第4話「異変」
セルジオと話を終えた後、俺と汐苑は、再びあの路地裏に帰してもらった。
もう夕暮れで、ただでさえ光の入り込みが少ないこの場所は、かなり薄暗くなっていた。
「じゃあ、気をつけてね。」
セルジオは俺たちを放置したまま帰っていった。
「……ひとまず今日は家に帰ろ。」
「それがいい。俺、疲れすぎて頭痛いんだわ。」
頭がズキズキするし、耳鳴りもする。
あの話を聞いた後……いや、もっと前。
和泉に頬を切られた時くらいか?
きっと突然の出来事で、ショックが続いているんだ。
……にしても今日は、本当に色々なことが起き過ぎだ。
「まあゆっくり休もう。明日もセルジオに会わなきゃいけないんだし。」
「ああ、夏休みで良かったよ。まだ普通に学校がないだけマシだ。補習は残っているんだが……。」
まあ……なんとかなるか。
「じゃあまた明日な!」
「うん。バイバイ!」
汐苑が家に入っていったのを見届け、俺は、自分の家に向かい始めた。
その頃には、もう日は沈み、辺りは真っ暗になっていた。
8時って、もうこんな時間かよ。
母さんが、心配する。
少し急ぎ足で、帰っている道中。
何だ、これ?
細い毛の束のようなものが見える。
それが、どこかへ続いていた。
どこに続いているんだ?
触れようとした。
でもそれは幻覚だからか、触ることができない。
少しずつ太くなっていくそれに目を奪われながら、その先にあるものを追い始めていた。
なんかモザイクみたいに目が霞むな。
そう思っていると、誤って人とぶつかってしまった。
「わっ!すっ、すみません。」
「……。」
少し嫌そうな顔をしながらどこかへいってしまった。
結局、あの毛も幻覚でしかなかったようで、それ以降全く見えなくなった。
ーーー次の日、喫茶店で。
「そんで、そのまま家に帰ったんだけど、何だったんだろうな、あれは。」
「君も察していたように、疲労による幻覚だろう。とにかく、無事に帰れたのであれば何よりだ。」
セルジオは、紅茶を飲みながらそう答えた。
魔術師が、そう言うんだったら、そう言うことなんだろう。
でも、幻覚というには、はっきり見えすぎていたというか……まあ、いいか。
「で、そもそもどうやって探すんだよ。」
「ニュースを見てきたかい?」
「ニュース?」
「ああ、というか最近のニュースは見ているかい?」
最近のニュースといえば……。
「殺人事件とか、多いような。」
「そう。その起きている事件の原因は、フォーグナーにあるんだ。」
嘘だろ。
もう何件起きているか分からないぞ。
「じゃあ、その事件現場周辺を探るってことですね?」
セルジオは笑顔で頷く。
「最近事件が起きた現場。ちょうどこの近くなんだ。さっそく今から向かうよ。」
今からって、どのくらいかかるんだ?
「今日は、空手の稽古があるんだけど……。」
「僕も、昨日遅かったから、今日は早めに帰らないと……。」
「大丈夫さ。一件だけ、ホントに今から行く一件だけだから。それだけ付き合ってよ。」
うっわ〜。
自分たちよりも年上とは思えない表情をしていて、俺も汐苑も少し引いている。
「何だその目はぁ!目上の人に対して失礼だろう。」
「はいはい、分かりましたから。早く行って終わらせましょう。」
セルジオは、不機嫌そうな顔を浮かべた。
納得いってないようだったが、しぶしぶ俺たちと一緒に事件現場に向かった。
「規制線が張られてるけど、本当に入れるの?」
汐苑が、周囲を気にする。
だが、自信満々の様子でセルジオは答えた。
「僕が誰だか、お忘れかい?人除けの魔術ってのがあってね。ほら、そもそも誰もいないじゃない?」
確かに、辺りに人の気配は全くなかった。
「ってことさ。さあ、入るよ。」
言われるがままに俺たちは、建物の中に入る。
中は意外に綺麗な状態で、争った形跡があるわけではなかった。
黒い……影?
遺体が倒れていたであろうところには、シミのようなものが広がっていた。
ただ、血が乾いて変色したものとは、どこか違う様な気がした。
「汐苑は、見ない方がいい。」
咄嗟に、汐苑の目に入らないように隠した。
「ありがとう、悠真。でも、もう前に進まなきゃ。」
そう言って汐苑は、隣に座り込んだ。
「うん。大丈夫。」
「そうか。なら良かったよ。」
トラウマ、乗り越えることができたんだな。
なんて感慨に耽ってしまった。
「分かるかい?これが奴らの痕跡さ。」
「血ではないんですよね?」
汐苑が、冷静に質問する。
「そうだね。奴らの力がこびりついているんだ。」
「魔法か何かを使ったってこと?」
「……。」
なんだ?
また変なものが見える。
部屋にある痕跡全てから、黒い毛の様なものが飛び出ていた。
そしてそのすべてが同じ方向へ向かって伸びている。
またどこかへつながっているのか?
その線を目で追う。
前と同じだ。
先に進むほどだんだん太くなっている。
何でまた同じ幻覚が……うわ、また視界がボヤけてきた。
何だろう。
ものすごく嫌な予感がする。
ガチャ……ギィィィィ。
突然、扉の開く音が響き渡った。




