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ライフォイグナ  作者: ハル氏ら
第1章 

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第15話 「無差別に、ただ無慈悲に」

なんというか……すごく複雑な気持ちだ。

先生に感じていた安心感が、偽物なような気がしてならない。


セルジオと同じ、魔術師。

それが、こんなに普通に紛れ込んでいた事実。

それ以上に、同じ学校に通う子にもフォーグナーの犠牲が出たことに震えている。


身体中を炎で包まれたあの生徒は、窓際で倒れている。

その姿を見て、自分のやってしまったことを実感した。


きっと火を消そうとしていたんだ。


開いた窓から入る雨に打たれ、生徒は濡れていた。


「そうね。学年は違えど、同じ学校に通う生徒だもんね。そういう気持ちにもなるわ。」


「……先生、僕は、フォーグナーを許せない。」


ずっと、楽観的で、本当に見るべきところを見てなかったのかもしれない。

今、感じているこの気持ちが、これまでの僕が間違っていたことを教えてくれている。


「そうだね。私の生徒にまで、手を出したことを後悔させてあげないと……って、あれ?」


何かに気づいたように、先生は、倒れた生徒の体を触り始めた。


「息をしている……。」


「本当ですか?」


感情のまま、僕も胸に手を置いた。

確かに動いている。


「これは……。フォーグナーが進化してしまったのかもしれません。」


その言葉を聞いた時、前にセルジオの言っていた言葉をうっすら思い浮かべる。


その進化とこの生徒が生きていることに、どんな関係があるのだろう?


「元々、死体に取り憑いて模倣する最低な奴らよ。でも、これは……。」


「とにかく、この子は生きているんですね?」


「目を覚まさないことには、確信できないけど、多分ね。」


そのまま、生徒を置いて、先生は、職員室を出て行った。


「あの子は、そのままでいいんですか?」


「白崎ちゃん、今、この学校そのものがおかしいことになってるのに気づいてますか?何が起きるかわからない。そう言う時には、物事の優劣を考えなきゃ。」


……確かにそうなのかもしれない。

今、僕が、あの子のためにできることは何もないわけだし……。

さっきの状況をどうにかできたこと自体が奇跡なんだ。


今は、先生を頼るしかない。


「これから、どうするんです?」


「まだ、何体かフォーグナーの気配を感じる。それを探し出して、倒さない限りこの校舎からは出れないわ。」


やっぱり、まだどこかにいるんだ。


廊下を歩きながら、色んな教室の中を覗いてみる。

僕には、何かがあるようには見えなかった。


「先生には、何か感じ取れるものがあるんですか?」


「マナの乱れを感じるの。今も、また一つ近づいてるのを感じるわ。」


「早く言ってくれません……それ。」


唐突すぎる。

手伝うにも準備をしないと、何もできない。

何か魔術を、紙にルーン文字を書き込まないと。


火はダメだ。

もう、苦しませるようなことはしたくない。


「来るわよ。白崎ちゃん、備えて。」


少し邪魔ができればいいんだ。

これなら、どうかな?


そう思って、ルーンを紙に記す。


「やっぱり、何かおかしいわね。」


さっきの時と同じだ。

人の形をしているだけの黒い塊が、僕たちに襲いかかる。


「白崎ちゃん、牽制頼んだわよ。」


「あっ、ちょっと待ってください。」


えっと、この文字の読み方は……。


本を取り出し、たどたどしく読み上げる。


「い…イン…ᛁᛗᛈᚪᚳᛏ(イ…ンペオー…フェル)」


放り投げた紙が、フォーグナーに当たる。

ドッ!と言う鈍い音と共に、吹き飛ばされた。


時間稼ぎにはなりそうだ。

そう思った直後。


「ギィイイイン!」


突然、フォーグナーが叫んだ。

頭が割れるみたい。

まるで、甲高い金属の金切り音みたいだ。


「急に何なんだ、この音は。」


「色んなところから聞こえてくるわ。仲間を呼んでいる?」


その音と共振し、呼応するように同じ音が聞こえてくる。


パリン!


至る所から、窓ガラスの割れる音が聞こえてくる。

今、何が起きているのか全くわからない。


「白崎ちゃん、私のそばから離れちゃダメだからね。」


笑顔を崩さない先生の顔を見て、すごく安心する。

きっと、セルジオみたいに何とかしてくれるはずだ。


「来たわ……ってこれ、嘘でしょ?」


10……20……そんな、どうして……誰が?

こんな数、見てられないよ。


色々なところから、どんどん出てくるフォーグナーたち。


……怖いよ……僕は、どうすればいいの?


