↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
倉庫ごと異世界転移したので、何でも屋を始めます  作者: 稔


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

PR
80/200

静かに広がる評判

村の朝は、以前より少しだけ賑やかになった。


木工師の工房からは、木を削る規則的な音が聞こえ、広場では子供たちが何やら盤を囲んで騒いでいる。

白と黒の石を裏返しながら、勝っただの負けただのと声を上げる様子は、どこか平和そのものだった。


「……すっかり馴染んだわね」


かおりは、少し離れた場所からその光景を眺めていた。

自分が持ち込んだ“遊び”が、ここまで自然に生活に溶け込むとは思っていなかった。


だが――その変化は、村の中だけに留まらなかった。


「この村、妙に活気があるらしいぞ」


昼前、商人たちが立ち寄る簡易市場で、そんな声が聞こえてきた。


「娯楽があるとか、食い物がうまいとか」


「領主の娘が、変わり者らしい」


最後の言葉に、かおりは思わず苦笑した。

……まあ、否定はできないけど。


調味料の話も、リバーシブルの話も、少しずつ外へ漏れていく。

それは当然のことだった。人が集まれば、噂は広がる。


問題は――どんな形で伝わるか、だ。


「余裕がある村だな」


「税が安いんじゃないか?」


「何か特別な後ろ盾があるんじゃ?」


憶測は、いつの間にか事実のように語られ始める。


◇


リーナの館では、報告が上がっていた。


「近隣の商会から、取引の打診が来ています」


「調味料の件と、木製盤の件です」


「……思ったより早いですね」


リーナは書類に目を通しながら、静かに息を吐いた。

予想はしていた。だが、想定よりも一歩早い。


「悪い話ではありません。ですが――」


補佐役の言葉に、リーナは頷く。


「ええ。“早すぎる”というだけです」


売れば利益になる。領地の収入も増える。

判断としては、間違っていない。


それでも。この村は、まだ“整っている途中”

リーナは、ふと視線を上げた。


「……かおり様は?」


「畑の方かと」


「そうですか」


それ以上、名前は出さなかった。


かおりは家庭菜園で、土をいじっていた。

見慣れない色の野菜。名前も、用途も、まだ完全には把握していない作物。


「でも、ちゃんと育ってる」


それでいい。


最近、館に呼ばれることが減った。

決定の場に、自然と席が用意されなくなった。


……うん。悪いことじゃない。


むしろ、理想に近い。

リーナが判断し、周囲が動き、村が回る。

自分が前に出なくても。


「……ちょっと、寂しいけどね」


ぽつりと零す。

けれど、それ以上は踏み込まない。

これは、自分が選んだ距離だ。


夕方、村に旅人が一人、立ち寄った。


子供たちが盤を囲むのを見て、興味深そうに足を止める。


「それは、何だ?」


「遊びだよ!」


「簡単だけど、強いと勝てない!」


旅人は笑い、銀貨を一枚取り出した。


「土産に欲しいな」


その様子を、遠くからリーナが見ていた。


……もう、“内輪のもの”ではない。


広がること自体は、悪ではない。

だが、広がりは制御できない。


リーナは、静かに決意を固めた。


「段階を、踏まないと」


夜。


かおりは、ノートを閉じた。今日も、特に何も起きなかった。村は平和で、機能している。それが、少しだけ胸に引っかかる。


「……上手くいってるのよね」


独り言のように呟き、灯りを落とす。


外では、誰かが勝負に負けて悔しがる声がした。笑い声が続く。

壊れていない。むしろ、うまくいっている。


だからこそ――この静かな広がりが、少しだけ、気になった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。