第144章 賢者を使用する者との冒険 ③
この物語に、勇者は登場しない――。
エリはこの街の宿に戻り、サヨとハナにジュライの事を話す。
「アイツ、来てるの?」
「う~~ん、あの人お~~、うっとうしいんだよお~~ねえ~~」
「この街に来るまでずっと邪魔してきた。その理由がわかったよ」
「理由なんてあるんだあ~」
「まあ、あっちが勘違いしているだけなんだけど」
「その話はあとで聞くとして、今は『お宝』について話そうよ」
「警備があ~~厳重う~~でえ~~」
「大丈夫だよ、警備の数と配置はわかってる。いつもの通りに邪魔な人はサヨ姉、邪魔な壁はハナ姉にまかせるね。よし、行こうか」
3人は黒いローブに目元にマスクを付けて夜の街を駆け抜ける。
●●●
普通の建物の中に数人の警備が配置された。
その中で『お宝』とされている。最上級モンスターの獅子餓王が持っていた『獣王双剣』。
その『お宝』が狙われていることをジュライは知っていた。
三番隊隊長・スイボと一緒に『お宝』の前に立つ。
鎧に身を包んだ騎士の様な立ち振る舞いをする女性ーそれがスイボ。
「君の話が本当ならこの剣が狙われていることになるが本当かな?」
「確かだ! 俺が尊敬するエシヅさんが残した資料によればですけど。エシヅさんが死んだあと、荷物整理している中にとある泥棒の話が出てくるんです。これまでにエシヅさんはその泥棒を追って旅をしていたらしいです」
「その死んだ君の上司の意思を受け継いで泥棒を追ったんだ~」
「まあ、決めたのは俺ですけど。でもエシヅさんが追っていた泥棒と今回の泥棒は違うらしいですよね」
「じゃ~別人なんじゃない」
「いや~それが狙ってるものが同じなんです」
「だったら同じ人なんじゃない」
「いや~、それがエシヅさんが追っている泥棒は一人で、俺が追っているのは3人なんですよね」
「じゃ~違う人なんじゃない」
「いや~でも……。」
「まあ~いいや。君がそこまで言うから信じるが、来なかったら君は……死刑で」
「重ゥ!!」
「私を動かしたんだ、それぐらいの覚悟を持ってほしい。私は残業が嫌いなんだ」
スイボはたんたんとそう言った。
数十分後、建物の灯りが次々と消えていき警備も倒れていく。
『お宝』がある部屋にいるジュライがアタフタしていると異変に気が付いたスイボはどこからか取り出した、長い槍を構える。
「ジュライ、君は確か魔法使いだったかな?」
「ええ、の元警備兵の隊長から冒険者としてなった時の職は魔法使いになりました。まあ、俺は『捕獲系』の魔術しか使えませんが」
「それでいい、奴らの足を止めたら、私が倒し、君が捕らえる。いい」
「はい、お願いします」
話がまとまる中、謎の視線を感じてスイボは何もない場所に魔術の力を乗せたランスの攻撃を飛ばす。
暗闇の部屋の中で魔力の光が一瞬、輝き一人の影が映した。
「3人の泥棒ではない!! 誰だ!?」
「誰だろうとここに関係ない者がいる以上、これに触れようとするものは皆捕まえる」
「そ、そうだ!」
人影はナイフの様な物を取り出してスイボに向かってナイフを飛ばす。
暗い中、飛ばされたナイフに気が付くことが出来ずスイボに左目にナイフがかすり、傷を負ってしまう。
膝を付き倒れるスイボは、ジュライに心配させないと腕を伸ばして止める。
ジュライの方にもナイフが飛ばされた。そのこと気が付かないままジュライは戸惑い動けずにいた。
ジュライににナイフが当たる前に黒ローブに目元をマスクで隠したエリが弾く。
「お、お前は!」
「話はあとだ」
「(寄声? 魔力で声を変えているのか)」
スイボが左目の傷を抑えながらそんなことを考えていたが、エリとナイフを飛ばす者とは敵だと思った。
「ジュライ君、そこの者を捕らえなさい。ナイフの者は私が捕まえます」
エリはスイボの方を見る。ジュライは助けてもらったこともあり、スイボの命令に迷う。
