6-3 ほんわかとした事情聴取
十五分ほどして、町の少しはずれにある、汚れ一つない白壁を誇る建物へとたどり着いた。
「ルルカさん、ここが天魔総括協会の本部です」
「ほえ~。大きな建物だね~」
正面から見えるのは本館だけだが、右手の奥には別館もある。各界の長が集まる総会のときに足を運ぶことになる場所だ。
中へ入ると、白を基調とした壁が続き、天井は巨人族が手を伸ばしても届くか怪しいほど高いロビーが広がっていた。
ローナさんは受付に軽く視線を送り、そのまま奥へと歩を進める。
廊下の片側は床から天井まで続く大きな窓になっていて、差し込む光が空間を明るく満たし、外にいるかのような開放感を与えてくれる。反対側には用途の異なる部屋が並び、扉の向こうでは協会の者たちがあくせく働いているのだろう。私は働いたことがないから、その苦労はわからないが。
そんな空間の一角、かなり奥にある談話室へと通された。
「よく来たな、ノワエ」
談話室で待っていたのは、天魔総括協会の会長である魔族のコンサンシュだ。
協会で働く魔族たちは、長く天界にいるうちに徐々に天界の雰囲気に染まっていくものだが、彼は違う。赤い髑髏の刺繍が入った真っ黒な服を身にまとい、その下には争いごとなどほとんど起きない天界では珍しい金属の鎧まで着込んでいる。
「あら、今日は会長と副会長が相手をしてくれるの?」
「ことがことだからな。ルルカ君、初めまして」
「どもども。ルルカちゃんです」
差し出された手を、ルルカがぱっと取る。
背が高く体格も大きいコンサンシュは、一見すると威圧感たっぷりで近寄りがたい。しかし魔族にしては珍しく友好的で、どんな相談事でも親身に耳を傾けてくれる魔族だ。
「コンサンシュ、わかっているとは思うけど、ルルカは一般魔族だから――詰めたら、わかってるわよね?」
「ははっ。お前が暴れたら手が付けられんからな。肝に銘じておこう」
「ルルカさん、今日は真面目な話をしますが、我々四人だけですので気楽にしてください。お茶請けもありますので」
机の上には、いかにも上等そうなクッキーが並べられていた。
「わ~。すごく美味しそう」
「ルルカ、食べられるだけ食べておきなさい。ウチじゃ絶対に出せないから」
「オッケー。十人分ぐらいは食べておく」
「残念ながら、そこまでお出しできませんよ」
そう言いながら、ローナさんは奥の戸棚からさらにクッキーを取り出してきた。
「さて、菓子をつまみながらでいいが、本題に入ろうか」
コンサンシュが少し声のトーンを落として話を始める。
彼もかなり強い魔族だ。本来なら、その低い声だけで空気が張り詰めるところだが、私がぼりぼりと音を立ててクッキーを食べていたせいで、緊張感は穴の開いた風船みたいに抜けていった。
質問内容はほぼ予想通りだった。
人間を知った経緯や、どのようにして犯人を突き止めたのか、そして魔界に迷い込んだその人間が元の世界に戻るまでどんな生活を送っていたのか――表向きはそんなところだ。
ただ実際には、私たちの言葉の選び方ひとつにまで踏み込んで確認される場面もあり、気づけばかなり細かい部分まで話すことになっていた。
本来、こういった事件の聴聞は数日かけて念入りに行われるものだが、私が必要な記憶を共有していたこともあり、二時間ほどで終わった。
「ふむ。聞きたいことはすべて聞き終わったな。これで聴取を終わりにしよう。しかし……」
コンサンシュが手で顎をさする。
「ノワエが従者を養うために働くようになるとはな……。正直、いまだに信じられん」
「仕事内容はイレアナ様の玩具だけどね」
「いらんことは言わんでいい」
私が手でルルカの口をふさぐと、コンサンシュは驚いた顔をし、ローナさんはくすくすと笑った。
「ノワエさんがルルカさんを選ばれた理由、なんとなくわかりました」
「そうだな。実にノワエの従者らしい。ルルカ君、不出来な娘だがよろしく頼むよ」
「うん。任せといて!」
「……コンサンシュ、あんたはいつから私の父親になったのよ」
私が突っ込むと、コンサンシュは会議室に響くほどの大きな声で笑った。
「それもそうだな。いくらアウレオールスと仲が良いと言っても、ノワエの父親面をするのは少し違うな」
コンサンシュと父さんは仲が良かったらしい。
父さんの恐怖政治の中でも唯一物を言える側近だったらしいが、やがて父さんは彼を遠ざけ、総会の会長に推挙した――名目上は栄転という形で。
「少し遅いが、お昼時だ。この後はローナ君と一緒に食事にでも行ってきなさい」
「あれ、コンサンシュは来ないの?」
「私はこの後、別の打ち合わせがあってな。すまないが、パスさせてもらう。では、またな」
そう言って立ち上がり、コンサンシュは会議室を後にした。
「では、参りましょうか」
「ローナさん、ルルカは大食いだけど大丈夫?」
「ええ。大丈夫です。すべて経費にしてしまいますから。せっかくですし、高価なお店で好きなだけ飲み食いしましょう」
ローナさんがいたずらっぽく笑う。
ただ、その目の奥は笑っていないというか……どこか恨みのようなものがにじんでいる。
(協会の仕事って、やっぱりストレスが溜まるんだろうなぁ……)
そんなことを思いながら、私はローナさんの後に続いた。




