第3話「真実」
暗闇に消えていった友の姿を見届けた僕たちは男を掴む手を緩める。
「……。」
目の前の青年は怒っているような、呆れているような、そんな表情をしていた。
「どうして止めるかな〜。」
思いっきりため息を吐いた瞬間、青年から一気に覇気が抜けていく。
「……止めるも何も、なんで人を殺そうとした?」
悠真が、真剣な顔で聞いた。
「う〜ん。そういうことか。確かに君たちの前では、刺激が強かったかも。すまなかった。」
「そういう問題じゃないんです。あなたが殺そうとしたのは、僕たちの友達なんですよ。」
僕は、怒りのままに言葉をぶつける。
その勢いに圧倒されたのか、青年は目を丸くしていた。
「君は……まあいいか。友達って言ったね。少なくとも話を聞くべきだったようだ。」
納得してくれたのかな?
頭を掻きながら、自ら破壊した壁に触れた。
「まず場所を変えよう。少し騒ぎ過ぎたかも。」
次の瞬間、何事もなかったかのような状態に一瞬で戻してしまった。
「凄い……これってもしかして魔法?」
「ふふ、そんなキラキラした目で見られるのは、恥ずかしい。」
心なしか嬉しそうな様子を見せる青年はこう名乗ったんだ。
「僕は、セルジオ。世界の理を読み解く魔術師だ。」
それと同時に世界が一瞬暗転した。
再び視界が戻ると、あたりは山の中で、目の前には小さな小屋があった。
「さあ、入るといい。僕の隠れ家だ。」
「今のって、転移魔法?はあ、もうよく分からないよ。」
悠真は、衝撃のあまり頭がパンクしかけているみたいだ。
「ははは、色々疲れているんだろう。何か飲むといいさ。ゆっくり話すとしよう。」
セルジオは、冷たいお茶を出すと席に座るよう促す。
「さて、君たち二人が一番知りたいのは、僕が彼を殺そうとした理由だろう?」
「そうです。」
「そうだな。まず君たちが友と呼ぶ彼の正体から話すべきだ。」
「あれは和泉です。」
得体のしれないもののように扱われている気がして思わず、カッとしてしまった。
「汐苑、まずは話を聞くんだ。」
でも、悠真が止めてくれたおかげで、ちゃんと気持ちを整理することができた。
「その和泉くんを含めて、彼らは、魔法生物と呼ばれる生き物なんだ。」
「彼ら?」
「そう、今僕たちが追っているのは、他の生き物に取り憑いて、進化する厄介な子達なんだ。」
通常であれば、魔法生物は保護するのが基本だそうだ。
でも和泉達に取り憑いたそれらは、コントロール不能で、扱い切ることができないと判断されたんだって。
「フォーグナー、僕たち魔術師は、彼らをそう呼んでいる。」
「……そうなんですね。」
「でも、和泉に化けたフォーグナーは、明らかに和泉しか知らないようなことを知っていたぞ。」
悠真が疑問を投げる。
「そう、厄介だよね。確かに、彼は本物とも言える。その記憶も、心も、魂も。でも、その体は偽物だ。」
「何が言いたいんだ?」
「そうだな、ウイルスが増える仕組みを知ってるか?フォーグナーが取り付く時、その働きに似た反応が起こる。実際は、もっとタチが悪いものけど。」
「聞きたいのは、そこじゃない。ならあいつは紛れもない、和泉本人ってことだろ?」
セルジオを目を細める。
「……そうだね。確かにそういう解釈もある。」
「じゃあ、なんで殺そうとしたんだ。」
「一つ聞くんだが。彼は死んでいたんだろ?」
冷静に、ただ事実を確認してきているだけ。
「そうだよ。」
「一度失われたものは戻ってこない。それはどうしようもない真理なんだよ。生まれ変わったのなら、別ではあるけどね。」
「生まれ変わった……。」
和泉本人も確か……。
「だから君たちの知る和泉くんとは違うんだ。彼はフォーグナーという新しい命として生きている。」
「ただ生まれ変わっただけじゃないんだろう?」
「察してくれるのは、ありがたいな。そう、さっきも言った通り、フォーグナーは進化するんだ。それが世界にどんな影響を与えるか分からない。」
「だから成長し切る前に殺すんだな。」
仕方がないと言い切りたくない。
やっとまた会えたばかりなんだから。
10年だ。
僕たちがまた出会うまでにこんなに期間が……。
「そもそも進化するまでにどれだけかかるんです?」
「一月、いや、あれ?う〜ん、詳しくは分からない。」
「10年です!」
僕は大きな声で叫ぶ。
「和泉が死んだのは、10年前。彼は、完全にフォーグナーに取り込まれていましたか?」
「……へぇ、そんなことが。なるほど、確かに……それが事実であれば。」
セルジオは、目を大きく見開いたまま声高らかに笑い出す。
「前例のない事態だ。それだけの期間、フォーグナーの侵食に耐え続けたなんて。」
「フォーグナーから救い出す方法もあるはずです。お願いします。僕らの友達を助けてください。」
少し考えた後、セルジオは手を差し出してきた。
「その和泉くんは、助けてあげるよ。」
「本当ですか!?」
「ああ、でも君たちにも手伝って欲しいんだ。」
「もちろんです。」
よかった。
これでようやくまたみんなで会えるんだ。
「ただ、他のフォーグナーに会った時に邪魔をしたら、容赦しないからね。」
何んというか、魔術師というものが、決して相容れないものだということが、分かった気がした。
それでも僕は、利用しなければならない。
和泉を救うために。




