動かす者、繋ぐ者
「……ミリャ、ちと来い」
爺さんに呼ばれ、ミリャは手を止めた。
「どうした?」
「確かお主、いつも三週間ほど狩りに出て、魔石を街で買い取らせておったな?」
「ああ。だいたいその周期だな」
爺さんは、懐から小さな布包みを取り出した。
中には、薄く色を帯びた魔石がいくつか。
「これを、いつも通り買取に出して来い」
ミリャは、一瞬だけ眉を上げた。
「……充電した魔石、だな?」
「そうじゃ」
爺さんは、低い声で続ける。
「お主が戻らんとなれば、森の見回りが滞る。そうなれば、警備隊が動く可能性もある。“いつも通り”が、一番の隠れ蓑じゃ」
ミリャは、すぐに納得したように頷いた。
「あー……確かに。変な動きは、逆に目立つな。分かった」
ミリャは、魔石を受け取る。
「いつも通り、狩りをして。いつも通り、街で売ってくる。値段も、欲張らん」
「それでよい」
爺さんは、満足そうに言った。
「無理はするな。お主が“帰ってくる”ことが、何より大事じゃ」
「任せとけ」
ミリャは、いつもの装備を整え、森へ向かって歩き出した。
その背中を、爺さんは静かに見送った。
◇
その日の午後。
森の入口が、少しだけ騒がしくなった。
「師匠!」
「お久しぶりです!」
現れたのは、数名の若者。
ローブ姿に、魔道具を抱えた者もいる。
「手紙を見て、すぐに参りました!」
「……相変わらず、足が早いのう」
爺さんは、苦笑混じりに迎えた。
「遠い所を、ご苦労じゃ」
弟子たちは、周囲を見回す。
倉庫。建ち並ぶ家々。人の気配。
「……ここが?」
「ええ。話に聞いた以上ですね……」
爺さんは、ふっと笑った。
「そうじゃここから――」
杖を軽く鳴らす。
「世界を、変えるぞ」
弟子たちの目が、輝いた。
「……っ!」
「師匠らしい!」
その様子を、少し離れた所から、かおりが見ていた。
「……爺さんのお弟子さん、ですか」
「そうじゃ」
爺さんは、かおりを呼ぶ。
「かおりさんや」
「はい」
「こいつらを、使え」
弟子たちが、一斉に背筋を伸ばす。
「現場で学べ。頭で考えるな。手を動かせ。そして」
爺さんは、かおりを見る。
「こっちの世界の魔道具の理屈を、覚えろ!基礎は、こやつらが叩き込む」
「……分かりました」
かおりは、深く頷いた。
「その上で」
爺さんは、にやりと笑う。
「お主が“便利だ”と思う物を、言え。それを再現させてみろ」
弟子の一人が、思わず声を上げる。
「え、いきなりですか!?」
「いきなりじゃ!無理なら、無理と分かる」
「出来るなら、形になる!それでよい」
かおりは、少し考え、そして笑った。
「……じゃあ。まずは、“長時間安定して動く灯り”から」
弟子たちが、ざわつく。
「魔石の消費を抑えて?」
「明るさは一定で?」
「……難題だな」
「でも」
かおりは、倉庫の明かりを見上げた。
「ここでは、もう出来てます」
爺さんは、満足そうに頷いた。
「よい。お互いに教える側と作る側。両方が揃った」
外では、ミリャが森を進んでいる頃だろう。
内では、新しい歯車が噛み合い始めた。
表では、“いつも通り”。
裏では、“次の段階”。
誰にも気づかれぬまま、この場所は、確実に前へ進んでいた。




