第39話『魔導都市の朝、そして始まりの約束』
魔道迷宮での死闘から、一夜が明けた。
俺は今、魔導都市フェルゼアの宿屋「金色の鍋つかみ亭」のベッドで、逆さまになって伸びをしていた。
「ぐえっ……背骨が……魔力が……うねってる……」
「おはよう、ヨシオ。まさか寝起きから意味不明なポーズで召喚されるとは思わなかった」
そう言って部屋に入ってきたのは、いつものように朝から髪が完璧に整ってるリリィだった。むしろ寝癖くらい見せてくれないと、こっちは人間でいる自信を失いそうになる。
「いやー、昨日の迷宮……思ったよりも精神力持ってかれたわ。体より心が筋肉痛って感じ」
「それ、わかる。あの石像の無表情、夢に出てきそうだった」
「俺は逆に石像に慰められる夢見た」
「病んでるじゃん!」
……うん、平和だ。
魔道士たちの救出も無事に終わって、今日の午前中はギルドからの正式報酬授与式ってことで、少しだけフォーマルな空気になっているらしい。
「ってわけで、ヨシオ。着替えて、ギルド行く準備して」
「えぇー……フォーマルって、俺スーツとか持ってないぞ?」
「問題ないわ。ほら、じゃーん!」
「それ俺のタンスから勝手に持ち出しただけじゃん!!」
リリィは、俺が“いつか使うかも”って丸めてた黒の冒険者ローブをひらひらさせながら笑ってた。くそぅ、着るしかない。
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ギルド本部前。でっかい建物、きらびやかな装飾、広場には人がわんさか。
「──昨日の“魔道迷宮封印解除”の件で、ヨシオたちの名前がもう広まってるって噂」
エリュがちょこんと俺の隣に立ってる。彼女はいつも小声だけど、こういう大事なことは耳元でちゃんと伝えてくれる。さすが魔道具オタク。
「うーん、目立ちたくはないんだけどなぁ……いや、目立ちたい気もするけど……悩む!!」
「どっちなの」
「俺の中の“目立ちたい俺”と“こっそりかっこいい俺”がケンカしてる」
「じゃあ、後ろでうっすら光ってたら?」
「エルフか幽霊じゃねぇか!」
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ギルドマスターから報酬と感謝状(しかも巻物タイプ!)を受け取った後、俺たちは裏手の庭園で少しだけ休憩していた。
ウケールが草の上でゴロゴロしてて、エリュは魔道具のパーツでパズル中。リリィは俺の隣で、足をぷらぷらさせながら空を見ていた。
「……ヨシオ、さ」
「ん?」
「迷宮で、あたしちょっと怖かったんだ」
「うん、俺も。マジで石像が光ったとき、“あ、これ人生で最期の光景になるパターン”って思った」
「違う、そういうんじゃなくて……もし、誰かが傷ついたらって。もし、ヨシオが動けなくなったらって思ったら、足がすくんで……」
彼女の目が、ちょっとだけ潤んでいた。
「……あのさ、俺がすげーのは、自慢できるくらい臆病ってとこなんだ」
「へ?」
「臆病だから、先に魔法使うし。臆病だから、誰よりも周り見てるし。臆病だから……仲間が無事か、気になってしかたない。だから、俺、倒れねぇよ。絶対に」
「……バカだな、もう」
リリィが、笑った。
その笑顔は、昨日までの迷宮の闇も、石像の無機質も、全部吹き飛ばしてくれるほど、あったかかった。
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その夜。
静かに日が沈むフェルゼアの空に、妙な影がひとつ浮かんでいた。
空中都市“アステリオス”から飛来した謎の魔導飛行物体。ギルドの高官たちが騒然とするなか、俺たちはまだその存在に気づいていなかった。
次の試練が、静かに──その姿を現そうとしていた。
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