第99話『嘆きの迷宮、誓いの剣』
「ヨシオ、こっちは任せて!あんたは……エリュを!」
リリィの叫びが響く中、俺は咄嗟に剣を振るい、迫る魔物を切り伏せた。深紅の血が飛び散り、朽ちた迷宮の床を濡らす。肩で息をしながら、俺は奥へと駆け出した。胸の奥で、何かが熱く燃えている。
「エリュ……!待ってろよ!」
あの冷静沈着な仲間が、罠にかかって一人、囚われの身になったと聞いた時、俺は理性を吹っ飛ばしそうになった。仲間を――家族を、失うわけにはいかない。
迷宮の深部。天井から垂れ下がる蔦の向こう、ひときわ大きな扉が待ち構えていた。魔力の鍵を解き、ゆっくりと扉を開けると、そこには――
「……ヨシオ……?」
傷だらけの身体で、鎖に繋がれたエリュがいた。
俺が駆け寄ろうとしたその時、背後からぞわりとした気配が走った。
「おやおや……ここまで来るとは思いませんでしたよ。凡庸な転生者にしては健闘してますねぇ?」
気配の主――仮面をつけた男が、音もなく現れる。その両手には禍々しい魔法陣。いやな予感がした。あいつは……ただの雑魚じゃない。
「エリュには指一本触れさせねぇ」
俺は立ちはだかる。だが奴は笑っていた。
「では証明していただきましょう、あなたが“英雄”たり得るかを」
瞬間、空間が軋み、魔力の奔流が炸裂した。俺は即座に《魔法障壁・第二式》を発動し、防ぐ。だがその衝撃は凄まじく、膝をつきそうになる。
「ッ……くそ……!」
その時だった。背後から聞き覚えのある声が届いた。
「遅れてごめん、ヨシオ!援護に来たよ!」
リリィだ! 彼女の矢が次々と魔力の隙間を縫い、敵の注意をそらす。さらに――
「フッ、戦場に笑いが足りないぞ。俺の登場で締めといこうか!」
ウケールも来た。妙なポーズをとりながらも、彼の放った《音波衝撃》が敵の足を止める。
「……リリィ、ウケール、エリュは……助ける」
そう呟き、俺は全力の魔法を構築する。両手を掲げ、魔力の渦を引き寄せる。
「《灰燼の星雷》……発動ッ!!」
黒雷が収束し、稲妻となって仮面の男に降り注ぐ。眩い閃光と、轟音。静寂が訪れた時、そこには倒れた仮面の男と、崩れ落ちた魔法陣があった。
「……やった、のか?」
俺は駆け寄り、エリュの鎖を断ち切る。彼女は微笑んだ。
「……来てくれたんだね、ヨシオ。ありがとう」
「当たり前だろ。仲間なんだからな」
エリュの腕を引き、立ち上がらせる。その手は震えていたけど、温かかった。
そして、出口へと向かう俺たちの背中に、朝陽が差し込む。
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