第三反復 失った記憶 仮説5
だからなんだってんだ。
彼が来なきゃ何も変わらない。
彼はいつ来るの?
彼は来なかった。
なら、私が…
Wienに向かうプライベートジェットはHartsfield-Jackson Atlanta Airportでの戦闘のあと、30分経ってから用意された。
「じゃあ、ここで一旦お別れだな。Tesifa。頑張れ。」
「ありがとう。」
Judithと《アメリカ合衆国のための選択肢》はSonthofenに向かった。
そして、現在は飛行機の中。
「ウップ」
「大丈夫大丈夫。落ち着いて落ち着いて☆」
Emmaが背中をさすってくれてる。
やっぱり飛行機酔いが出てきた。
バケツがあって本当に良かった。
機内食なんで食べられる人いるのだろう…か?
食べてる…Duaneガツガツ食べてる…
あー見てるだけで吐き気が…
「ウッ………」
「……ところでさ。作戦概要説明してなかったね☆説明するね。」
作戦の内容はこんな感じだよ☆
《Hoffnung für die Zukunft》は現在《Österreich》の領土も狙っており、《Österreich》内にスパイがいることが明らかになっている。
CIAの諜報活動によって《Hoffnung für die Zukunft》をハッキングして得られた情報によると、最低でもスパイは3人。
・《炎の勇者》・・・詳細は不明
・《幽谷の屠殺者》・・・同じく詳細不明
・《反発反発》・・・詳細不明
彼らはWienに潜伏している可能性が高い。
よって今回の《Team31》の面々の任務は、彼らを鹵獲または殺害することで無力化することだ。
今回の作戦のメンバーとしては
Emma Stillmore(チームリーダー、顔は《Österreich》国籍のMia Gloggnitzで固定)
Duane Mineola
Elijah Funston
Tesifa Glenwood
・現地協力者
Direktion Staatsschutz und Nachrichtendienst(通称BVT)のElias Payerbach
以上5名だ。
この作戦は秘密裏に行い、作戦概要が漏洩した場合、《Team31》全員に処罰を加えることとする。
「だってさ。」
「《炎の勇者》か。ウップ。厳しいだろうね。ウ…
なにせ《聖なる力》を持たないのに《勇者》って呼ばれているようなヤツだもんね。
彼女を倒すのは至難の業だと思うよ。ウッ…私でも厳しいかも。相手の使う魔法がわからないんじゃ仕方ないよね。」
「知ってるの?」
「ちょっとだけね…ウップ。そういえばEmmaの顔変わってたね。忘れてた。」
Emmaの顔は白人で金髪の細身の美女になっているが、メガネは変わらないようだ。
私のその視線に気づいて、彼女は言った。
「私このメガネ気に入ってんだよねー☆」
「へー」
うっ。また吐き気が…
「ウップ」
「大丈夫?」
ああ、背中をさする手が優しい。
「大丈夫か?ダメそうならやめてもいい。止めないよ。」
Elijahが言った。
「大丈夫。ウップ」
「ほんとか?」
「まあ。」
「ねえ。Duane…寝てる…☆」
「やっぱマイペースだな。」
「そうだ!私のワンちゃんの写真見る?かわゆくて…うちのコやばい☆」
「ウップ」
「うわっ。大丈夫?☆」
「何の騒ぎだ…」
Duaneが起きたようだ。
「間もなくこの機は着陸態勢に入ります。皆さんシートベルトをお付けください。」
機長がアナウンスした。
「着いたら戦場だから油断しないでね☆」
高度が下がっていく。それに比例してTesifaの気持ち悪さが沸点に達する。
「やばい…これぇ。」
「やめろーーー」
Elijahの悲痛な叫びは届かず…
「うweeeeeeeeeeeee」
………大惨事になった。
8月23日午前10時27分(Wien時間)
「そうですね…敵はそろそろ現れるでしょう。構えてください。」
電話から放たれている声の主は上司だ。
「……」
「出会いは多少強引でしたが、今は仲間…そうでしょう?私はあなたを尊敬しているんです。それ相応の働きをしていただきませんか?」
「……」
「あなたは《勇者》なんですから。倒せますよ。絶対ね。頑張ってくれないと困ります。」
「《Guernica》……」
「なんですか?」
「私を誰だと思っているんだい?」
「は…失礼しました。少し上から目線になってしまいましたね。」
「別に構わないが…気をつけてほしいな。私は君に協力してる立場なんだ。」
「だったらこっちはあなたを脅している立場ですよ。」
「……」
「どっちもどっちですね。あはは」
「……」
「では、よろしくお願いしますよ。」
