第三反復 逃亡 仮説3
私は…どうすればよかっただろうか。
「そうよ。私は首相なんかじゃない。」
彼女は机に座って言った。
彼女の正体はわからない。だが、彼女ではないことがわかる。
「私は、『Unidentified』」
「分かってるわよ。」
私は包囲されている山小屋の前に来た。
「さて、作戦決行。」
私は壁を素手でぶち壊した。
警戒音がなっている。
私は眠い目をぱっと開けて、周りを見た。
ライトが橙色…警戒レベル3…侵入者あり。
「まずいわね。」
私は夫と子供を起こしに隣の部屋にいった。
「お母さん。何が起こったの?」
天使たちを連れて作戦会議室に向かう。
サイレンは鳴り続けている。
「Leyen!」
Schnarrenbergerさんが心配そうな顔で駆け寄ってきた。
「大丈夫?」
「ええ。大丈夫です。」
夫のHeikoが答えた。
「あら、そう。よかったわ。」
Schnarrenbergerは微笑みながらそう言った。
どうやら全員集まったみたいだ。
CIAのJudithという女性(私はあまり気に入っていない。高圧的な発言が多すぎる。)が話し合いを進めていく。
「皆様。集まってくれて礼をいう。今現在、《Hoffnung für die Zukunft》がこの山小屋を包囲している。相手には《አስተላላፊ》もいる…このシェルターへの入り口はまだ見つかってはいないが、山小屋は片っ端から壊されている最中だ。見つかるのも時間の問題だろう。」
そういえばもう一人の…《アメリカ合衆国のための選択肢》という女性はどこに行ったのだろう。
「よって、《避難計画》を開始する。」
8月23日午後7時14分(Sonthofen時間)
「こちら、Georg Aalen。現在ARD-Hauptstadtstudio Berlin/ DE TEMPELIERSにいます。これから作戦を始めます。」
俺は淡々と告げる。
「了解。成功を祈ります。」
1年間聞き慣れた女性の声…専属オペレーターだ。名前は知らない。
俺はまずはエントランスのドアから中を見る。
人はいない。よし。もし人がいたら厄介だ。
ドアを開けて潜入する。銃を前に向けるのは忘れない。いつ敵が飛び出してくるかわからない。
目の前に一人のラフな格好の男が現れた。
俺は見た瞬間にサイレンサー付きの銃を撃った。
彼の肩に銃弾が突き刺さる。
俺はそのまま彼に近づき、首にスタンガンをお見舞いした。
彼は倒れた。
「楽じゃないな。」
俺はそのまま狭い廊下を進んでいく。
後先考えずに。
数分後、俺は吹き抜けガラスのホールに到着した。
人が多すぎるから銃はしまう。目的地までは安全優先で行きたい。
俺は右端の階段を上がっていく。
向かうは2回のニューススタジオ。
駆け足で上がっていく。
「入館証を提示してください。」
目の前に女性が現れた。
周りに見えないように身体の真ん中で銃を撃つ。
女性はあっけなく倒れた。俺は彼女を引きずり、見えないところに放置した。
そして…俺はスタジオに侵入した。
警備員は2人か。それと《Hoffnung für die Zukunft》の《検閲官》が3人と一般人が20…30人ほど。
これは案外楽かもな。
俺はSa61 Scorpionを取り出して、掲げた。
「ここからは俺の指示に従え!」
発砲が占領開始の合図。
その直後、警棒を持った警備員が近づいてきた。
「何しに来たんだ!おとなしくしなさい。銃を下ろせ!」
一人が肩の無線機で応援を呼ぼうとしたので、彼の手を撃った。
彼は低い悲鳴を上げて腰を落とした。
「全員手を上げろ。」
警棒を持ったもう一人の警備員が手を挙げた。
これでひとまず沈静化は完了。
全員が手を上げた。
次は、Merkelから預けられた動画を放送しなければならない。
内容は、ちょっと簡単に言うと、彼女は逃げないということ。近くにいるということ。
そして、彼女は敵と戦い続けるということ。
俺は前に歩き出した…はずだった。
銃声。サブマシンガン。銃弾が転がる音。心音。ドクドクと血が流れ出す音。そしてある声。
「即死だと思ってたんだけどな。計算が狂った。」
《Hoffnung für die Zukunft》のエージェントか…はたまた戦闘員か…
そう考えるうちに、その男は近づいてきた。
その時間の動きはとってもゆっくりに思えた。
頭に冷たい金属があたった。
銃声がした。
意識が遠くなってきた。
何が起きた?
