第87話『悲劇の先に、灯る誓い』
“真の扉”が開かれた先に広がっていたのは、まるで腐敗した神殿のような空間だった。
天井は高く、無数の光の柱がゆらゆらと揺れている。けれど、その光の下にあるのは――人の骸だった。
「……これは……」
リオナが小さく呟いた。
彼女の手が震えている。神官として、人の死には慣れているはずなのに、これは――何かが違っていた。
「おい、動くな」
ルシェが即座に前に出て、リオナを庇う。盗賊として身軽で、仲間の盾役も兼ねている彼の動きは、いつも迷いがなかった。
だがそのときだった。
――ズグン。
空間が歪み、黒い槍のような“何か”が突然、地面から突き上げてきた。
「ルシェッ!!」
俺の叫び声と同時だった。
ルシェの腹部に、漆黒の刃が貫通していた。
「……は、早いな……」
彼女は呟くように言いながら、崩れ落ちた。
目を見開いたまま、ルシェは……動かなくなった。
「ル、ルシェ……? 嘘……でしょ?」
リオナが青ざめ、彼に駆け寄ろうとする――その瞬間。
――ドクン。
空気が変わった。
後方から、まるで音もなく“何か”が現れる。
「リオナ、後ろッ!!」
ウケールの怒鳴り声が響いた。
だが――間に合わなかった。
黒衣の影が、リオナの首筋を“優しく”撫でるように手をかけた瞬間、彼女の全身が一瞬で冷え切ったように硬直する。
「う……そ、なんで……?」
その目が、ゆっくりと閉じられていく。
何かに囁かれたような、穏やかな笑みさえ浮かべながら――
リオナは、ルシェの隣に倒れ込んだ。
「……おい……なんだよ、これ……!」
俺はその場で膝をつき、歯を食いしばった。
ルシェも、リオナも。
たった一瞬の出来事だった。何もできなかった。守れなかった。
仮面の男・零式が低く呟いた。
「“それ”は、《神格の断罪者》だ。すでにこの空間を侵食している。“記録”を超えた存在――神の不具の一部だ」
「ふざけんな……こんな奴がいるなんて聞いてねえ……!」
ウケールが前に出て叫ぶ。
「黙ってたな、零式……お前、この空間が“罠”だったって知ってて……!」
「罠ではない。“試練”だ」
零式はあくまで平然と返す。
「君たちはこれから、“存在そのものを喰らう者”と戦う。その覚悟があるか?」
「……ふざけるなよ」
俺が立ち上がった。
「ルシェも、リオナも……確かに死んだ。でもな、無駄死にじゃない。俺たちは前に進む。あいつらの魂が後ろから見てる。だったら、俺たちは止まれねぇ!!」
「ヨシオ……」
リリィがそっと俺の手を取った。
その目には涙があった。でも、それでも立ち上がろうとしていた。
「行こう。必ず、仇を討つ。……絶対に、あの二人の分まで、生き抜くんだ」
そして――
俺たちは、悲しみを抱えたまま、闇の中へと足を踏み出した。
命の重みを噛み締めながら。
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