第90話『焼けつく風の中で、君がいた』
リオナの槍が折れ、ルシェの体が崩れ落ちたあの瞬間──。
俺たちの時間は止まったままだった。
目を閉じれば、まだ彼女たちの声が聞こえてくる。
「……おい、ヨシオ。飯、食ってるか?」
低く、掠れた声で話しかけてきたのは、ウケールだった。
焚き火の前に腰を下ろし、彼はいつものようにパンをかじっている。
だけど、その手はわずかに震えていた。
「……お前こそ、寝れてないだろ」
「俺のことはいい。……リオナとルシェの遺体、ちゃんと焼いてやれてよかったな」
「……ああ。あれが、せめてもの……」
言いかけたときだった。
「──ねえ、ヨシオ」
声がした。
淡い鈴の音のような声。
振り返ると、そこにはリリィが立っていた。
彼女の金色の髪は風に揺れ、深紅の瞳が、どこか悲しげに揺れていた。
「少し……歩かない?」
俺は頷く。
森の外れまで歩く間、互いに何も言わなかった。
でもその沈黙が、今はなぜか心地よかった。
◆
夜空の下、小さな丘の上で、俺たちは腰を下ろした。
「ねえ……ルシェたちのこと、私はちゃんと、忘れないから」
リリィはそう言って、俺の手を取った。
「……私、怖かった。あのとき、何もできなかった。震えてただけ。私……このままだとまた誰かを──」
「違う。お前がいたから、俺は立ってられる。リリィ……」
俺の言葉が、彼女の心を震わせたようだった。
リリィはそっと、俺の胸に額を当てた。
「もう少しだけ……こうしていていい?」
俺は、答えの代わりに、彼女の背を抱き寄せた。
鼓動が、互いに伝わる距離。
熱を帯びた空気の中、風が静かに吹いた。
やがて──
「好き……よ、ヨシオ」
小さく震えた声に、俺の心が跳ねた。
「俺もだ。……お前がいるだけで、救われる」
リリィの瞳が細められ、そっと唇が重なった。
炎のように、儚くて、でも確かな温もり。
その夜、俺たちは初めて心から寄り添いあった。
◆
──そして、夜が明ける。
「ヨシオ、ウケールがギルドに戻ろうって」
リリィの声に頷いた。
「……あいつらの分まで、俺たちは生きる。それが、今の俺の誓いだ」
ギルドが待っている。
新たな戦いも、試練も。
でも今は、俺たちにしかできないやり方で、歩き出す時だった。
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