第41話『セレス・オルビスへ──空の神殿への旅立ち』
空に浮かぶ神殿――セレス・オルビス。そこへ向かうには、ギルドから提供された特殊な飛空艇で、浮遊結界を突破しなければならない。
出発の朝、リリィが俺の隣でそわそわと落ち着かない様子だった。
「ヨシオ、本当に行くのね……」
「今さら止めても無駄だって、知ってるくせに」
「うん、でも……あんまり無茶しないで」
彼女の目には、ほんの少しだけ泪が漏れていた。俺は照れ隠しに頭をポンと撮る。
「お前がそうやって見送ってくれるだけで、俺は十分守られてる気がする」
「……もうっ。ヨシオってば、そういうこと言うときだけはカッコいいのよね」
にやけるリリィの頑の頃が少し赤い。いい感じに送り出された俺は、仲間たちと共に飛空艇へ乗り込んだ。
エリュは、相変わらず本を片手にしつつ、周囲の魔力バランスを精密に分析していた。「この結界、以前よりも密度が高まっている。セレス・オルビスは明らかに何かを隠している」
「隠し事か。俺、あんまり好きじゃないんだよな……」
「私も、ね。けど、神殿っていう場所は“知る者”の覚悟も試すもの。恐れずに向かいましょう」
そして、もう一人。ウケール。
「お、なんか全然の違う風景じゃねーか。なんつーか、引返したいぞ、地上の日常!」
「また怪しげなことを言ってるわね……」エリュがウケールに辛口をとばしながらも、微笑みを漂かべている。
「でもな、オレ、こう見えて空の上はこわいのよ……おれ、魔法もちょっとだけ使えるようになったけど、正直、ここまで来たのは難しかった……」
「大丈夫だよ、ウケール。お前は笑いをたえないやつだろ。ここで辛そうな顔してるだけで、たぶん集中力は上がる。俺らは、笑ってりゃいいんだ」
飛空艇が空へと上昇していく。眼下に広がる街の灯が少しずつ小さくなり、やがて雲の海が俺たちの周囲を包み込む。
そして、ついにセレス・オルビスの浮遊層へ。
そこには、莊因な円形の神殿が浮かんでいた。まるで空そのものが宮殿になったかのような、神秘的で静譯な光景だった。
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雲を突き抜けた先には、青白く輝く異空間が広がっていた。宙に浮かぶ光の道、そこを縫うように飛行艇は進んでいく。セレス・オルビスはその中央に位置し、まるで巨大な瞳のように沈黙を保っていた。
「……すごいな、これが“神域”か」
俺は呆然と呟いた。周囲の空気が一変している。肌を撫でる風の質感すら異なるのだ。まるで物語の中の世界に入り込んだような錯覚に包まれる。
「これだけ魔力が濃いと、感覚器が誤作動を起こす危険があるわ。皆、意識を研ぎ澄まして」
エリュの言葉に、全員が表情を引き締めた。俺たちはもう“外”にいる。既知の世界ではないのだ。
「セレス・オルビスには“問い”があるという話だ。門番として、意志ある何かが試練を課す……それって本当か?」
そう尋ねたのはウケールだった。いまだに緊張気味だが、彼なりに状況を理解しようと努力している。
「可能性は高いわね。神域は“選ばれし者”しか通すことができない。その選定方法は時代ごとに異なるとも言われているけど……」
エリュがそう答えたとき、飛行艇が突然揺れた。
――ズウウウウゥン!
空間そのものが振動するような音が響き、目の前に巨大な扉が出現する。石造りのアーチには古代文字が刻まれており、それが淡い光を放っていた。
「出たな、試練の門……!」
ギルド長が唸るように言った。彼は、かつてこの門を遠くから見たことがあると言っていた。だが近づけたのは、今回が初めてだ。
すると、扉の中央から、人影が現れた。
「これは……!」
純白のローブをまとい、透き通るような金髪に碧眼を宿した女性。年齢は十代後半ほどに見えるが、その瞳には悠久の時が刻まれていた。彼女は浮遊しながら俺たちの前に降り立つ。
「汝ら、“真理”を欲する者たちよ。ここは神託の門。誠実と知恵と勇気を持つ者のみ、神殿へと至ることが許される」
ウケールがぽつりと呟いた。
「……あの人、足、地面についてないぞ……おれ、帰っていいかな?」
「ダメ」
即座に俺とエリュが突っ込む。
門番の女性は、ゆっくりと手を上げると、周囲の空間が再び震え始める。
「試練を受けよ。まずは“真実”を知る覚悟があるか、心を晒せ」
その言葉と同時に、俺たちの視界に、それぞれ異なる幻影が現れた。
俺の前に立つのは――
「……父さん……?」
死んだはずの父親だった。かつてこの世界に転生する前、俺にとってもっとも重い存在だった“罪”が、今そこにある。
「これは……俺の記憶……」
幻影は語らない。ただ立ち尽くし、こちらを見つめる。その瞳の奥に、過去の後悔と向き合う覚悟を問われている気がした。
ウケールの前には、幼い少女がいた。彼がかつて救えなかった子供かもしれない。ウケールは、拳を握りしめながら、だが震える声でつぶやいた。
「今度は……おれ、逃げない……」
エリュの前には、黒衣の大魔導士が立っていた。彼女の魔法を封じ、家族を失わせた宿敵だ。エリュの目には、激しい怒りと冷静な計算が混ざっていた。
「乗り越えるわ……私は、この記憶に、勝つ」
そして門番が言った。
「試練の第一は突破された。“過去”を拒まず、受け入れたことで、汝らに次の道が示されるであろう」
巨大な扉が、軋む音を立てながら開いていく。その奥には、浮遊する階段があり、さらに上層へと導いていた。
「この先には、もっとヤバいやつがいるってことだよな……」
「当然だろ。だけど行くしかない」
俺は静かに頷いた。仲間たちも、各々に顔を上げる。
「よし、行こう。セレス・オルビスの奥へ――“真実”の源泉へ!」
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