていませんでした。なので今日は三人とお揃いのカップも買いたいです」
「もちろんだ、クロエとお揃いのカップでお茶を飲めるなんて最高だ」
木工細工屋に寄るとルーク様にドアを開けていただける。
気が利かない事もあるけど、こういう所だけはちゃんとしてるのよね。
お店の中は至る所にカップや皿、フォークやナイフなどのカトラリーの他にも小物入れの小箱や宝飾ケース、まだ骨しか出来ていない扇子や櫛など色々なものが所狭しと並んでいる。
私はついそれらを一つ一つ見ながらあれこれと使う場面と場所を想像した。
木製だからお皿もフォークもナイフも外に持って出られる。
例えば三人と一緒にピクニックに出掛けて行った時の事を想像する。
うーん、そんな出来もしない事を考えると悲しい気持ちになってしまうので目の前で手を振って想像を掻き消した。
ルーク様のカップはスリムで薄く軽く仕上げたもの、レオン様のカップは厚くてがっしりしたもの、エイル様のカップは両手に取っ手が付いた子供用のものを買って差し上げた。
改めてこれらに合うものを、と探しているとルーク様が一つを手に取り私に見せるようにしておっしゃる。
「クロエは手が小さいからこれなんかいいんじゃないのか?」
カップを受け取って色々な角度から見てみた。
軽くて取っ手も持ちやすく花のレリーフが一輪あって三人のカップのどれとも合わない。
けれどそれがどれとも合うような気がして気に入った。
「気に入りました。これにします!」
「他は見なくていいのか?」
即決した私にルーク様の方が心配になられる。
「折角ルーク様が選んでくださったのです。これがいいのです。これからお揃いのカップで一緒にお茶が飲めますね」
ルーク様は私よりも嬉しそうにしてらっしゃる。
あ、三人それぞれと一緒にお茶が飲めると言うつもりだったけれど、もしかするとルーク様はちょっと私を独り占めされた気持ちになられたかしら。




