第67話『砂塵の依頼、そして再び歩き出す』
「で――これが、例の新しいクエストだ」
ギルドの受付嬢アーニャは、俺たちの目の前に一枚の依頼書をトンと置いた。
その表紙には、やや大げさな書体でこう書かれていた。
> 『極東砂域・沈みゆく塔の調査任務』
「また砂漠かよ……この前、砂を三杯くらい食った気がするんだが」
ウケールが不満げに肩をすくめると、アーニャはくすっと笑った。
「この任務、難易度は高くないけど、調査系だから長丁場になるかも。例の“転写の断章”と関連性があるって王都がにらんでるのよ」
「塔の地下に古代転写術に関する“転写核”が眠っている可能性があるって、文献に記されていたわね」とエリュ。
「なんか最近、クエスト受けるたびに世界の根幹に近づいてる気がするの、気のせい?」
リリィが肩をすくめながらも、どこか楽しげに言った。
俺はふと、手元のチョコパンもどき干し餅を見下ろす。
「……まあ、食料も補充したし、行けないこともないな」
「それ、“食料”って言っていいのか?」
ウケールが指を差したのは、俺の隣に無造作に積まれた干し魚と謎のゼリー塊だった。
「ヨシオ、あんたそれ好きなの?」
「いや、配給で安かったからつい……っていうか、ほら! お前こそ甘いジャム漬け干し椎茸食ってたじゃねえか!」
「うっ、それは……!」
仲間たちが笑いながら軽口を交わす中、エリュが静かに依頼書を読み進めていた。
「……この塔、かつて“記憶の保管庫”と呼ばれていたみたい。もし本当に転写核が眠っているなら――」
「“思い出せない何か”を思い出す鍵になるかも、だろ?」
俺が言うと、彼女は少し目を見開いて、ふっと微笑んだ。
「……そうね。ヨシオってたまに、核心突くのよね。驚くほど」
「たまにって言うな」
◆
ギルドを出て、俺たちは街外れの宿に戻った。出発は明朝。今日はゆっくりと準備を整える日だ。
リリィとウケールは補給係。エリュは文献整理と遺跡の地図確認。俺は……というと。
「……飯、作るか」
「うおっ!? ヨシオが自炊!? 地獄の釜が開くんじゃ――」
「おまえマジでやかましい。大丈夫、リリィが下準備してくれてるから、混ぜて温めるだけだ」
そう言いながら鍋を火にかける。香ばしい匂いが立ち昇り、意外にも“まとも”な料理が出来上がっていった。
「ん……うまい!」
「なっ、うまいだろ!」
「ヨシオ、あんたやればできるじゃない!」
「でしょ!?」
思わず笑い合う俺たち。
どこか、懐かしい気がした。
火を囲んで、仲間と笑って、明日の話をして――それだけで、どこか心があったかくなる。
エリュが、ふとぽつりと呟いた。
「……昔、こうやって魔術局の仲間と遠征前夜を過ごしたことがあるの。似た匂い、似た空気」
「そっか……」
「でも、その時はこんなに……自由じゃなかった」
彼女の目に映るのは、きっと過去の幻影だ。
でも今ここにいるのは、仲間であり、自由を手にしたエリュだ。
「明日は早い。今日は早く寝よう。――戦うためじゃなくて、探しに行くんだから」
そう言って、彼女は少し照れたように毛布を引き寄せた。
俺も、火を見つめながら小さく頷く。
忘れられた“名”を探しに行く旅。
そして、自分の名を刻む旅。
仲間がいる。笑いがある。
それだけで、俺は充分に強くなれる気がした。
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