何が起きた
何が起き
何が起
何が
何
な
n
静寂。鼓動もなくなり、視界は暗黒に。
8月23日午後7時21分(Berlin時間)
斬撃が舞う。
斬撃一つ一つで紅い花が舞う。
紅く染まった肉体が倒れ、耳障りな音が響く。
「一人。One bitch。」
彼女は刀を振って血をはたき落とした。
「待て待て待て待て。誤解だ!俺は上官の指示に従っただけ…」
小気味よい切断音がした。紅い花が咲いた。
「二人。Two bitches。」
今ここで俺ができることはなんだ?
さっき倒れた襲撃犯の男のバッグから何かが出ている。
「DVD…か?」
俺はその死体に近づいた。
そして、バッグに手を触れる。
その時、またあの女の声が聞こえた。
「三人。Three bitches。」
また《Hoffnung für die Zukunft》の警察官が1人真っ二つにされた。
そのうちに俺は手を引っ込めてDVDを手に取り、副調整室に駆け足で戻った。ほかの全員はパニックで逃げ出したあとだ。
スタジオでは戦闘が激化していて、銃撃音が後を絶たない。
俺はDVDをラップトップに差し込んだ。
そして、ファイルを開く。
そこには…Merkel…
前政権にてクーデターで姿を隠した前首相…
その動画を見終わって考えた。俺には何ができるだろうか……この国のために…
俺は副調整室のパネルを操作した。
これが最善な方法だと考えて。
そこにあの女が入ってきた。戦闘は終わったようだ。
そして俺を見てこう言った。
「Georg Aalen。あなたが遺した使命は終わりましたよ。安らかに眠ってください。Thank you.」
8月23日午後7時47分(Berlin時間)
「なんなんだよ!」
俺は走っていた。
友人が死んだ。
何かもわからない怪物によって。
俺は走り続ける。
「はあっ。」
息が荒い。口の中が金臭くなる。
煙幕が張られているから前が見づらい。
「くそっ。」
仲間の死んでいく声が何回も聞こえる。
俺は逃げるしかない。あんな怪物を相手にするなんて馬鹿がやることだ。
俺は自分の命を守り抜かなければならない。
走る。
走る。
走る。
「くそくそくそくそ。」
クーデターが起こったからいけないんだ。あいつが首相になったからこんなハメになったんだ。
何も起きなければよかった。そのままの生活でよかったのに。
「なんなんだよぉ。一体ぃ…」
涙が出てきた。なんでこんなハメになったんだよ。クソッ。
「なあ、大丈夫か?Jonas?」
目の前に重武装の人物が出てきた。
「Maxi先輩…」
Maxi先輩は俺と同じ《Deutschland》軍所属の優しい先輩だ。世話焼きで、いつも俺のことを気にかけてくれていた。
「いいか?落ち着け。深呼吸をするんだ。俺は知ってる。お前が人一倍努力してたことをな。大丈夫。大丈夫。これが終わったら妹を紹介してやるって言ったよな。だから…生き残ろうぜ。2人で…いや、それ以上で。」
Maxiはいつものように、爽やかで明るい笑顔で俺に向かって親指を立てた。
大丈夫。これまで生き残ってきたんだ。これからも生き残れるさ…きっと…大丈夫。きっと…
目の前のMexiの動きが止まった。
「どうしました?先輩…は?」
紅い飛沫…が先輩の頭から飛び出している。
先輩は倒れた。
「ぎゃああああああああ。」
俺はおののいた。なんでこんなことに…こんなことに…
そこに足音が近づいてくる。
ヒールのような軽い音。
そこにいたのは普通の女性だった。だが、俺は恐怖を覚えた。
目の前のサイレンサー付きの銃を持った怪物はこちらに向かってきて…
俺は始め痛みに気づかなかった。
少し視界が赤くなって目が見えにくくなったな、という程度。耳鳴りが響いていた。
そして、だんだんこれが気持ちよくなってきて、俺は自分が倒れたことも気づかなかった。
8月23日午後7時28分(Sonthofen時間)
私はあくまで普通の存在だ。
