第86話『零式の審問、そして扉の先へ』
――静寂。
《始原の扉》が、ギギギ……と重苦しい音を立てて開かれていく。
「こいつ……本当に、通してくれる気なのか?」
俺が低く呟くと、隣でウケールが不機嫌そうに腕を組んだ。
「信用できねえ。あの仮面野郎、何考えてんのか全然読めねえし……目がないってだけで、こんなに腹立つの初めてだわ」
「いや、目があってもお前はだいたい怒ってるだろ」
俺が突っ込むと、ウケールは「うるせえ」と鼻で笑った。
「でもまあ、俺たちの“資格”を試すってなら、答えてやるさ。なあ、ヨシオ?」
「ああ。ここまで来たんだ。簡単に引き返せるわけないだろ」
扉の奥から、鈍い光が差し込んでくる。
その先には――
記録の空間
目の前に広がっていたのは、浮遊する光の粒と、無限に反射する鏡の回廊。
まるで、世界中の“過去”が映し出されているような幻想的な景色だった。
「うわあ……! これ、全部……」
リリィが目を見張り、空間の中を一歩進む。
鏡に触れると、そこに浮かび上がったのは――
ヨシオとリリィが初めて出会った時の記憶。
「……これ、私の……?」
「いや、たぶん俺たちの“記録”が視えるんだ。零式が言ってた“記録の価値”って……このことか」
「記録は、個人の中に残り、積み重なる――それがこの空間の仕組みか」
冷静に分析するエリュの声。
その横でウケールは、鏡を一枚蹴り飛ばそうとしていた。
「おいおい、何すんだよ!?」
「いや、試したくなるだろ。ぶっ壊せるのかって!」
「壊したら何が起きるかわかんねぇだろ!!」
「それも含めて“試練”じゃねえのか? ヨシオ、行くぞ!!」
「行くって何!? お前、勝手にテンション上げるな!」
慌てて止める俺をよそに、ウケールはニヤリと笑って“拳”を作る。
「へっ、ま、何があっても俺がお前を守ってやるって。そういう役回りだろ、昔っから」
「……昔?」
思わず俺は、ウケールを見つめた。
こいつ、そんなこと――
「ま、気づいてないならいいけどな。行こうぜ、ヨシオ」
「……ああ」
そして、記録の迷宮を進んだ先。
俺たちの前に再び現れたのは――仮面の男、零式だった。
「記録、確認完了。次なる審問は――お前たち自身の“歪み”だ」
そう言って、零式が鏡の中に手をかざすと、光が波打ち――
映し出されたのは、“もうひとつの自分たち”。
リリィの冷たい目をした姿。ウケールが仲間を裏切る幻影。
そして、俺が――リリィを切り捨て、力に溺れている姿。
「こ、これは……!」
「まさか、こんな……っ」
「これが“歪み”……? 俺たちが、なり得たかもしれない過去……?」
そのとき、リリィが震えながら俺の手を握った。
「ヨシオ……私は、こんなふうにはならない。絶対に……」
「当たり前だろ」
俺は笑って、彼女の手を握り返す。
「だって、俺が止める。お前が間違った道に行くときは、必ず。……その逆も、頼む」
「うん……!」
「……チッ、感動しやがって」
ウケールが鼻を鳴らした。
「おい、零式! こんなもんで“資格”を語るなよ。俺たちが何者かなんて、俺たちが決める!」
「言ってくれるな……」
零式はゆっくりと仮面に手をかけ、初めて――その下の素顔を見せた。
「では、次は“真の扉”だ。そこに踏み入る覚悟、あるか?」
その声は、まるで人間らしい温度を持っていた。
「――ああ、行くぞ。俺たちは、ここまで来たんだから」
俺たちは、仲間と共に、扉の先へと進む。
過去も、歪みも、試練も、全て受け入れて。
そして、“真の敵”へと至る旅が、始まろうとしていた――。
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