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202X年2月27日14時29分、T県桜香山にて奇怪な局所的地震が発生した。崩壊した桜香山の山肌は土石流と化し、麓に位置する常沼町を呑み込んだ。
行方不明を含めた犠牲者数は109名。これが夜間に起こった災害であったならば被害は更に甚大なものとなっていたことであろう。片田舎の集落であり、殆どの者は近隣の街に出ていた時間帯であることが唯一の救いであった。
災害救助の為に直ちに自衛隊が派遣されたが二次災害が彼等を襲った。正確な人数こそ伏せられたが自衛隊員からも遺憾ながら重軽傷者が発生した――防衛省による公式の発表ではそうであったが、隠蔽されているだけで殉職した自衛隊員も少なからずいたという噂もネット上では当たり前のように流布されていた。
その真偽の程は置くとしても、震災発生から今日に至るまで桜香山ばかりか常沼町までもが自衛隊により封鎖され侵入禁止区域となっているのは事実であった。
既に投稿サイトから削除済みの、とある動画配信者による実況動画さえ無ければ、それでも桜香山を襲った災害は単なる局所地震であると人々が疑うことはなかっただろう。
ホラーめいたその実況動画と、それにより新たに発生したオカルトめいた噂さえ無ければ。
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自衛隊による封鎖の為に何者の侵入も許されない筈の桜香山近くの廃洞に、相馬優星は独り身を潜めていた。
異様な局所地震とそれに伴う付近一帯の封鎖によって、桜香山は世間の奇異の目に晒されることとなった。封鎖による報道規制は部外者の――特に『チューザー』と呼ばれる流行のネット配信者達の注目を集めた。売名行為には違いないが、一般大衆の元に隠された真実を届けるという大義名分を掲げるには充分な素材ではあった。
とは云え、有象無象のチューザーが自衛隊の封鎖を掻い潜って常沼町に辿り着くなど流石に不可能であり、周囲の険しい山道に迂回し侵入するルートも、同じく登山口監視の為に常駐している自衛隊により困難を極めた。
常沼町の入り口でチューザー達が揃って追い返される中、唯一の例外として存在したのが自衛隊による封鎖が完了する前の実況動画であった。
たまたま別件で近隣に滞在していたおかげで、自衛隊の災害派遣より前に現地入りできた中堅のチューザーが一人だけいたのである。当時の彼にとっては単なる被災地の実況――不謹慎な言い方をすればお手軽な視聴者数稼ぎの機会を得ただけであり、自分のツキに小躍りする軽い心境でしかなかったであろう。
実際のところ、上げられた実況動画は傾いた電柱や建物の割れた窓の被害をチューザーである彼が大袈裟に驚愕してみせる凡百のものでしかなかった、と言われている。削除される前にこの動画を観た者達の話によればそうである。
そう、少なくとも前半に関しては。
大袈裟に街の惨状を伝える中堅チューザーの身に何が起こったのは分からない。建物の崩壊などの二次災害に巻き込まれた訳ではないが、何が起こったのかそれ以上のことは判然としない。
不意に彼の手を離れ地に転がるビデオカメラはあらぬ方角を移すだけであり、ただチューザーの悲鳴だけが画面外に虚しく響いた。
『助けてくれ!』という絶叫。
『放せ!』という更なる絶叫。
『掴めない!?』と云う謎の絶叫を最後にチューザーの音声は途切れ、間を置かずに配信映像そのものが砂嵐に変わり、そこで実況は終了となった。
釣り動画だという者もいる。チューザー引退ついでの度を超えた悪巫山戯だと怒る者もいる。
真相はどうあれその中堅チューザーの動画配信はその日を境に途絶え、問題の動画自体も動画配信サイトの規約違反という理由で削除された。
話がそこまでであったなら、知る人ぞ知る『ネット上の怖い話』で済んでいたのかしれない。だが、中堅ではあった彼には同レベルのチューザーとの交流がそれなりにあり、彼の『失踪』の謎を解くというお題目で彼等は後追いで常沼町に現地入りした。
当初の震災地の実況の時以上に再生数目当てであることは言うまでもないが、彼等なりに友情もあったのだろう。しかし彼等全員が現地に駐留している自衛隊に阻止される状況に変わりはなかった。
ドローンを準備してきた者もいたが、それを飛ばす余地も無い厳重な警戒であった。
だが町自体には入れなかったとは云え、町に到着するまでの実況を阻害することは流石の自衛隊にも不可能である。チューザー達が揃って自衛隊員に押し問答の末に阻まれる複数の実況動画が悪い意味でネットユーザーの注目を引き、それが呼び水となって削除された筈の最初の中堅チューザーの動画も――物好きにも保存していた者がいたのか――散発的にネットの片隅にアップされ拡散されていった。
後は『ユア・チューズ』上での動画のアップと削除のイタチごっこの状況が発生し、それが新たな様々の無責任な憶測を呼ぶことにもなっていた。