「わかってるよ。」
「そうですか?」
「彼…いつか落としなよ。知らない人に取られても知らないよ。」
「………愚問ですね。」
8月23日午前10時32分(Wien時間)
「誰かにつけられてる気がする。分かれたほうがいいかもしれない☆」
「そう?」
「わからないけど私の勘はよく当たる。」
「ならそうしたほうがいいな。」
「ですかね。」
「同意だ。」
何があったのかと言うと…
TesifaたちはFlughafen Wien Schwechatに到着した。
まあ、飛行機の中は……アレまみれでこの世のものとは思えない惨状だった。
Duaneはこれをこう評した。
「……エチケット袋…使えよ。」
さて、そのまま飛行機を出て、空港内に入ると洗練されたデザインのコンコースDの内装が見えてくる。
そこでDSNのエージェントと落ち合う予定らしい。
パット見ではそのような人は見当たらない。というよりも人が多すぎて分からない。
「あ!いた!おーい!☆」
そこにいたのは少し長髪でふさふさした髪をしたクール系のハンサムな男性だった。
「こんにちは。久しぶりですね。Emma!」
「ひさしぶりー元気〜?☆」
「聞いてくれてありがとう。元気ですよ。もちろん」
なんか疎外感。
「ねえ、Emma…誰その人。」
「あ!言ってなかったね。この人はDSNのElias Payerbachだよ!☆」
「どうも。ご紹介にあずかりました。Elias Payerbachです。EliasでもEliでもお好きにお呼びください。」
彼はそう言って笑った。笑い方が…清々しい。
「あ!あなたがTesifa Glenwoodですね。よろしくお願いします。」
律儀に名刺を…?すごい…丁寧…リスペクトがすごい…
「あとそちらも知らない方ですね。」
「Elijahだ。」
「Elijahさん。これからよろしくお願いします。」
「こちらこそ。」
そしてこの積極さ…まあArbyには劣るけどね。(姉バカ)
「で?これからどうしましょうか?」
どうするんだろう。
8月23日午前10時50分(Wien時間)
過去は変えられない。未来は変えられるのかもしれないが変えられないだろう。
決まってるから?そう。決まってるから。
私が《勇者》になったのは何故か。それは彼のためと即答できる。
彼は私にとって大切な人 だった。
今となってはもう会えないが。
私はその時はただの少女だった。
今は違うと信じたい。
もしできるなら彼にまた会いたい。
でも会えない。
「おーい。元気〜?」
我に返った。
《幽谷の屠殺者》…同僚であり前の世界ではパーティ仲間でもあった。若い男で、背が高く、髪が右目にかかっている。特筆スべきは彼が持っている剣だろう。1本だけではあるが、《最後の剣》という曰く付きの代物だ。
「困るよ〜ボケっとしてると〜何が来るか分からへんから~。」
「分かってるさ。気をつけるよ。」
「そ~?ならいいけど〜。」
「はあ。疲れるね。」
「ね〜。早く帰りたいよ〜。」
「おいおい。何やってんだ?」
やってきたのは同僚で《幽谷の屠殺者》と同じく前の世界ではパーティ仲間でもあった《反発》だ。
彼は屈強な体つきをしており、Tシャツを着ているが、背中に背負った大きなトマホークが彼を特別に見せている。
「見てわからないかい?休憩しているんだよ。」
「そうだよ〜。」
「………。敵が来たぞ。臨戦態勢だ。」
「はぁ~。」
「誰かもわからない人を殺すってのは嫌なことだね。」
8月23日午前11時23分(Wien時間)
私たちはFlughafen Wien SchwechatにてCATに乗り、Bahnhof Wien Mitteに到着した。
その駅は工事中だった。足場が入り組み、クレーンが建っている。私たちは駅を出て、Landschatrassel Hauptstrasseに出た。
「さて、まずはMeidlinger Kaserneに向かいましょう。」
Eliasが先導するようだ。
私たちはWien Mitte-LandstraßeでO-LinieのRaxstraße 方面行きに乗り込んだ。
路面電車だからWienの街並みがよく見える。
路面電車が低い音を出して進み始めた。
古い街の中を路面電車は進んでいく。
「すごいね。」
「そーだねー☆ 歴史が詰まってる気がするね☆」
………我ながらありきたりな感想だと思う。
10分ほど路面電車が進むと、Wien Quartier Belvedereに到着した。どうやらここで乗り換えるようだ。
何か視線を感じた。
「誰かにつけられてる気がする。分かれたほうがいいかもしれない☆」
「そう?」
