第95話『砦に燃ゆる誓い、散るは涙の刃』
砦は、すでに地獄と化していた。
轟音、煙、断末魔。
炎が石壁を呑み、兵士たちの叫びが夜空に木霊している。
「ちくしょう、どうして……!?」
俺は焦げた門を飛び越え、戦場に飛び込む。
その背後には、剣を抜いたウケール、
弓を構えたリリィ、
そして魔導装具を展開したエリュの姿があった。
「敵は……人間じゃない。魔族だ!」
エリュの叫びとともに、砦の中央――
赤黒い魔方陣から現れたのは、半獣のような魔族。
しかもそいつの手には――
「……嘘、ルシェ!? リオナまで……ッ!」
そこには死んだはずの二人の仲間。
胸には深々と魔族の爪が突き刺さっていた。
「うそ……だろ……」
「……死んでる。」
エリュが震える声で告げる。
その瞬間、俺の中で何かが崩れた。
「てめぇ……よくも……よくもォォォ!!!!」
「ヨシオ、待っ――!」
ウケールの制止も聞かず、俺は魔族に向かって突っ込んでいた。
◆
だが、魔族は俺の剣を弾くように後退し、笑った。
「……人間の感情。面白いな。だが――」
魔族は残されたルシェとリオナの死体を嘲笑うように蹴った。
「くだらん誓いだ。守れぬ命など、初めから価値はない」
その言葉で――俺の理性は吹き飛んだ。
「お前を……俺の命に代えてでも、ここで殺す」
剣に雷光が奔る。《雷牙閃・断》。
だが、突き出した瞬間、魔族が奇妙な動きを見せた。
「……なっ!? リリィ、退けッ!!」
「遅いッ!」
魔族の爪がリリィに向かって放たれる――
――が。
「っ……リリィを……傷つけさせない!!」
エリュが前に出て、盾となった。
鋭い爪がエリュの肩を裂く。
「くっ……!」
「エリュ!!」
「大丈夫……このくらい。リリィを……守りたかっただけ」
涙を滲ませた目で、彼女は笑う。
その一瞬。
「……終わらせる」
ウケールが無言で魔族の背後を取り、拳を打ち込んだ。
「《雷鎚裂天拳》!」
雷鳴とともに魔族の身体が砕け散り、空に魔素が舞う。
戦いは終わった。
◆
その夜。焼け残った砦の片隅で、俺たちは眠れぬまま時を過ごした。
リリィがそっと俺の隣に腰を下ろす。
「……あんなふうに、仲間を失うなんて……はじめてで」
「俺もだ。……情けねぇ。守るって言ったのに、何もできなかった」
リリィは小さく首を横に振った。
「ヨシオは、全力で闘ってたよ。それだけで、救われた」
彼女は言い、そして――俺の肩に頭を寄せてきた。
「……少しだけ。そばにいさせて」
「……ああ」
その温もりが、夜の中で唯一の希望だった。
◆
だが、眠りに落ちる直前――
「……次は、エリュが死ぬ番かもね」
どこかで聞いたその声に、俺は目を見開く。
だが、周囲に誰の気配もなかった。
胸の奥に、得体の知れぬ不安が、じっとりと広がっていった。
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