14-3 手の内が見えてきちゃった
「おっっっっせぇ~なぁ~~~~~」
ノワエと別れた後、俺は予定通りアウレオールスに会いに大魔王城まで来たわけよ。
公務中って言われて応接室に放り込まれて、コーヒーを片手にじっーと待ってんだけどよ……来る気配がこれっぽっちもねぇんだよな。
「いや、マジでおせーんだが」
ソファに深く腰掛けたまま、俺は天井を見上げる。
もう三十分以上は待ってるんだが……いや、さすがに遅すぎだろ。
俺も時間にルーズな方だから他人のことは言えねぇけどよ。事前にアポ取ってんのに遅刻ってどういうことだ。
……いや、俺もアポあっても遅れるときは遅れるな。うん、なんも言えねぇわ。
(ま、もうちょい待つか……)
イラつきを抑えるために、二杯目のコーヒーに手を伸ばした。
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「待たせたな、閻魔大王」
それからさらに三十分。五杯目のコーヒーを飲み干したところで、ようやくアウレオールスが姿を見せた。
「ほんとに待ったぜ。時間ぐらい守れよ~」
「……お前と違って、私は忙しいのだ」
「俺ちゃんも十分忙しいっての」
1000%どころか、10000%は俺の方が忙しい。閻魔舐めんなよ。
「で、用事というのはなんだ?」
「魔界の後継者についてだよ」
アウレオールスの表情が一瞬だけ揺れ、すぐに不機嫌そうに引き締まる。
動揺してんのがバレバレで、吹き出しそうになっちまう。
「魔界のことは魔界が解決する」
俺を威圧するように言ってきたが……いやいや、そんなの効くわけねぇだろ。
だって、俺の方がアウレオールスよりはるかに強い。桁違いに強い。
だからこうして威勢張られても、ガリガリのヤンキーがイキってるのを見るようなもんで、ちょっと可愛く見えちまうくらいだ。
「俺もガッツリ突っ込む気はねーんよ。でもよ、魔界が大戦争になって困るのは地獄なんだわ。だからよ、どう考えてんのかだけ教えてくれよ?」
「問題ないと言っている」
「いやいや、そうは思えねーから聞いてんだっての」
アウレオールスは口を開きかけて止まり、誤魔化すようにコーヒーに手を伸ばした。
……言いたいことあんのに言えねぇって顔してんぞ、こいつ。仕方がねぇ、切り口を少し変えるか。
「周りがなんと言おうがよ、俺はやり方に文句はねーんだわ。実際、あんたが大魔王になっても戦争は絶えねぇけど、歴史ひっくり返して見りゃ死んだ魔族の数は少ねぇしな」
この男のやり方は嫌いだが、比較的平和になってるのは認めざるを得ねぇ。
「あんたがくたばった後よ、アザゼルが同じようにできねーのが問題なんだよ」
「……アザゼルは私の見込んだ息子だ。必ず強くなるだろう。閻魔大王、お前よりもずっと強くな」
それはねぇだろ……と喉元まで出かかったけど、なんとか飲み込んだ。
アザゼルは努力家だとは思う。そこは認める。
けどよ、残念なことに才能が足りねぇ。
そのことは言った本人もわかってるんだろうな。強気に出たってのに黙り込んで、コーヒーの表面ばっか見つめてやがる。
迷ってんのか考え込んでんのか……やけに静かだ。
ちょい間を置いてから、ゆっくりと視線を上げてきた。
なんとも言えねぇ、渋い顔をしてやがる。
「万が一、アザゼルが私の期待に応えられない場合は、ノワエを補佐につけることにした」
「あの女を?」
「そうだ。あいつはそれなりに補助魔法が使えるのでな」
「ふ~ん……」
俺は心底興味ねぇフリをかましつつ、ノワエたちの今後についてサラッと探りを入れちゃう。
「そういやよ、なんか噂流れてんじゃん。魔王族の少女が色欲領の山奥にいるとかいねぇとか。あれ、バレたらどうすんの?」
「アザゼルの娘ということにするつもりだ」
「ほぉ~……」
二人とも嫌がるだろーけど、まぁ筋は通るっちゃ通る……いや、憤怒領のアザゼルの隠し子を色欲領でかくまってる時点でありえねーだろ。
まぁ……ノワエを殺す気はねぇみてーなのは、ちょい安心だな。
さぁ~て、次はディースの話だ。
「堕天使は、やっぱ殺すん?」
「うむ。良い機会だからな。これで天界へのけん制もできるだろう」
アウレオールスは、天界が魔界を狙ってるとガチで思い込でやがる。
もちろん、天界にそんな気は一ミリもねぇ。狙ってるのは、俺たち地獄の方だ。
「ま、堕天使は他に使い道もなさそうだしなぁ~。まぁ、妥当っちゃ妥当じゃね?」
「うむ。お前もそう思うか」
仲間ができたと思ってんのか、アウレオールスの口元がほころぶ。
……こいつも、こんな顔すんのな、とか思っちまう。
(ま、いざとなれば俺様が確保しちゃうけどねぇ~)
面倒だからテキトーに話を合わせてやったけど、優秀なディースを失うわけにはいかねぇ。
それにルルカも、俺が全力で確保するつもりだ。
なんでかって? あの夢が詰まった乳を失うのは、全世界にとって損失がデカすぎるからだ。
……ま、そこらへんを考えんのは、もっと後でいいだろ。
それになんとなーくだけど、アウレオールスの手の内が見えてきちゃった。
これなら俺の意見くらい、サクッと通せるかもしれねー。
気分上々で六杯目のコーヒーを楽しんでたら、アウレオールスがふいに口を開いた。
「時に閻魔よ。お前の同期たちはどのぐらい死んだのだ?」
「あ? なんだそりゃ?」
「閻魔を決めるためには、どのくらいの犠牲が必要だったのか、気になったのだ」
なんでそんなこと気にしてんのかサッパリわかんねぇが、話さねぇと機嫌悪くなるんだよな、こいつ。
「細けぇ数字は知らんけどよ、閻魔の修行って死ぬ前提みてぇなもんだし、最終的に八割くらい死んだんじゃねーの?」
「そうか……」
「マジで、なんなんだよ?」
「……私の境遇と似ていると思っただけだ。私も、魔王族の兄弟たちは、皆死んでしまった」
死んだんじゃなくて、お前が殺したんだろ……と喉まで出かかったが、なんとか飲み込む。
「んで、何が言いてーんだ?」
「……いや、特別な意味はない」
明らかに何か考えてんのに、どうせ口には出さねぇんだろうな、こいつ。
「閻魔よ、魔界の今後については魔界で話を進める。お前は何も心配せず、地獄の管理をしっかりと行えばよい」
「へいへい……。またそっちに都合よさげな案思いついたら、持ってきてやんよ」
「期待しておる」
なんで遥か格下のこいつにそんなこと言われなきゃなんねぇんだよ……と思いつつ、まぁ虚勢なのはわかってるから今は突っ込まねぇ。
「コーヒーごちそうさん。また来るわ」
俺は軽く手を振って応接室を後にする。
今日は顔合わせ程度で終わらせるつもりだったし、このくらいで十分だ。
次回から、しっかり詰めてやる。




