第98話『喪われた魔導士、追跡の刃』
深夜、焚き火は燃え尽き、風の音だけが砦跡を吹き抜けていた。
エリュがさらわれた直後、俺たちはすぐに行動を開始していた。
残された痕跡、魔力の余韻、空間の揺らぎ。
すべてが、異界へ通じる“強制転移”の痕だった。
「ウケール、残留魔素は?」
「薄いが……追えないレベルじゃない」
「俺の空間魔法で補強できる。リリィ、準備はいいか?」
「……うん。絶対、助けるんだよね。エリュを」
彼女の声は震えていた。
でもその目には、確かな意志が宿っている。
「行くぞ――!」
◆
転移魔法が発動する。
まばゆい閃光とともに、俺たちは闇の中に飛び込んだ。
着いたのは、荒廃した神殿跡のような場所だった。
空は赤黒く、空間全体が歪んでいる。
「ここ……異空間か?」
「恐らく、“彼”が作った結界領域だ。エリュを隠すための……牢だな」
「だったらぶっ壊すまでだ!」
ウケールが吠えるように剣を抜いた。
そのとき――
「ヨシオ!」
前方から、聞き覚えのある声が飛んできた。
「リリィ……!」
そこには、魔法の結界を突破して駆けつけてきた、仲間のリリィがいた。
「……リリィ!? どうしてここに!?」
「……遅れてごめん。」
息を切らして立つ彼女は、衣服に傷を負っていた。
でも、凛とした表情は崩れていない。
「無茶すんな、バカ!」
「……でも、私、黙って待つなんてもうできない。仲間を救いたい。あの夜……何もできなかった自分を、許せないから」
リリィの目が潤んでいる。
俺は彼女の手を取った。
「ありがとう。リリィが来てくれて、本当に心強い」
「ヨシオ……」
しばし見つめ合う。
ふと、リリィが頬を染めながら、小さく言った。
「少しだけ……キス、してくれない?」
「……こんな時に?」
「……だからこそ。力がほしいの。あなたから、直接」
俺は小さく笑って、彼女の額に口づけた。
「必ず、みんなで帰ろう。リリィ、ウケール――そしてエリュも」
「うん……!」
「おう!」
◆
そして、戦いは始まる。
神殿の奥から現れた“紅い瞳の男”は、仮面をつけていた。
「……お前たちには、死という真理を教えよう」
その声は、感情を欠いた響きだった。
だが、その背後には、エリュが浮かんでいる。
昏睡状態で拘束された彼女。
「エリュッ……!」
「“彼”を倒せば、結界は解除される。リリィ、サポートを頼む!」
「任せて!」
「ウケール、突撃!」
「おうよッ!」
俺たちは刃を握り、闇の神殿を駆けた。
命をかけて。
仲間を取り戻すために。
――そして、すべてを終わらせるために。
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