第13話 「見え始めた綻び」
頭の中が、モヤモヤでいっぱいだ。
空を見ながら、何となくぼーっとしていた。
雲が、わたあめみたいにふわふわ浮かんでいる。
甘いものが食べたいなぁ。
少し手を伸ばせば、掴めそう。
そう思って、手をかざした時。
「おぉ!手を上げるなんて珍しいじゃない。じゃあ、白崎ちゃん!答えてちょうだい!」
「うへぇ?はぁい!?」
ダメだ。
何も聞いてなかったから、何をすればいいのかわからない。
「ごめんなさい。背伸びをしただけで……分かりません。」
「また違うこと考えてましたね?もう、そんなんじゃ。進級できなくなるんですからね。ちゃんとしてくださいよ!」
この授業の担当教師、加賀美先生に怒られてしまった。
流石に、進級させてもらえないのはまずいよ。
勉強しなきゃいけないな。
ああ、でも早く覚えなきゃいけない、ルーン文字も。
どっちも大変すぎて、手がつかないよ。
「しょうがないですね。霧矢ちゃん、代わりに答えてください。」
「仕方ないですね。」
そう言って、席を立ち、前に向かった悠真。
黒板に書かれた数式の答えを見ても、僕にはさっぱりわからない。
「正解!流石、霧矢ちゃんね!」
「……。」
どんな事もそつなくこなせる悠真。
それに対して僕は、何をしてもうまくいかなかった。
どうしてなんだろう。
セルジオからもらったルーン魔術の本のおかげで、使い方は分かった……。
でも、そもそも言葉だったり、発音だったりが覚えられないから、意味がないんだ。
せっかく悠真のために何かできるチャンスだっていうのに……。
もう一度、魔術の本に目をやってみる。
でも、びっしりと書いてある文字のせいで頭が、クラクラしてくる。
「う〜ん。そろそろ時間になりますね!今日の補習はこれで終わり。みんな、お疲れ様です!」
先生は、教室から出て行った。
結局、ほとんど覚えられなかったな。
まだ、初日だ。
きっと根気よくやってればできるようになるはず。
カバンに教科書をしまい始めた悠真。
今日も一緒に……。
そう思って、声をかけに駆け寄った。
「あ〜、悪い。今日はちょっと用事があるんだ。先に帰らせてもらうわ。」
えっ?
嘘嘘嘘、どうして?
「あんまり俺に合わせてると、お前が損することになるぞ。主に学業の方にな。」
うっ、それを言われてしまっては、何も言い返せない。
「たまには、先生にじっくり教えてもらった方がいい。そろそろ、汐苑も学習しなきゃだろ?」
遠ざかっていく背中をただ見ていることしかできなかった。
久しぶりに一人の時間。
……そうだ。
僕は、悠真に心配かけないって決めたんじゃないか。
変わってみせる。
そう思って、僕も教室を出た。
でも、目の前の道は、いつもと同じはずなのに、何だか長いように感じてくる。
それに、いつぶりだろう。
家族や悠真以外の人と最後に何かを話したのは、もう何年も前だ。
先生を頼っていいのかな?
いつもあんな調子の僕のことをあの人は、どう思ってるんだろう?
そんなことを考えていたって、どこにも進めない。
行くんだよ、汐苑。
そう自分に言い聞かせて、先生の元へ向かう。
職員室の前まで来ると、小窓から先生の姿が見えた。
机に座って、パソコンを触っているみたいだ。
深呼吸……落ち着いて。
ただ聞いて教えてもらうだけじゃないか。
悠真と話すのと何も変わらない。
コンコン。
「失礼しまう。」
噛んでしまった。
「加賀美先生はいますか?」
「は〜い……って、白崎ちゃん!どうしたんですか?」
「……実は、分からなかったとこを、あの、教えて……もらいたくて。」
先生の顔を見た。
手を止めて、目を丸くしている。
変だったのかな……。
そんな僕の心配とは裏腹に、先生は、にっこりと笑顔を見せた。
そして、僕の前に飛び出してきて、手を握ってきた。
「一体、どうしちゃったの!先生、白崎ちゃんがそう言ってくれて、とっても嬉しいです!」
「えぇ……その、良いんですか?」
先生は首を縦に振り、任せろと言わんばかりに胸を叩く。
「それで、どこから教えて欲しいんだっけ?」
「この二次関数っていうのが、全部わからないんです。」
「それはね……。」
少し引っかかる部分も多い。
それでも、すごく分かりやすく教えてくれる。
それに話しているうちに思った。
なんというか、すごく落ち着くんだ。
何で今まで気がつかなかったんだろう。
悠真たちにしか感じなかった安心感。
この人からも、感じる。
こんなに近くに頼ってもいい人がいたんだ。
その事実に心が温かくなる。
ふと……先生の手が止まったのに気づいた。
「先生、どうしたんですか?」
「……みんな、帰っちゃったのかしら?」
言われてみると、確かに周りが、凄く静かな気がした。
それに何か……おかしい。
いつの間にか、外が暗くなっていたんだ。
時計を見ても、そこまで時間は経っていないはず。
太陽が雲にを隠れたのかな?
そう思っていると……ゴーゴーと大きな音を立てながら、雨が降ってきたんだ。