「ジュライ君、君の仕事はその者を捕らえる事だろう。それを忘れるな」
スイボは自身の魔力を使って力を使う。
一瞬にしてスイボはナイフ使いの者の真後ろに移動してランスを突き刺す。
だが手応えが無かった。
「(これは身代わり? アサシンの魔術) はっ!! ジュライ君」
ジュライはエリの腕を掴んで黒いローブで隠す顔を剥ぎ取ろうしていた時だった、スイボの必死の声を聞いて『お宝』の方を見た。
ナイフ使いの者は『お宝』を持ち出して姿を消した。
「しまっ!!」
ジュライは言い終わる前に誰かに足払いされて倒れこみ、エリを掴んでいた手も放してしまう。
その隙にエリは何者と逃げ出した。
●●●
エリは助けてくれたサヨと共に建物の屋上にいた。
「危なかったね、エリ」
「うん、でも『お宝』が」
二人が話しているとエリの目の前にナイフが横切った。
飛んできた方を見るとナイフ使いがそこに立っていた。
「誰?」
ナイフ使いは答えないで無言でその場を去っていった。
不審な行動に違和感を感じたエリは、飛ばしてきたナイフの方を見る。
壁に突き刺さったナイフに紙が結ばれていた。
その紙には『これ以上、関わるな! 消されたくなければな』と書かれていた。
遅れてハナが二人の元にたどり着く。
「どうしたのお~~、予定と違くない~~」
「アレは、お父さんが探していた『お宝』に違いない」
「これまでの『お宝』は手掛かりにならないものだったり、ただの宝ものだったりしてね」
「うん、やっと本物に近づけたのに……。一度、ここから離れよう」
サヨとハナは近くの建物に飛び移り、それに続けてエリも行こうとした時、ジュライがエリの腕を止める。
「捕まえたぞ! 盗賊、いや怪盗かあ?」
「離せ!」
「君らは何が目的なんだ!! あのナイフ使いとどういう関係だ!!」
「うっ! 貴方には関係ない事。 ぼ…私達は貴方の思うよう者ではない。それだけは言っておく」
そう言ってエリは魔術でジュライの目に光を浴びせ、腕に滑りを使い手を離させて、魔術でその場を離れる。
「クソッ!! 何者なんだ! ん?」
ジュライは足元に落ちている紙きれを拾い上げ読む。
「エシヅさん、貴方はいったい何を追っていたんですか?」
独り言を言っていると左目を抑えながらふらふらと倒れ込むスイボ。
「謎だらけだな。多分、もう奴や彼らはここには現れないだろう」
「そうですね」
「次に行く場所は検討がついているのかい?」
「まあ、何となく」
「なら、私もついて行こう」
「はあ!! アンタ、中央国の隊長だろう!? そんなこと」
「良いんだ、もう辞めようと考えていたいし、後継ぎはもういるんだ。それに私はやりっぱなしの仕事は気分が悪くなるんだ。だから、君が知っている事、気になる事、そしてエシヅという男について話を聞きたい」
「わかりました。その前に、その傷を治してからですね」
ジュライはスイボをお姫様抱っこして持ち上げる。
「お、おい!!」
「なんだ?」
「君はアレだね」
「ん?」
「いや、いい」
そう言って暗い階段を下りていく。
●●●
宿に戻り荷物をまとめるエリ達。
「どうする? 次の場所」
「まだ解読う~~が出来てえ~~ないよねえ~~」
「いったん、南にある、ハソウルト国に行こう。そこに一度、お父さんが行ったって書かれていたから」
「でも、それは私達のお土産を買うためだって」
「うん、一旦、体を休ませよ。ここ数か月間の旅でお姉達も疲れてるし、いろいろと整理もしたいし。近くの町までなら魔法で行けるしね」
「近くにい~~温泉街もあったあ~~よねえ~~」
「たまにはいいね。行こう、エリ」
エリは父のメモを見直す。
どれだけ読み直したか、どれだけ開いたか、どれだけの数、解読したか。
それでも時間が経てばわかる事もある、気分が違えば見えてくることもある。そう思って何度もメモ帳を開くエリ。
彼等の物語は、勇者の旅にはほぼ関係しない――。




