7-2 裏のことはカーラに
「――ということよ」
昨晩、姉さんに偽装硬貨の件を話したところ、調査と、拠点が分かれば撲滅まで任されることになった。なんでも城下町での流通量が、無視できないほど増えているらしい。
あれほど精度の高い偽装硬貨を大量生産するとなれば、裏の組織が関わっているのは間違いない。そんなわけで、私は裏社会に精通しているカーラの家を訪ねていた。
カーラは私の話を聞き終えると、紅茶のカップをそっと置き、すっと集中モードに入った。
「間違いなく、その町で偽装硬貨が作られてるでしょうね」
「でも、あの町で偽装硬貨は使われてないみたいよ」
「作ってる町でばら撒いたらすぐに見つかるでしょ。だから、生産している町では絶対に使わないのよ」
カーラが、偽装硬貨を作り、それを流通させる難しさを事細かに説明してくれる。
偽装硬貨なんて、似たようなものを作って何も考えずに使うものだと思っていたのだが、緻密な計算と繊細な計画が必要らしい。
かなり具体的な話だったから、カーラもやったことがあるのだろう。
「それにしても……。私が色欲領に肩入れしていることは周知の事実なのに、よく偽装硬貨なんか作ろうと思ったわね」
カーラは引退して二千万年以上経った今でも、憤怒領を席巻した女として恐れられている。
憤怒領はその名の通り、すぐに喧嘩が起こるような、魔界でもとりわけ危険な土地だ。
そんな場所で派手に暴れ回り、勢力を大きく拡大したのは、後にも先にもカーラだけだ。
「危険な場所で楽しいことをしたくなる、あれじゃないかしら?」
「魔族全員がノワエみたいに異常者じゃないのよ」
「あんただって異常者でしょう? いたいけな少女をボコボコにしてたんだから」
「向日葵をわざと折るクソガキが何言ってんだか」
カーラは呆れた表情を作り、フィナンシェに手を伸ばした。
「昨日、イレアナから依頼が来たから、私の“耳”たちに情報収集をお願いしているわ。今晩、酒場で会う手はずをしているから、それを飲み終わったらさっさと行ってらっしゃい」
「はいはい。――って、あんた来ないつもり?」
「当たり前じゃない。私は向日葵たちの世話で忙しいの。あとは自力で頑張りなさい」
「マジかよ……」
相手が裏となると、下手を打てば私の素性が調べられる可能性もある。だからカーラは全面協力してくれると思っていた。
「……ちなみに、私のことはなんて伝えているの?」
「頑丈なパシリ」
「パシリって……」
「あながち間違っていないでしょう?」
「いや、まぁそりゃそうなんだけど。もうちょっと活動しやすいような説明をしてよ……」
「仲間内とはいえ、情報を与えるとややこしくなるのよ。裏の取引をする場合は無言、多くても一言二言で会話を終えなさい。あと、嘘も厳禁よ」
「そんな危ないところに素人を放り込むなよ……」
「あんたは適応能力高いし、最悪、魔王とバレるのを覚悟すれば自力で何とでもできるでしょう。信頼してのことよ」
「……信頼って便利な言葉よねぇ」
カーラの言う通り、仮に何かあっても力で解決できる。だからこそ姉さんも私に依頼してきたわけだ。
裏にはあまり首を突っ込みたくないとは思いつつも、いずれは向き合う日が来るとも思っていた。今日がその日だと割り切るしかない。
「さて、それじゃあ行ってくるわ」
覚悟が決まれば、あとは行動するだけだ。
私は紅茶を飲み干して立ち上がった。
「これ、諸々のメモ。あんたの特徴は伝えてあるから、手順を踏めば接触してくるはずよ」
「わかった。ありがとうね」
「どういたしまして。畑の外まで送っていくわ」
外に出ると、背の高い向日葵たちが行く手を遮る。
その向日葵の中を、いつも通り私のことなど気にも留めずにずんずん進んでいくカーラ。全部同じ場所に見えるのだが、彼女にしかわからない道がある。
「それじゃあ私はここで。頑張ってね」
向日葵畑の外に着くと、それだけ言ってカーラは向日葵畑に戻っていった。本当に愛想のないやつで安心する。
「さてと、じゃあ行きますか」
高台から落ちる水のおかげでこの辺りはまだ涼しいのに、隣町までの道は容赦なく暑い。少し前に歩いたときの地獄のような暑さを思い出して、早くも気が滅入る。
しかし姉さんの依頼を断るわけにはいかない。姉さんの機嫌を損ねれば、そこで私の生活は破綻する。
私は一つため息を吐いてから、メモに書かれた隣町の酒場を目指した。




