第82話『記憶庫セラ、響く過去と今』
――カツン。カツン。
氷の洞窟の奥へと、俺たちの足音が静かに響いていた。
ひんやりとした空気が、肺の奥まで染み込んでくる。
「……ここ、本当に遺跡なのか?」
ウケールがポツリと呟いた。
「そう見えないってこと?」
リリィが問いかけると、彼は壁に浮かぶ紋様を指さす。
「いや、だって見てみろよ。あの紋様、俺のパンツの柄と似てないか?」
「……知らねぇよ」
俺とエリュが同時にツッコむと、ルシェだけがクスッと笑った。
「……でも、不思議だね。どこか懐かしい感じがする」
そのとき――氷壁の奥で、突如淡い青い光が脈動した。
《識別確認完了。セラの記録庫、開示開始》
バチッ――と、冷たい空気を裂くような音が響く。
目の前の氷が、まるで生きているかのように動き出し、重なりあって“扉”となる。
「動いた……!魔法装置か……?」
「ルシェ、お前の魔力に反応してるっぽいぞ」
俺がそう言うと、ルシェは少し不安げに眉を寄せた。
「……これ、精霊の記憶の中にあった。でも、私はまだ……すべてを覚えていない」
「大丈夫。俺たちが一緒だ」
俺の言葉に、ルシェはそっと頷いた。
扉の先には、広大なホールがあった。
天井からは氷のシャンデリアのような結晶が輝き、壁には“過去の魔術”が映像のように流れていた。
「うお……! なにこれ、魔法映画館……?」
「違う。それは“記憶の映写”……かつての英傑の記録だわ」
エリュが驚いたように呟く。
映像の中で、1人の魔導士が、炎と雷を同時に操り、黒き竜を撃ち落としていた。
――その顔は、どこか俺に似ていた。
「……まさか、これ……」
「うん。あなたの前世かもしれないね」
そのときだった。
――ギィ……ッ!
ホールの奥に、何かが“起動”する音が響いた。
《記録保持者に外部者……反応アリ。警戒モード、起動》
氷の床が砕け、氷像の守護騎士が姿を現す。
「来るぞ!!」
俺はとっさにルシェを庇い、ウケールが飛び出す。
「うおおおお!!今こそ、俺の新技――『極寒ウケールブリザードパンチ』!!」
「そんな技ねぇだろ!!」
叫びながら俺は魔法陣を展開する。
「《風よ、凍てつく刃となれ――ウィンドスパイク》!!」
氷像の一体の脚を切り裂き、リリィが火の矢を放ってカバーする。
「エリュ、頼む!」
「わかってる――《大地の楔》!!」
地面から突き上がる岩の柱が氷像を叩きつけ、粉々に砕いた。
そのとき、ルシェの目が青白く輝く。
「……これが……わたしの記憶……。精霊の……」
光が舞い、ルシェの周囲に氷の羽根が浮かび上がる。
「――《蒼羽の記録・第二層、展開》」
彼女の足元に魔法陣が出現し、氷の風が全体を包み込む。
その瞬間、すべての敵が静止した。
「すご……い。時間が……止まった?」
「いや、違う。これは……“思考の加速”だ」
俺たちだけが、世界よりも速く動ける。
俺はルシェと目を合わせ、頷いた。
「今だ、全員で決めるぞ!」
「了解!!」
「いっくぞーーーッ!」
「やるしかないわね!」
「……行こう!」
俺たちは、共に走る。
それぞれの力を合わせて、今この“過去”を越えていく。
――仲間たちとともに。
《記録、更新。記憶の継承、進行中……》
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