「わからないけど私の勘はよく当たる。」
「ならそうしたほうがいいな。」
「ですかね。」
「同意だ。」
「電車賃は?」
なんかみんなに変な目で見られている。
「………電車賃は諦めよう。」
Eliasが言ったあと、私たちは駅から出た。
そして、3つに分かれた。
1グループ目は私とElijah
2グループ目はEmmaのみ。
3グループ目はDuaneとElias
「はい、これ!」
走っている最中に並走していたEmmaから何か投げ渡された。
「スマホ?」
「そう☆連絡用だよ。」
どうやらこれで状況を共有するらしい。
8月23日午前11時24分(Wien時間)
【Tesifa&Elijah】
Emmaたちと別れ、二人はすぐに国道221号線を横切り、Momsengasse Straßeを北上していく。すると、Elijahが口を開いた。
「いいか。俺は戦闘要員じゃない。戦闘はまったくできない。だから、もし戦闘になったらお前を置いて安全な場所に隠れることにする。自分の身は守る。だから、お前は俺を気にせず戦え。Emmaから言伝が一つある。《አስማት》の使用を許可する。いいな?」
「分かった。そうする。」
その時、スマホが鳴った。
通話ボタンをスワイプする。
「やっほー☆Tesifaたち大丈夫?☆」
Emmaの声だ。
「グループ音声チャットを招集したよー☆カメラはオンにしといてやー☆」
画面に映し出されたのは3チームの現在の状況。
Emmaの頭上にクレーンが数台見える。Duaneたちは私たちと同じように街並みを歩いている。
「状況は?」
Duaneが言った。
「何も変わってないよ。」
私が答える。
「そっか。よかった☆」
私たちはMomsengasse Straßeを進んでいく。車道の端に隙間がないほど車が止まっている。
網目状の白基調の建物が続いていく。
「見つかりました。交戦します!」
Eliasが叫んで、Duaneチームのスマホが地面に落ちた。
「どうする?Tesifa?隠れるところはあるか?」
焦った声でElijahが言ったが、私はこう答えるしかない。
「もう遅いよ。私たちは見つかった。Elijah、逃げて…ってもういない?!」
目の前に赤毛の少女が現れる。
「なんだ。バレてたのか。」
「《炎の勇者》…」
「いいや。」
彼女は前に手をつきだした。
「私はもう勇者なんかじゃない。」
私は耳当てをゆっくり取り外した。
8月23日午前11時30分(Wien時間)
【Emma】
Tesifaたちと分かれたあと、Emmaは駅の前の工事現場に潜入していた。
頭上のクレーンが地面に影を作っている。
彼女は歩きながらスマホを開いた。
そしてGoogle+のHangoutを開き、ほかの人を招集する。
「やっほー☆Tesifaたち大丈夫?☆」
私はスマホに向かって話しかける。
「グループ音声チャットを招集したよー☆カメラはオンにしといてやー☆」
TesifaたちとDuaneたちは街並みの中を逃げているみたいだ。
Duaneが口を開いた。
「状況は?」
Tesifaが答える。
「何も変わってないよ。」
よかった。
「そっか。よかった☆」
私は工事現場を進んでいく。
「あんた…ここ関係者以外立ち入り禁止だぞ。」
1人の中年の男が話しかけてきた。
私はErste Group Immorent AGの名刺をその男に見せると、男は何も言わなくなった。
本社の人物だと思ったのだろう。
私はスマホの中に世界約4億の会社の社員証をPDFで携帯している。
変装するということはその人物が持っているもの、もしくは持っていると思われるものを少なくとも一つは携帯しておく必要がある。そうしなければ、正体がバレてしまうかもしれないからだ。
そして、その社員証を印刷するための携帯型プリンターも持っている。
その時、Eliasが言った。
「見つかりました。交戦します!」
チッ。もう見つかったのか。早すぎ☆
その少し後、Tesifaが言った。
「もう遅いよ。私たちは見つかった。Elijah、逃げて…ってもういない?!」
そのすぐ後に、Tesifaたちのスマホがゴトッと地面に落ちた音がした。
まさか…あっちも?
その時、目の前に何かがとても速い速度で落ちてきた。私はとっさに避けたが、髪が数本切れた。
そのまま何発も連射されている。
「え?☆」
気づいた…狙撃手の存在。
私はその弾丸が来た方向を見た。
Schloss Belvedereの屋上。
機関銃のような陰。
私はスマホに向かって叫んだ。
「Tesifa!宮殿の頭を切ってちょ!☆」
届いているかは分からない。ただ、遠くで何かが崩れる音がした。
よし!
