第93話『眠らぬ都と影の使者』
鉱山での激闘を終え、俺たちはギルド本部がある都市に帰還した。
火の匂いと焦げた土の臭いが、まだ鼻の奥に残っている。
「依頼達成っと。ほら、ちゃんとバルムレッグの角、持ってきたぜ」
ウケールが豪快に袋をカウンターへ叩きつけると、受付嬢のエレナが少し顔をしかめた。
「もうちょっと丁寧にお願いします……。でも、確認しました。これで依頼は完了です。報酬は──」
「ちょっと待ってください!」
唐突に、ギルドの奥から飛び込んできたのは、白銀の髪を靡かせたエリュだった。
「お前……どこ行ってたんだよ」
「別口の調査をしてたの。バルムレッグが突然暴れ始めた原因、分かったわ」
「……は?」
エリュが持ってきたのは、黒ずんだ布切れと、焦げた魔導具の破片だった。
「これ、地下に仕掛けられていた《術具式起動石》。つまり……誰かが、わざとバルムレッグを暴れさせたってこと」
ギルド内に緊張が走る。
「誰が……何のために?」
「それはまだ調査中。でも、数日前から《黒衣の訪問者》がルーフェンに入ってきたという噂があるの」
◆
その夜。
「……お風呂、ありがとね。やっぱり、ヨシオの家のお風呂が一番好き」
そう言って、バスタオル姿のリリィが、俺の部屋にぬるりと入ってきた。
「お、おい!? 部屋間違ってないか!?」
「間違えてないよ? だって……」
ぽす、と俺の隣に座りながら、リリィは目を伏せた。
「もう、ヨシオの隣以外、落ち着けないから……」
肩がそっと寄りかかってくる。
その体温に、少しだけ心が揺れた。
「ヨシオ……私、もう弱くないよ。ちゃんとあなたと並んで、これからも戦っていきたいの」
その瞳に、決意と、少しの甘えが混じっている。
「……わかったよ。俺も、お前がいてくれて助かってる」
「……ふふ、ありがとう」
小さな口づけが頬に触れた。
一瞬の、それでいて確かな約束のようなものだった。
◆
深夜。
「ふぅ……。やっぱ俺、甘すぎるのかな」
一人、ベランダに出て空を見上げる。
そんな俺の背後に、黒い影が落ちた。
「……ようやく見つけた」
その声と共に、空気が冷たくなる。
現れたのは漆黒のローブを纏った男。その手には、あの焦げた魔導具の複製品が握られていた。
「“灰色の狩人”ヨシオ。君の存在が、そろそろ邪魔なんだよ」
――そして再び、嵐の幕が開く。
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