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ライフォイグナ  作者: ハル氏ら
第1章 

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第5話 「フォーグナー」

ギシギシと、床の軋む音が近づいてくる。

その気配が近づくにつれ、見える霧の濃さが増していく。


「来たみたいだ。」


セルジオは、初めから知っていた様な口ぶりで、ほくそ笑む。


「来たって、何が?」


その答えを聞く前に、部屋の扉が開く。


……何だ?警察が捜査に戻ってきたのか。


「こら!君たち、どうして勝手に入ってきているんだ。」


「すっ、すみませんでした。」


そうだ。

ここは、規制線の張られた事件現場だった。


「出ていってもらおう。君たちのような一般市民が入っていい場所ではない。」


「はい。すぐに出ます。」


警官の隣を通りすぎた、その瞬間。

ズキン!と電流が走ったような、大きな衝撃が頭を走った。


……そういえば、この人以外の警官の姿が見えない。

というか、そもそもセルジオの魔法で、この周辺に人は来ないって言っていなかったか?


頭の中で、何かが危険信号を発している。

その予感を頼りに、振り返る。


おいおい、マジかよ。


悪い予感の通りだ。

警官がこちらに向かって襲い掛かってきていた。

その片腕は黒く濁っている。


「あ~、気付けたんだ。」


やがてその腕は鉤爪のような形に変わった。

そしてその切っ先が向かう先は。


「汐苑!!!」


刹那、俺は全存在をかけた拳を襲い来る敵に叩き込んだ。


ズッ、という鈍い感触ととともに警官は後ろに吹き飛んでいった。


「へぇ、やるね。悠真くん。」


「何だ?今、あの人の手が……まるで獣みたいな。」


さっきセルジオが言っていた言葉を思い出す。

これらの事件には、フォーグナーが関わっている。


なら、目の前にいるこの人は。


「痛った。痛たたたた。キミぃ、なんてことをするんだい?公務執行妨害だぞ?」


「あなた、いったい何ですか。それにその腕は。」


警官の姿をしたそれは、少し思考を挟んだ末にこう答えた。


「想像とは違う生活に、組織のためにしっぽを振る犬みたいな生き方にイライラしていたんだ。自由な、猫みたいに生きたい。」


そう言うと、黒く染まり切った腕に目を向けた。


「ここ一、二か月前くらいからかな。今まで悩んでいたものがすっと消えるような感覚がしてね。それからかな。この腕が生えてきたのは」


その様子はまるで、異様に思えるその姿に、見惚れているかのように見えた。


「清々しい気分なんだ。みんながこんな風に生きれたらって思ってね。」


そう言い終えると、不敵な笑みを浮かべる。

同時に、再びこちらに向かって襲い掛かってきた。


「待って、あなたのやろうとしていることは、ただの人殺しだ。ちょっと考えればわかる。きっとその腕に変な影響を受けて……自分をしっかり持たないと……!」


どんな声をかけても、聞く耳を持ってくれない。


「さっきのパンチ、効きましたよ。」


右から振り下ろされる爪を交わす。

でも一瞬で切り返してきて、今度は逆方向から襲い掛かってくる。


「そりゃ……どうも。」


一手一手が流れる川みたいに繋がっている連撃。

とんでもない。

本来持ちえないはずの武器を、こんな精度で使いこなしているなんて。


「何か武道を習ってるんですか?」


しかもこんなに話しかけてくるせいで、かなり気が散る。

避けるのに精いっぱいで反撃ができる気がしない。


いや一番は、相手が怪物らしくないせいだろう。


フォーグナーに吞まれたわけじゃないのか。

この人、意識が残っているじゃないか。


「悠真!危ない。」


汐苑が叫んだ。


やべッ……。


黒い爪ばかりに気を取られ、反応が遅れてしまった。

普通だったはずのもう片方の腕までもが、人の身ではなくなってしまっていたことに。


「君にもこの感覚がわかるはずだよ。」


迫りくる死神の鎌のような、切っ先。


「……分かるわけがないだろう!」


その一瞬の間に出した……決死の決断。

迫ってきていた腕に足を掛け、降りかかる力の向きのままに、蹴り込み……飛ぶ。


「うお。」


蹴られる勢いに押された怪物は、バランスを崩し倒れた。


「危ないな。まだ死ねないんだよ。」


奇跡的に無傷で、逃れることができた。


だが、まともに戦えるだけの集中力が、もう今の俺には残っていなかった。


「逃げよう!汐苑!」


近くにあった窓から外に飛び出そうとした。


「うぼはぁ!?」


苦しむ声に思わず振り返る。


「……本当にどうなってんだよ。」


はじめは確かに人間だった。

姿も仕草も、俺たちと何も変わらないように見えたのに。


腕だけだったはずの、黒い影がどんどん全身を飲み込んでいっている。

それだけじゃない。


獣のような姿へ変わろうとしていた。


「うぐぅ。ぐ……ぐがぁあああ!?」


「そこまでだ。」


セルジオがそういうと同時に、右腕から強烈な光の筋が放たれた。

その光が怪物を包み込んでいく。


「ぐッ……ぐぅぅぅ……。」


光の中で影は小さくなっていく。

そして光が晴れた時には、あの警官の姿も怪物も、何もかもが跡形もなく消えていた。

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