7-4 その後
「って感じで無事に終わったわぁ~」
偽装硬貨の拠点を潰してから一週間後。カーラのところで暇をつぶしていると、事件のその後を姉さんが話してくれた。
あの町にあった拠点はすべて壊滅し、最近力をつけてきていた四神会にも強い牽制ができたらしい。
城下町に流れていた偽装硬貨もほぼ回収され、ひとまず平和は守られたようだ。
「ノワエちゃん、ありがとうね。週末はいつも以上に可愛がってあげるわ」
「それ、ご褒美じゃないですよ……」
「またまた、そんなこと言っちゃってぇ~。すご~く嬉しそうな顔してるわよ。じゃあ、この後はお仕事があるから、また連絡するわ~」
そう言って通信が切れる。綺麗な姉さんの顔を映していた水晶は、いつもの深い青色に戻った。
「無事に終わったようで何よりよ」
いつも通り、私の対面に座るカーラ。
今日はマドレーヌと紅茶を用意してくれた。
「かなり初期の段階で偽装硬貨の拠点が潰されたから、裏の連中には相当な衝撃が走ったようね」
「それなら、仕事をした甲斐があったわ」
これで裏社会が少しでも大人しくしてくれれば、姉さんの仕事だって減る。
「あと、色欲領で派手なことをしたらカーラが襲い掛かってくるって噂が回ってるみたいなんだけど……。何したの、あんた?」
「捕まえる時にあんたの名前を出しておいたわ。髪と目の色も変えて」
私はカーラとまったく同じ色に髪と目を染める。
それを見たカーラは、盛大にため息を吐いた。
「また厄介なことをして……」
「これでまた、あんたの伝説が続くじゃない」
「自分で紡がなきゃ意味がないのよ」
そう言いながらも、どこか嬉しそうなカーラ。
「カーラは裏に戻りたいとか思わないの?」
「まったく思わないわ。向日葵を育ててる方が楽しいし、体を動かしたいときは壊れないサンドバッグがいるし」
「格上の魔王をサンドバッグに使うとは、良い根性してるわね」
「色欲領のお金を食いつぶすニートの魔王様と、財政に貢献してる私だったら、私の方が立場は上じゃないかしら?」
「……まぁ、それもそうか」
「いや、少しは言い返せるように生きなさいよ」
心底呆れた顔のカーラ。彼女のこの顔もよく見る。
「といっても、あんたには逆立ちしても勝てないわけだけど」
「そりゃ、ねぇ~」
カーラが向日葵を愛でている間、私は修行や魔法の研究に明け暮れている。
魔王族と魔神族という種族の差もあるが、それ以上に割ける時間の差が大きい。
「あの頃みたいに、一方的にぼこぼこにしたいわ」
「いたいけな幼女をぼこぼこにしたいって思うの、ヤバいと思うわよ」
「そうかしら? それにあんたはクソガキだったじゃない。わざと向日葵を折りやがって」
「事故だったときも容赦なく殴ってきたじゃない」
私にとって幼少期のカーラは師匠であり、越えなければいけない存在だった。
でもカーラはなかなか相手をしてくれなかったから、向日葵を折り、怒らせて戦っていた。
ちなみに折った向日葵は、回復魔法でちゃんと治している。
「正直、あんたは殴りやすかったのよね。イレアナじゃないけど、あんたって玩具にしやすい何かがあるのよ」
「……それ、捨てられない? 私を玩具にしやすいって言ってる魔族が数人いるから、困ってるのよ」」
「呪われてるから捨てられないんじゃないかしら?」
玩具にしやすいという話は、実はディースにも言われたことがある。
幼いころのイメージが抜けきっていないだけだと思っていたのだが、天魔総括協会の連中にも同じことを言われるので、どうやらそういうわけでもないらしい。
「さてと、私は向日葵のお世話に戻るわ。あんたはどうする?」
「う~ん……。ま、ここでのんびりしておくわ」
「はいはい。じゃあ留守番よろしく」
そう言ってカーラが、本棚から古めかしい本を取り出す。
「またこってりと読めそうな本ね」
渡された本はずっしりと重く、厚みに負けない歴史を感じる。
「私もまだ読んでないから、要約しておいて。じゃあ行ってくるわ」
そう言い残し、カーラはさっさと家を出ていった。
(それじゃあ、読むかー)
カーラに感謝しつつ、それと同時に、なぜ私が要約しなければいけないのかと思いながら、私は本にのめりこんでいった。




