第11話 「その術があれば」
暖かく心地の良い光を感じて、目を開ける。
空はすっかり青く澄んでいて、煌々と燃える星が浮かんでいた。
ああ、俺は気絶していたのか……。
あの戦いの痕が、嘘のように消えている。
俺が倒したフォーグナーたちはどこに行ったんだろうか。
「目が覚めたかい?いやぁ、ナイスガッツだったね。」
俺の意識が戻ったことに気づいたセルジオ。
水の入ったコップを持ってきてくれた。
「ありがとう。丁度のどがカラカラだったんだ。」
俺は、渡された水を飲み干した。
その瞬間、体の芯からすっと軽くなったような感覚がした。
「びっくりした?安心しなよ。鎮痛剤みたいなものだから。」
「あはは。どんなものかは聞かないでおきますよ。」
「さて、立てるかい?奥で、汐苑君も待ってるから、来なよ。」
どうやら、汐苑も目を覚ましているみたいだ。
小屋に入ると椅子に座る汐苑の姿が見えた。
「悠真!」
汐苑は、俺の姿を見るなり、いきなり抱きついてきた。
「おい、どうしたんだよ。」
「悠真、僕が寝てる間に……ここに連れてきてくれて……こんなにボロボロになるまで戦って……守ってくれてたんだよね。ごめん、また迷惑かけて……。」
なんだ、そんなことか。
「大丈夫だ。別に俺は迷惑なんて思ってないから。それより……お前は会わなかったのか?」
「会わなかったって何に?」
なんだ。和泉とは会わなかったのか?
それを教えてやろうかと、一瞬迷ったが、セルジオがいる手前、和泉のことを考えると今じゃないと思った。
それより今、俺が聞きたいことは……。
「あれから、フォーグナーたちはどうなったんですか?」
「最後の子以外は、全員捕まえてあるよ。」
最後の……。
やはり変貌が始まってしまった人は、殺すしかないらしい。
その変化の先にあるものが、世界に影響が出てしまうから……。
「捕まえたと言ってもどうやって?」
「う〜ん。世界から隔絶したのさ。ゲームとかで、裏世界っていうがあるよね?……イメージはそれに近いのかな。僕の魔術はそこに繋がる扉を自由に作り出す。」
「フォーグナーに汚染された人たちを、その魔術の力では治すことはできないんだな?」
セルジオは首を振りながら、ため息をつく。
「奴らの魔法に、魔術で対抗することはできない。」
「よく分からないんだが、何が違うんだ?」
セルジオは、どこからか本を持ち出してきた。
「創世記、かつて何もなかったこの世界に光が生まれました。光は、空と大地を作り、そこに命を作りました。似たような話聞いたことない?」
「はあ。まあ、少しくらいは……。」
「最後に光は、自らを投影した生命を生み出した。人間さ。そして彼らはその光の姿を見て、こう呼んだ。神さま。」
なんとなく知っている話だし、関係もないように思えた。
「創世の光は、世界へ散り散りになり消えていった。だがその意思は、指輪となり、一人の子の手に渡った。ソロモン。後に魔術の王と呼ばれた男だ。」
「魔術しか出てないじゃん。魔法は?」
「あれ、僕もう言ったつもりなんだけど。」
周りくどいな。
はっきり言ってくれればいいのに。
とは言え、なんとなく察することができた。
「創世の光。その力が魔法っていうことですか?」
汐苑も察したようだ。
「そうそう。そして、ソロモン王が、人々に教えた術。散らばった光かけら、マナを利用して、行使しているのが魔術だ。」
「つまり、魔法のかけらが、魔術で、力が弱いから、魔法に勝てないってことだな。」
「そういうこと〜。」
でも、おかしいないか?
別に魔術で、フォーグナーを倒せていたはずだ。
「魔術が効かないなら、どうしてフォーグナーを倒せたんだ?」
「壊すのと治すのを同じにしてもらっては困る。理を書き換えるなんて、そんなことは魔法使いにしかできない。」
じゃあ、魔法使いにならできるってことか?
「なれないのか?魔法使いに?」
「分からない。そのビジョンが浮かばないからね。」
初めてみた。
ヘラヘラしていないセルジオの顔は。
「魔法が使えないのが、そんなに辛いことなんですか?」
「……いや。ただ、彼女の姿を思い出してしまっただけだよ。僕は……その……魔法使いの弟子だったんだ。」
……んん?
「僕には、その資格がなかったんだ。」
「そもそも、魔法を使える人がいるのか?」
「ああ、いたんだ。でも……もうどこかに行ってしまったんだが。」
すごく悲しそうな顔をしている。
セルジオの見てきた世界って、一体……。
「教えてください。」
「はっ?」
真剣に頼んだ俺に対して、セルジオは、虚を突かれたような顔でポカンとしていた。
「この先、フォーグナーたちと戦うことになった時、今の俺は力不足だ。それに今の話だと、鍛錬次第で、魔法が使えるようになるってことなんじゃないか?」
「ぷははは、ははは、ははははぁ!!!」
セルジオが、顔を真っ赤にしながら大笑いをする。
「君が魔法を?無理無理、君たちどっちも、魔術師にすらなる資格がないんだからね。魔力孔が開いてないんだよ、君たちの体には。ふふふ。」
少しガッカリした。
とは言え、魔法使いと言う存在を知れただけでも、進展だったのかもしれない。
和泉が、人に戻れる可能性が、少しでもあるならそれに越したことはないのだから。
「……でも……確かにそのままの状態の君たちといても、僕自身が安心できないかも。だから……う〜ん。どうしようかな。」
「渋ってないで、何かあるなら教えてくださいよ。」
「しょうがないなぁ。これ、何かわかる?」
そう言いながら、懐に手を入れるセルジオ。
ニヤリとしながら、取り出したものは、見たことのない文字の書かれた石だった。