「本格的に……まずいことになったわ。」


「どうすればいいんですか?先生!?」


もう一度、本の中から、新しい文字を探した。


また火を使って、一網打尽に?

でもそれだと、取り込まれた人が苦しむ……。


ただ、ひたすらに捻り出そうとした。

その途中で、先生が肩を叩いてくる。


「白崎ちゃん、前を見て……。」


「先生も、早く準備しないと!二人でこんな数、相手に、できるわけないんだから!……はっ?」


フォーグナーたちの姿が一斉に崩れ始めた。

糸が綻ぶように体が、枝分かれし始める。


触手みたいだ。

タコの足みたいだな。

クネクネして、伸びていって、どこに向かってるんだろう?


「こんな時に何ぼーっとしてるの!ちゃんとしなさい。」


「一体、何ですか?これ……。」


生えてきた触手が、別のフォーグナーと繋がり始めていた。

絡み合うように、混ざり合っていく姿が見える。


合体しようとしているの?


「白崎ちゃん!早く火の魔術を使って!」


「でも、あの中にいる人たちはまだ生きてるって。」


「そんなことを言っている場合じゃないわ!」


先生が、僕の肩をがっしりと掴んでくる。

その手から、震えが伝わってきた。


「いい?さっきも言った通り、優劣を考えてみて。今、目の前にいるのは、見たことのない速さで成長している怪物なの。あんなのが街に放たれたら、何もかも失われてしまうわ。」


「でも、何で僕が?」


「それは……私にこの数をどうにかする力がないからよ。私は、あなたのような魔術を使えない。自分の身体能力を強化する魔術だから。」


ああ、悠真が、戦う時もこう言う気持ちだったのかな?


さっき見た傷ついた人の姿。

自分の手で何かを壊すという重み。


こんな恐ろしいことを、ずっとあの人に押し付けてきたなんて……やっぱり僕は、最低だ。

でも、この気持ちを少しでも僕が背負うことができたのなら……。


そうだ、僕がこの力を学んでいる理由。

悠真の隣にいるための口実。


僕は……悠真が傷つかないために。


「先生、火よりも強そうなものって、何かありませんか?」


「爆発とか?」


爆発か。

合体を止めるなら燃やすよりも、吹き飛ばしたほうがいい。


ごめんなさい。

でも、みんなが痛いのは一瞬だから。


一つでは足りない。

全部吹き飛ばすには、何枚も、ルーンを書き込み続けないと。


両方の手で持ちきれないほど、ルーンの玉を作った。

それを一気に放り投げる。


「ᛖᛪᛈᛚᛟᛋᛁᛟᚾ(エクスプロージョン)!!!」


世界が明るく見えるほどの光が、視界を包んだ瞬間。

一気に熱気が襲いかかってきた。


ゴォォォ……。


衝撃で周りが揺れているの?

熱気が強すぎて目を開けられない。

一体、フォーグナーたちはどうなったんだ?


「凄いわね、白崎ちゃん……ちゃんと、できたんだよ。」


「終わったんですか?」


目を開けると、天井や壁には大きな穴が開いてしまい、あの大量にいたフォーグナー達は跡形もなく消えていた。


「この辺り崩れそうだわ。外に出ましょう。」


開いた穴から、僕たちは外に出た。


「白崎ちゃん。本当は、私が助けるつもりだったのに、助けられちゃいました。」


「僕のことは気にしなくていいんです。ただ、やっぱり、初めの子みたいに助けてあげられなかったことが、僕は悔しいです。」


先生も同じ気持ちなのか、顔を歪めていた。


「私は、ここでするべきだったことを果たせなかった。子供達を守ること、それが私に与えられた指令だったのに。」


「さっきのフォーグナー達も、生徒だったのでしょうか?」


その時、先生が答えるよりも先に、謎の声が、響き渡った。


「辛いよね。自分の知っている子を手にかけるのは。」


どこか聞き覚えのあるその声に、僕の背筋が凍った。

アイツだ。


妙に耳をなでられているように感じる声が、あの日の出来事を思い起こさせる。


「この声どこから!?何者?」


ズン!


職員室の方から、何やら音が聞こえてくる。

その一帯が揺れているように見えた。


「先生。生徒思いなのは、大変素晴らしいことですよ。でも初めから最後まで突き通さないと。あんなところに放ったらかしにして〜。」


ドォン!


強い衝撃音と共に、目の前の壁が崩れた。

その中から、これまで見たことがないほど、大きなフォーグナーが現れた。


その瞬間に、ようやく理解した。

この街で起きている全てが、僕と悠真、和泉にとって、逃れることのできない事件だったんだ。

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