第92話『灰の鉱山にて、赤き喰らい火』
目指すは西方の廃鉱山。かつて銀を産出していたというその坑道は、今や「赤き喰らい火」と呼ばれる魔獣の巣となっていた。
ギルドの馬車を借り、俺たちは揺れる車内で静かに揺られていた。
「……ルシェとリオナがいたら、こういう道中も賑やかだったね」
リリィの言葉に、皆が少しだけ黙る。だがその空気を和らげるように、ウケールが口を開いた。
「おーい、エリュ、そろそろ酒でも飲むか?」
「は?仕事中だよ?バカなの?」
「真面目かよ!なあヨシオ、俺ら“ウケール団”なんだぜ?」
「……いつからそんな団できたんだよ」
そのやりとりに、リリィがくすりと笑った。
その笑顔は、ほんの少しだけ、かつてのあたたかい日々を思い出させてくれた。
◆
鉱山の入口は、思ったよりも静かだった。
「……気配が薄い。だが、焼け焦げた臭いがするな」
「何かが、いる」
エリュが風を読むように、目を閉じる。
「注意して進もう。リリィ、俺の後ろに──」
「……ううん。今日は、前に出るよ」
そう言って、リリィが杖を構えた。
「もう、誰も失いたくないから」
その瞳には、もう迷いはなかった。
◆
坑道の奥、巨大な広間に辿り着いた瞬間、空気が一変した。
──ズォォン!
爆音と共に、灼熱の咆哮が洞窟内を震わせる。
現れたのは、全身が赤く光り、岩のように硬化した皮膚を持つ巨大な魔獣。
「バルムレッグ……!」
俺たちはすぐに布陣を整えた。
「リリィ、後衛から援護!ウケールとエリュは左右から挟み込め!」
「任せろ!」
「了解!」
魔獣の火球が飛来する。俺はすぐに叫んだ。
「──《氷壁展開・凍結障壁》!」
氷の壁が火を裂き、道を切り開く。
その間隙を縫って、エリュが矢を放ち──ウケールが雷撃を込めた剣で突撃。
「おらあああああああ!!」
雷鳴が爆ぜ、バルムレッグの左脚を貫いた。
「リリィ、今だ!」
「──《連環爆雷》!」
空から降る雷の槍が、魔獣の背を焼いた。
「ヨシオ、いけ!」
「……ああ!」
魔力を一点に集中させる。
「──《解呪・滅法閃》!」
全力の一撃を込めた魔法剣が、魔獣の心臓を貫いた。
──ズズン……。
崩れるように、バルムレッグが倒れ込んだ。
◆
帰路の馬車、皆は疲れて眠っていた。
俺とリリィだけが、夜の星空を見上げていた。
「……ありがとう、ヨシオ」
「何がだ?」
「いつも、守ってくれて。でも今日は……ちゃんと一緒に、戦えたから」
リリィはそっと俺の肩に寄りかかった。
「ねえ……今だけ、少しだけ……そばにいて」
「……ああ」
俺は静かに、彼女の手を握った。
暖かく、小さなその手の中に、失われたものと、新しい未来を感じた──。
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