第94話『影の来訪者、火の誓い』
ギルド本部が静けさに包まれていたのは、ほんの一瞬だけだった。
「警戒態勢に入れ! 正体不明の魔力が接近中! 南門だ!」
エリュの叫びが、ギルドの中に響いた。
「ちっ……本当に来やがったな」
俺はすぐに剣を手に取り、外へ飛び出す。
南門へ続く石畳の道を踏みしめ、夜の空気を裂くように駆けた。
そこにいたのは、一人の黒衣の男。
だが、そいつの背後から――もう一人、現れた。
「……ウケール!? お前、どうして!?」
黒衣をまとったその姿に、一瞬目を疑った。だが――
「違うよ! こいつ……俺の顔を真似てやがるッ!」
俺の隣に立つ、本物のウケールが吠えた。
「影魔法か……。厄介だな」
エリュが隣に並び、魔導書を構える。
「どうする、ヨシオ。こいつら、単なる盗賊じゃない」
「わかってる。──リリィは?」
「後方支援の準備中! 火力は任せてってさ」
「よし。じゃあこっちは──全力で行くぞ」
黒衣の男が魔力を集中させる。地面から煙のような魔素が立ち上り、黒い刃が形成されていく。
だが――
「悪いがな、それより速い」
俺は一気に踏み込み、地を裂くように剣を振る。
「《断魔刃・煌》ッ!!」
白銀の魔力が奔流となって走り、影の刃ごと相手の身体を切り裂いた。
だが、男は即座に身体を煙に変え、背後へと避ける。
「やれやれ……期待以上だね。だからこそ、今ここで――殺しておかないと」
そう言った瞬間、空が赤く染まった。
「援護ッ! 《火翔弾・連撃》!」
リリィの声と共に、空から炎の矢が降り注ぎ、黒衣の男を直撃した。
「ぐっ……ッ!」
その隙に、ウケールが飛び出す。
「てめぇが俺の顔使った罰だッ!! 食らえ、必殺――」
「《雷鎚爆裂拳》!!!」
雷鳴のような拳が空を切り、炸裂音と共に影を吹き飛ばした。
◆
「……はぁ、なんとか追い払ったな」
「いや。今回は様子見だったはず。あいつ……途中で手を抜いた」
エリュが周囲を警戒しながら言った。
「狙いは俺たちじゃない。きっと、この街そのものだよ」
◆
その夜。ギルドの裏庭。
俺は焚き火の前で一人、剣の手入れをしていた。そこに――
「……ねぇ、ヨシオ。少し、いい?」
リリィがそっと隣に座った。
「ありがと。今日、あんなに心強かったの、初めてかもしれない」
「お前だって、すげぇ魔法だったぞ」
「えへへ。もっと、褒めてほしいな」
火の光に照らされたリリィの横顔が、どこか大人びて見えた。
「ねぇ、ヨシオ。私、あなたのこと……」
その言葉を遮るように、突然リリィが俺の肩に頭を預けてきた。
「今日は……このまま、そばにいさせて」
「……ああ、いいぜ」
夜風が、ふたりの間をそっと撫でた。
その温もりが、明日を信じる力になる。
──だがその時、遠くの鐘が鳴る。
「緊急事態! 西の砦が……燃えています!」
ギルドの警鐘が、再び鳴り響いた。
嵐の夜は、まだ終わらない。
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