15-1 三人で過ごせる最後の時間
「ふぁ~あ……」
追いかけていた白い雲が、私の真上を通り過ぎていく。
どんよりした私の心とは裏腹に、今日も空はカラッと晴れていて、日差しは容赦なく強い。
でも芝生はひんやりしていて気持ちよくて、風はゆるく吹いている。こんな日は、外でだらだらするのが一番だ。
ディースの一件から、早一週間。
私の魔法防壁が破られることはなく、いったん平穏が戻ってきた。
結局、私たちは魔法防壁の中で生活することを選んだ。
開き直って外に出るという選択肢もあったけれど、私が父さんを超えるほど強いという事実は、まだバレていない。
その一点だけでも、隠し通そう。姉さんとの話し合いで、そう決まった。
「暇ねぇ~……」
流れに身を任せることにしてから、悩みは少し軽くなったけど、やる気はまったく戻ってこない。
今日も館の庭で、雲を眺めて終わりそうだ。
鍛錬や魔法の研究でもすれば……と頭では思うけど、体も心もまるで動く気がしなかった。
「ノワエ様」
館の方からディースの声がした。
仰向けのまま顔を上げると、玄関に立つディースが逆さまに見える。
「どうしたの?」
「スティカさんから連絡が入っています」
「……スティカさんから?」
思わぬ相手からの連絡に飛び起きる。
スティカさんの身に何かあったのだろうか……。
胸のざわつきを押さえ込むように息を整え、私は急いで応接室に向かう。
通信用の水晶を覗き込むと、いつも通り凛としたスティカさんが映っていた。
「ノワエ様、お忙しいところ突然申し訳ありません」
「こんにちは、スティカさん。どうしたの?」
「大魔王様から、至急大魔王城に来るようにと仰せつかっております」
「……」
無事な姿に安堵がよぎったのも一瞬で、心がずしりと重くなった。
呼び出される理由は一つ。
八人目の魔王族――つまり私の存在が、公になったのだろう。
「ディースさんと、もう一人の従者も連れて来るように承っております」
ルルカのことも、父さんの耳に入ったようだ。
私と一緒にアザゼル兄さんに仕えさせるかどうか、見極めるつもりなのだろう。
……もっとも、絶対に不合格だろうけど。
「わかったわ、スティカさん。すぐに準備して出発するけど、周辺のこともあるから、いつもより時間がかかると思うわ」
「その点はご安心ください。ノワエ様の準備が整い次第、イレアナ様が直接大魔王城にお繋ぎいたします」
「……姉さん、城にいるの?」
スティカさんは何も言わず、ほんのわずかに頷いた。
「わかった。じゃあ準備ができたら連絡するから、少し待っていて」
「かしこまりました。お待ちしております」
通信が切れると、水晶は淡い水色に戻った。
「……えらく急な話ですね」
「そうね。私にあれこれ考える時間を与えないつもりなんでしょう」
そのうえ、相談できないよう、姉さんを先に呼んだのだろう。父さんにしては、ずいぶん手際がいい。
「仕方ないわ。ディース、準備をお願い」
「かしこまりました。ノワエ様の身支度はルルカにお願いしますので、お部屋にお戻りください」
「わかった。ありがとう」
これが、三人で過ごせる最後の時間になるかもしれない――そんな考えがふと頭をよぎった。




