第40話『飛来する陰影、魔導都市ふたたび』
まさか、あんな形で一日が終わるとは思わなかった。
いや、正確には「一日が終わりそうだったところに、訳の分からない飛行物体が飛んできて、結局夜が始まった」って感じだ。俺の安眠計画、粉砕。
「ヨシオ。起きて。非常事態」
部屋に飛び込んできたリリィが、完全に戦闘態勢で言った。見た目は寝巻きのままだが、その目だけがマジだった。
「非常……何? 朝メシ食いすぎて腹下したとか?」
「違う! 空から、なんか降ってきてるの!」
「また隕石……? いや、今度は宇宙人……?」
「魔導飛行艦、らしい。アステリオスから」
その単語に、俺の眠気は一気に吹っ飛んだ。
アステリオス──空中都市。空に浮かぶ魔導文明の最高峰であり、地上とは限られた外交しか行わない、完全中立の宙上国家。
そんな場所が、わざわざ“何か”を地上に送り込んでくるなんて──
「理由は?」
「わかんない。でも、今ギルドが慌ただしく動いてて、私たちも呼ばれた」
「……俺ら、平穏無事な日常回が続くって話じゃなかったのかよ……」
「“日常”ってのは、“壊されてこそ”って感じ、しない?」
「やかましいわ」
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ギルド本部、作戦会議室。
俺たちが駆けつけると、すでにギルドの幹部連中や魔道士、冒険者代表らしき顔ぶれがずらりと揃っていた。
「ヨシオ殿、よく来てくれた」
ギルドマスターが俺に軽く頭を下げた。最近、こういう扱いをされるのに慣れつつある自分が怖い。
「状況は?」
「上空に出現した魔導飛行艦『クラヴィス』が、通信を一切拒否してきている。だが、ひとつだけ、転送魔法で文書を落としていった」
「文書?」
「これだ」
そう言って手渡されたのは、銀色の封蝋が押された厚手の封筒だった。封蝋にはアステリオスの王紋──“浮遊する六つの星と歯車”。
俺が手に取ると、まるでそれを待っていたかのように、封筒が勝手に開いた。
そして中から、淡い光とともに映像が浮かび上がった。
『──選定者田中・ヨシオへ』
いきなり俺の名前。
『あなたに、正式に“継承の試練”を要請する。アステリオスは、次なる守護継承者を探している』
「継承……?」
『この世界の魔導バランスは、いま大きく揺らぎつつある。空と地の均衡を保つため、“選ばれし者”が力を得る必要があるのです』
やたら芝居がかった口調のまま、映像は続いた。
『試練は、七日後。空の神殿“セレス・オルビス”にて行われます。詳細は、後ほど伝達されますが──田中・ヨシオ、あなたに断る権利はありません』
「いや、断らせろよ!? 俺に自由意志をくれよ!?」
「ヨシオ、君、ほんとに選ばれし者なんだな……」とギルド幹部。
「ちょっとだけ、泣いてもいい?」とリリィ。
俺は天井を見上げた。……また空かよ。もうちょっと地面に優しくしてくれ、この世界。
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ギルドを出たあと、俺たちは夜の広場をゆっくり歩いていた。
「ヨシオ、怖い?」
隣に並んで歩いてるリリィの声は、小さかったけど、確かに届いた。
「……怖くないって言ったら嘘になる。だけどさ」
俺は少し空を見上げた。今そこに浮かぶ“クラヴィス”の機影は、月を隠すように沈黙していた。
「もし俺が、また誰かを助けられるなら──“怖くても行く”のが、たぶん俺なんだと思う」
リリィは、なにも言わずに俺の手を握った。ぬくもりが、少しだけ強がってた俺の胸に染みる。
そして、俺たちは一歩ずつ、また“次の空”へ向かって歩き出した。
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