大会!
村の広場が、いつもより少しだけ賑やかだった。
机が並べられ、その上には見慣れた木の盤。
黒と白の石が整然と置かれている。
「では、次の組は前へ」
そう声を張り上げているのはリーナだ。
いつもの落ち着いた雰囲気はそのままに、今日は指示が明確で、迷いがない。
私は少し離れた場所から、その様子を眺めていた。
どうやら今日は“リバーシブル大会”らしい。
といっても、賞金が出るような大げさなものではなく、勝ち進めばちょっとした記念品がもらえる、そんな程度の催しだ。
それでも人は集まる。
子供も、大人も、職人も、農夫も。
「次は俺の番だ!」
「待て待て、まだだろ!」
あちこちで声が上がり、笑い声が混じる。
真剣なのに、どこか楽しそうで。
争いにはならない、ちょうどいい熱量。
「ルールの確認はもう大丈夫ですね」
「はい!」「大丈夫です!」
リーナの問いかけに、参加者たちが一斉に頷く。
もう説明はいらない。
皆、ちゃんと理解している。
……私は、特に呼ばれていない。
それが、少し不思議で。
でも、嫌な感じはしなかった。
そもそも、この大会をやろうと言い出したのは私じゃない。
木工師への発注も、配布の判断も、進行の段取りも、すべてリーナだ。
私はただ、最初に“盤遊び”という種を置いただけ。
「……上手く回ってるわね」
思わず、独り言が漏れる。
リーナは参加者を気にかけ、勝敗に一喜一憂する子供に声をかけ、揉めそうな場面があれば、すっと間に入る。
領主として。
でも、上からではなく、場の一部として。
その姿を見て、私は確信した。
もう、この村は――
私が前に出なくても、動く。
大会が終わる頃には、日が傾き始めていた。
「今日はありがとうございました!」
「またやりたいな!」
「次は負けねぇからな!」
そんな声が広場に残る。
人が散っていく中、リーナがこちらに気づいて近づいてきた。
「かおりさん。いかがでしたか?」
「うん。すごく良かったわ」
「私、何もしてないけど」
そう言うと、リーナは少しだけ笑った。
「それが、一番良かったのでは?」
その言葉に、私は小さく息を吐いた。
……そうかもしれない。
何もしなくても、壊れない。
口を出さなくても、進んでいく。
盤の上で石が返るように、
少しずつ、でも確実に。
この村は、もう私の手を離れ始めている。
それを、今日はちゃんと見届けられた気がした。




