第6話 「選択」
セルジオは、怪物を殺した。
悠真の本気の拳を、軽口を叩きながら受け流していた化け物をだ。
それも一瞬のうちに。
「それで、実際に会った感想は?戦ってみてどう思った?」
「はぁっ?感想?」
セルジオは気持ちの悪い笑みを浮かべながらうなずく。
「……死ぬと思った。確かにあんたの言った通り人間じゃないんだな。フォーグナーってのは……。」
「うん。良かったね。僕がいたおかげで死ななくて済んだんだから。」
ため息をつきながらも、悠真は礼を言った。
人ではない。
見た目は確かに、そうだった。
でもなんだか。
「君も何か思ったことがあるみたいだね。」
「……なんというか。思っていた怪物と全然違って。」
「汐苑もそう思ったのか?」
悠真も似たような違和感を感じたらしい。
正気を失っていた。
違う。あの感じは。
「精神はあの警官のまま、何かに心の底から虜にされているみたいで……。」
「ふ~ん。フォーグナーを、獣みたいなものと思っていたわけだ。」
「初めはな。でもそんな簡単な言葉で言い表せるもんじゃなさそうだ。」
悠真が頭を抱える。
……なんとなく気持ちが分かる気がする。
ただ人の姿をした怪物を止めるだけだと思っていたのに、本当に人を殺すことになるなんて。
「考えが甘いよ……君たちは。」
そう言いながら、さっきまで、警官がいたはずの場所に目をやったセルジオは、両手を合わせる。
「……とは言え、詳しく話さなかった僕にも責任はあるか。」
セルジオは、僕たちを見つめた。
「もっとよく考えるといいよ。これからかかわる世界がどんなもので、どんな不可解が待っているかってことをね。それでも、友達を助けたいっていうなら、あの路地に来なよ……。」
そう言い残し、セルジオは消えていった。
「……悠真、大丈夫?」
屈みこんで動かない悠真の元へ、僕は近づく。
返事がない。
「悠真?どうしたの。」
揺すってみても全く動く気配がない。
「ちょっと、ねぇ、悠真!」
「おう、悪い悪い……動けそうにねぇわ。」
そういう悠真の体はボロボロで、攻撃を受けたであろう手は赤く腫れてしまっていた。
「ホントにとんでもない。怪物だった。師範より強いんじゃ……。」
突然、悠真の顔が血の気が引いたような表情になった。
「なあ、今何時だ。」
「えっと、今は……。」
スマホを取り出し確認する。
これはまずい。
スマホを見せながら、悠真に絶望の報告をすることになってしまう。
「5時48分……ここからじゃどう足掻いても道場につく頃には遅刻だね。」
苦笑いをしながら、見つめ合う。
「しょうがないな。こうなりゃ、急がす普通に歩いてくかな。」
悠真はおもむろに手を差し出してくる。
「分かった。僕も一緒に道場に行って、納得してもらえるように話すよ。」
肩を組み、悠真を支える。
道場に向かう途中で、僕は思った。
悠真、本当はかなり気にしてるんだろうな。
本当はどうしようもなくビビりで、あの事件が起きた時も一番怖がっていたはずなんだけどな。
あの頃と、別人みたいに変わったな。
……もしかして、僕のせい?
ずっと分かってはいた。
あの和泉の死から、立ち直らないといけないことくらい。
いや本当は、気持ちの整理はついていた。
初めは本当に取り乱していた。
そのたびに悠真が助けてくれて……。
悠真がいてくれたおかげで、今日まで生きることができた。
だから怖かったんだ。
悠真まで僕の前からいなくなったら……。
だから悠真の気持ちを利用してしまった。
僕は最低な人間だ。
悠真の隣にいてもいいような人間じゃない。
それでも……。
「悠真は……まだセルジオの手伝いを続けるの?」
「ああ。当たり前だろ!」
やっぱり……。
そういう悠真の顔は引き攣っていた。
まだ、あなたはそこにいたんだね……。
僕はふさわしくない。
それでも今だけは……。
今度は悠真を助けるために。
もう少しだけ隣にいてもいいよね。