誰かに価値があるかは分からないが。
「Judithさん!外に出るのは危険すぎます。シェルターに隠れるほうがよっぽど安全かと!」
Sicherungsgruppeの1人が進言してきた。
「いや、うまくいくはずだ。私ならな。」
私はこう返して、進言を却下する。
「そうですか…」
彼はそこから何も言わなかった。
私は、迷路のなかに入り込んだ。
迷路の出口は地下水路(ほぼ洞窟)に繋がっている。
その出口は山小屋の裏につながっている。
洞窟から出ると、外は暗闇だった。
近くから破砕音が聞こえた。
これか、壊されてるって言ってた意味は。
私は発煙弾をポケットから数個取り出して、撒き散らす。
そして、首にかけていた暗視ゴーグルを頭にかぶる。
私は走り始めた。
目の前に一人の男がみえた。
私は彼の首に飛びつき、太ももで自分の体を一回転させる。
ゴキッと音がして、男が倒れた。そこから飛び降り、その間にサイレンサー付きの銃を2丁取り出し、何発か撃ちながら1回回った。その瞬間、一弾一弾が命中し、ヘッドショットで倒れていく。
軍はパニックに陥った。
私は走り続ける。
コートの内ベルトからマチェーテを2本取り出し、両手に持って前に投げた。
どちらも放物線を描いて兵士の頭に向かっていった。
私はすこし走ったあと、それらを引き抜き、振って血を落としたあと、ベルトに戻した。
銃は?
私はベルトに掛けていたものをまた2丁取り出して、両手に持って前に突きだした。少し走るペースを落としながら、人を見かけたら撃つを繰り返した。
それを数分続けると、物音が少なくなった。
近くで走るような音がした。
そのあと、話し声も。
「いいか?落ち着け。深呼吸をするんだ。俺は知ってる。お前が人一倍努力してたことをな。大丈夫。大丈夫。これが終わったら妹を紹介してやるって言ったよな。だから…生き残ろうぜ。2人で…いや、それ以上で。」
残念だが言おう。私がいる限り、生き残ることはできない。
私は話している彼に銃を向けて撃った。
絶対に見えない角度からだから、彼は何が起きたのか分からないだろう。それでいいそれでいい。
銃声
「どうしました?先輩…は?」
なんだ。もう1人いたのか。
「ぎゃああああああああ。」
うるさい。
私は彼の前に姿を現した。
彼はとても怯えた顔で震えていた。
本当にすまない。
私は彼に銃を突きつけた。
頭で発砲する。
彼は倒れた。
やはり、私は銃が嫌いだ。
ふと、後ろからの足音に気づいた。
それと嘲るような賞賛の声も。
「わーわー。すごいすごい。派手にやってくれちゃって。学校で道徳心とか習わなかったの?」
これも銃声が引き起こす効果か…
私は呆れながら、そちらを向き、銃を構え直した。
8月23日午後7時31分(Sonthofen時間)
私は同僚たちが避難していくのを作戦会議室でぼんやりと眺めていた。
夫と子供は私よりも先に外に出た。
残ったのは私とMerkelだけ。
「Leyen、行かないの?」
彼女は私に尋ねた。
私は1つ彼女に聞きたいことがあった。
「Merkelさん。」
「はい?何かしら?Leyen?」
「Merkelさんって…変わりましたよね。」
「どうして?」
「いや……なんとなくです。なんかそんな気がして。」
「うーん。そうね…そんなことはないんじゃない?そうだ。そこのコップ取ってくれない?お気に入りなの。」
「え?ああ。そうですか。分かりました。」
私は戸棚にあったコップをとった。愛らしいブルドッグの絵が描かれたマグカップ。
あれ?何かおかしい。そうか…
「あの…」
「どうしたの?Leyen?」
私は彼女の目を見てこう告げた。
「あなたは一体誰ですか?」
彼女は微笑んだ。
8月23日午後7時31分(Sonthofen時間)
第三反復は2011年を舞台にしているため、もしかしたら当時なかったはずの店や場所が出てくるかもしれません。




