かおりと弟子
倉庫の中は、いつもより騒がしかった。
紙を広げる音。
炭で線を引く音。
魔術式を口に出して確認する声。
「……まずは、明かりですね」
かおりが言うと、弟子たちは一斉に頷いた。
「はい」
「生活で一番使う魔道具ですし」
「消耗が激しいのが問題なんです」
弟子の一人が、魔石ランプを手に取る。
「基本的に、光魔法を流し続ける構造です」
「魔石が減れば、暗くなる」
「切れたら交換」
かおりは、それを見ながら首を傾げた。
「……やっぱり、電気に近いわね」
「でんき?」
「えっと……」
かおりは、少し考えて言葉を選ぶ。
「私のいた世界では、力を流して、光る部品を使うの」
「力を作る場所と」
「光る場所は、別」
弟子たちの目が、少しずつ見開かれていく。
「……魔力と、光源を分ける?」
「はい」
「魔力は、供給するだけ」
「光る方は、専用に作る」
「なるほど……」
一人の弟子が、ぽつりと呟いた。
「……だから、倉庫の灯りは安定しているのか」
「魔石が、直接光ってない」
「そう」
かおりは、倉庫の天井を指差す。
「これ、電球型蛍光灯って言うの」
「中で直接燃えてるわけじゃない」
「流れてくる力を、光に変えてるだけ」
弟子たちは、顔を見合わせた。
「……面白い」
「魔道具としては、発想が逆だ」
「じゃあ」
一人が、勢いよく言う。
「その“電球型”を、作りましょう」
◇
作業は、すぐに分担された。
弟子たちは、ガラス職人の技術を応用し、
細長い管と、内部に刻む簡易魔術式を考え始める。
「光属性を直接出さない」
「魔力を受けて、反応するだけの構造」
「……魔術式は、最低限で」
「壊れにくさ、優先だな」
かおりは、その横で、別の作業台に立っていた。
魔力充電器。
今までのものより、一回り大きい。
「……あれ?」
手を止め、ふと考える。
「私、ずっと魔石に充電することばっかり考えてたけど……」
ノートに、線を引く。
魔力集束板。
魔力の流れ。
その先に、魔石。
「……これ」
「魔石、いらなくない?」
口に出した瞬間、背筋に電流が走る。
「魔力充電器から」
「直接、電球型蛍光灯に繋げば……」
魔石に溜める必要がない。
「……あ」
「これ」
「発電機じゃない?」
かおりは、思わず笑った。
「魔力発電機」
力を溜める装置ではない。
力を“流し続ける”装置。
「……そう考えると」
「大型化、必要ね」
かおりは、設計を描き直し始めた。
集束板を複数。
流れを安定させるための分岐。
過剰な魔力を逃がす逃避路。
「……安全第一」
◇
一方。
弟子たちの作業も、形になり始めていた。
「……できたぞ」
机の上に置かれたのは、
丸みを帯びた、電球に似たガラス。
中には、細い魔術式が刻まれている。
「魔石は……使わない」
「供給される魔力だけで反応する」
「理論上は……」
弟子が、唾を飲み込む。
「……壊れないはず」
「じゃあ」
かおりが、顔を上げた。
「繋いでみましょう」
魔力発電機――試作一号。
集束板が、淡く光る。
「……来ますよ」
スイッチ代わりの魔術式を、爺さんの弟子が起動する。
一瞬の静寂。
次の瞬間。
――ぱあっ。
白く、安定した光が灯った。
「……っ!」
「明るい……」
「しかも、揺れない!」
弟子の一人が、慌てて魔力の流れを確認する。
「消費が……」
「少ない」
「魔石ランプの、半分以下だぞ」
かおりは、思わず天井を見上げた。
「……成功、ね」
電球型蛍光灯。
魔力発電機。
魔石を介さない、明かり。
弟子たちは、顔を見合わせ、笑った。
「……これ」
「街に出したら」
「即、取り合いですね」
「だから」
かおりは、静かに言った。
「まだ、出さない」
弟子たちは、すぐに理解したように頷いた。
「……ですね」
「師匠に、叱られます」
「うん」
倉庫の明かりが、一つ増えた。
だが、それは単なる灯りではない。
魔力と電気。
異世界と現代。
二つの知識が、初めて“形”になった瞬間だった。
かおりは、胸の奥が少し熱くなるのを感じていた。
「……やっぱり」
「作るの、楽しい」
そして、この光が――
世界を静かに変える種であることを、
まだ誰も、知らない。




