8-1 ルルカのための防御魔法
「んぁ……まぶしい……」
カーテンの隙間から差し込む強い日差しが、まどろんでいた私を照らす。
「う~ん……」
体を起こし、座ったまま伸びをすると、骨がぽきぽきと鳴った。
どうやら本を枕にして、机に突っ伏したまま寝ていたらしい。体のあちこちが痛い。
「ふぁ~あ……」
もう昼前らしく、部屋の空気がむっとするほど暑い。
水をひと口飲み、枕にしていた本を開きながら、ぼんやりした頭で自動防御魔法の開発状況を思い出す。
理論の整理を終えて試作品を作ってみたものの、防御魔法は発動すらしなかった。思いつく修正案を片っ端から試したけれど、結局どれも成果には結びつかなかった。
(理論は合ってるはずなんだけどねぇ……)
椅子の前脚を浮かせながら、うまく発動しない理由を考える。
私が開発したいのは、攻撃が迫ったときに自動で魔法の壁を展開し、持ち主を守ってくれる魔法だ。
その魔法を水晶に書き込み、持ち歩くだけですべての攻撃を防げる──そんな仕組みにしたいと考えている。
開発前は、この館に張り巡らせた魔法防壁の延長で作れると思っていた。けれど、いざ手を動かしてみると、思っていた以上に勝手が違い、予想以上の苦戦を強いられている。
「あ~。もうやめた。次に気が向いたときにやろう」
魔法の研究を始めると、とにかく時間を気にしなくなる。
次から次へとアイデアが浮かぶせいで、気づけば夜が明けていることも多い。そろそろ寝ようかな、と思っていたら、ディースが朝食を持ってくる──なんてこともよくある。
でも、集中が切れたらそこで終わりだ。今日は別のことをやろう。
立ち上がって大きく伸びをする。ちょうどそのタイミングで、扉がノックされた。
「どうぞ」
「お、ようやく起きたね。進捗はどう?」
「いったん諦めた」
どんな攻撃でも防げる私が、わざわざ自動防御魔法を研究しているのは、ルルカのためだ。
ルルカは弱い。種族とか関係なく弱い。魔界で生きてこられたのが不思議なくらい弱い。
今までは運と危機回避能力でなんとかなっていたのかもしれない。けれど、魔王族である私の従者になった以上、誰かに狙われる可能性もある。しかも、もし刺客が来るとしたら、おそらく相当強いヤツだ。ルルカではひとたまりもない。
私がそばにいれば何とでもできるが、常に一緒に行動するのは現実的ではない。だから、私が駆けつけるまで攻撃を耐えられるようにしておきたいのだ。
「じゃあさ、ルルカちゃんとお買い物に行かない?」
「いいわよ」
「やった! でも、まずはお風呂に入ろっか」
「……やっぱり臭う?」
「うん。けっこう」
今回は三日ほどこもっていたはずだから、さすがに無臭とはいかないか。
今度、体臭を消す魔法でも開発してみるか。
「あと、食事はどうする? 朝食というよりは昼食に近い時間だけど」
「じゃあ……軽く食べて、お風呂に入って、それから昼食にして、出発しましょうか」
「りょ~かいっ! ん~……。パンは焼いてあるし、細々した食材もあるから……ブルスケッタにしようかな」
「いいわね。ありがとう」
「じゃあ一名様、ごあんな~い」
私はルルカに連れられて、食堂へ向かった。