私は工事現場を出てArsenalstraßeを渡ってSchweizergartenに入っていく。緑の植物が工事現場で灰色になれた目にまぶしい。
「ふぅ☆」
疲れた。走り回ったから体力が消耗している。
バッグのなかにある小さい水筒をあけて、口に注ぎ込む。この冷たさが身体にうれしい。
「ふぅ☆」
口を袖で拭うと、私は辺りを見回した。
嫌な予感がする。その予感は的中した。
銃声がした。
スナイパーが…もう一人…
弾が肩を掠っていった。血が噴き出る。
私は木の陰に隠れて、バッグからガーゼを取り出し、消毒し、止血した。痛い…が、それよりも心配なのは…
「やあ〜やあ〜やあ〜」
寄りかかっていた木が切られた。
そして、それに接していた背中も…
「はぁ☆」
傷は浅い。背骨や脊髄には達していないが…
問題は近づいてくるこの細目の男。
「元気にしてる〜?さっさとダウンしなよ〜。長くなると嫌なんだよね〜。主にメンタル面が〜。」
「はー?なんなのー?急に☆」
ワイシャツにスーツのいでたちの男で、ベルトに下げてあるのは…
「あ~?これ〜?ただの大量生産品だよ~。た・だ・ね…」
彼はレイピアの切っ先をこちらに向けて言った。
「切れ味はいい。」
私はベルトに挿さった銃を取り出した。
8月23日午前11時47分(Wien時間)
【Duane&Elias】
俺は昔からそうだった。無口?愛想がない?
ああ。俺はそんな人間だ。否定する気もない。
Emmaたちと分かれたあと、俺たちはPrinz Eugenstraßeを北上していた。
その時、スマホが振動した。
「やっほー☆Tesifaたち大丈夫?☆」
Emmaの声だ。
「グループ音声チャットを招集したよー☆カメラはオンにしといてやー☆」
Emmaは工事現場にいるようだ。
Tesifaたちは街並みの中を歩いている。細い道に入ったのだろう。
俺らは庭園に入っていく。
Eliasが口を開いた。
「ここからどうしますか?」
俺は彼を一瞥すると言った。
「まだ分からない。」
「そうですか。」
Eliasは心底落胆したような声だった。
そのとき、宮殿の屋上が光った。
「やば。」
Eliasはご自慢の脚力でとっさに避けたが、銃弾は何発も襲ってくる。
「見つかりました。交戦します!」
Eliasが叫んだ。
厄介だ。あの機関銃は第二次大戦の遺物だろう。
MG42。Naziが製造した機関銃…またの名を『Hitler's Buzzsaw』
本当に厄介だ。
俺達は回れ右して来た道を戻り、城門のうらに隠れた。
銃弾が石の壁にあたっていき、軽い、しかし危険な音をたてる。
「大丈夫ですか?」
Eliasが尋ねた。
「ああ。大丈夫だ。」
大丈夫なんかじゃない。脚にかすって血が出てきている。
「ほんとに?」
気づかれた。
「実は…」
銃弾が壁にめり込んでいるような音が聞こえる。
「脚…ですよね。」
「ああ。」
「……止血しましょう。このままだとまずい。」
そう言ってEliasは灰色のジャケットを脱いで、それを俺の傷口に押し当てた。
「ぐあっ」
「我慢してください。」
彼はリュックサックから水筒を取り出し、その口を開け、ジャケットに垂らした。
ジャケットが湿っていく。
「我慢してくださいね。」
痛みがなんとなく引いてきた。
その時、スマホから聞こえたのは、
「Tesifa!宮殿の頭を切ってちょ!☆」
というEmmaの声だった。
よし!ありがたい。Emma!
その時、Schloss Belvedereの緑色の屋根が地面に水平に切れて、倒壊した。
ものすごい轟音がした。
「なんなんですか!一体!Duane!逃げますよ!あんな攻撃ができるやつがWienに潜伏してるなんて……」
なんかEliasが誤解してるが、許容範囲内だろう。
俺はEliasが持っていたKel-Tec SUB-2000を展開して、松葉杖代わりにした。出血は止まり、歩けるような状態にはなった。
ただ…痛みは引いてない。
宮殿の崩壊の音は続いている。
俺達はPrinz Eugenstraßeに戻り、南下していく。
その目の前に男が現れた。
「大丈夫か?その怪我。」
「心配してるようには見えないな。」
目の前にいたのは背中に大きなハルバードを背負った大男だった。
「なんだ。まだしゃべれるのか。なら…」
彼はハルバードを手に持って振り上げた。
「ここで息絶えろ。」
「チッ。」
8月23日午前11時38分(Wien時間)
第三反復は2011年を舞台にしているため、もしかしたら当時なかったはずの店や場所が出てくるかもしれません。




