第44話『それぞれの約束、そして旅の再開』
――静寂。
試練の間が崩れ落ちた後、俺たちはしばらく呆然と立ち尽くしていた。
「……終わった、のか?」
俺の声に、誰かが「うん」と小さくうなずく。
リリィだ。額には少し汗が残っているけど、唇には笑みが浮かんでいた。
「ヨシオ、あんた……すごかったわね。あの魔法、完全に覚醒してたじゃない」
「あれ? 俺、何やったっけ?」
マジで記憶が曖昧だ。なんか、頭の奥が痺れてる感じで。
「“煌天崩閃”だ。天空の光を集めて敵を貫く、伝説級の魔法だぞ。普通は大賢者クラスしか扱えないはずだが……」
説明してくれるのはウケール。あのいつもふざけてる彼が、今は真面目な顔をしているのがちょっと怖い。
「すげぇ……俺、チート系じゃん?」
「いや、今さらだし」
リリィの突っ込みがすばやく刺さった。
それでも、みんな笑ってる。どこか、心が軽くなるような時間だった。
エリュが近づいてきて、小さな声で言う。
「ヨシオ、ありがとう。あなたがいなかったら、ここで私は……みんな……」
「気にすんな。助け合いってのは、仲間の基本だろ」
そう言うと、エリュは頬を赤くして、うなずいた。
……いや、俺の心の鼓動、おかしくね? なんでヒロインが増えるたびに心拍数も増えてんのよ。
◇ ◇ ◇
神殿を脱出したあと、俺たちは近くの町――【カイルン】に戻った。
ギルドに顔を出すと、酒場のマスターが俺たちを見るなり、口に含んでたスープを盛大に吹いた。
「なんで生きて帰ってきてるんだぁぁぁああああ!!」
……ひでぇな、普通に感動してくれてもよくね?
「だって……お前ら、三つの試練に挑むって言っただろ。あそこ、普通は帰ってこねえよ!」
「まあ、俺たち普通じゃないしな」
ウケールが、いつもの調子で胸を張った。いや、お前は多少異常だろ。
ギルドのカウンターで手続きが済むと、何やら奥から偉そうな女の人が出てきた。片眼鏡かけてて、なんか貴族っぽい雰囲気。
「あなたたちですね。今回の“神殿の試練”を乗り越えたというのは。ギルド本部より通達があります」
「通達?」
俺が聞き返すと、彼女は紙を一枚差し出してきた。
「“特例Sランク相当冒険者認定候補”としての一次通過です。これより先は“外世界接触区域”でのクエスト依頼が可能となります」
「……え、それって」
俺の脳裏に、あのとき最後に見えた“扉”がよぎった。
「そう。次は、“異世界の扉”の管理区域へ進んでもらうことになります」
どうやら、冒険者としての物語は、まだまだ終わらないらしい。
◇ ◇ ◇
夜。宿の部屋でリリィと二人きりになったとき、彼女が急に話しかけてきた。
「ねぇ、ヨシオ」
「ん?」
「……これから、もっと危険な場所に行くんだよね」
「まぁ、そうなるな。俺もよく分かってねーけど、雰囲気的に」
リリィは少し黙ってから、ポツリと続ける。
「だったら……せめて、約束して」
「約束?」
「絶対に、あたしより先に死なないこと。もしそうなったら、ぶっ飛ばしてやるから」
……なんだそれ。
でも、俺は笑った。
「わかったよ。じゃあ俺も一つ。俺より先にリリィがいなくなったら……絶対、迎えに行く」
リリィは一瞬だけ目を見開いて、すぐに、いつもの笑顔に戻った。
「……バカね」
その夜、ふとんに入ったあとも、俺の心はどこか温かかった。
――明日から、また新しい冒険が始まる。
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