第3話 グレンと愉快な仲間たち
朝日を浴びて体の活動が再開される。うん、目覚めのいい朝だ。
息を吸うと澄んだ空気が体を駆け巡る。鳥のさえずりが耳に心地よい。まさに絶好の狩り日和だ!
「というわけで、見回りに行くぞ!」
「ぐーぐー……」
折角トリゾウの部屋に迎えにきてやったのにまだ寝てやがる。上質な寝床が確保できたことで軟弱になっているのではないだろうか?
「おい、起きろ!」
「ぐふぁっ! あ、へ? ぐ、グレンさん、どうしたんすか?」
「どうしたもこうしたもあるか。さあ、見回りに行くぞ!」
「………………は?」
腹に一発きついのをかましたらようやく目を覚ましたかと思ったら、ボーっと窓の外を見て間抜けな声を出している。ようやく寝坊したことに気が付いたか。
「いやいやいやいや、どんだけ朝早いと思ってるんすか」
「なにを言ってる。朝早ければその分沢山狩りが出来るだろう?」
「はぁ。せめて後4時間は寝かせて欲しいっす。それまで一人で訓練でもしとけばいいんじゃないすか?」
「戯けたことを——」
「ソウサクさんが帰ってきて良いとこ見せたいのは分かるんすけど、これ以上安眠の邪魔するなら無理強いされたってチクるっすよ」
馬鹿な。そんなことされたらソウサクさんからの評価が下がるではないか!
確かソウサクさんが考えた法の中にパワハラ禁止というのがあったはずだ。無理強いするのは駄目だって意味だったか? 危ない危ない、少し暴走しすぎたみたいだ。
「そうだな、うん。ちょっと早すぎたようだ。また後で来よう」
「はいはい、お休みっす」
それにしても、最近俺の扱いが雑になってきているのは気のせいなのだろうか?
「9998、9999、10000!……ふぅ」
うむ、俺の相棒であるライトニングホーンソードも今日は調子がよさそうだ。
城の中庭でいい汗を流していると、前方から人影が現れた。
「あら、グレンさん今日も精が出ますね」
「あ、マルナさんおはようございます」
相変わらず美しいご婦人だ。
骨ばっておらず程よく肉付きがある肢体に、出るとこは出て引っ込む所は引っ込んでいる完璧なプロポーション。そして瑞々しい肌に世の男を虜にするような美貌を持ち合わせており、とてもじゃないが子持ちには見えない。そして外面だけでなく内面も素晴らしい。慎ましく優しい性格に美味しい料理。俺たちの団員の中で好意を抱いているやつも多くいるのもうなずける。なんていったってうちの女性陣ときたらガサツだし、そっち方面の能力はからっきしだからな。
「今日もこれから見回りですか?」
「ええ。魔物を倒すくらいしか俺にはできませんので」
「何を言っているんですか。グレンさん達が定期的に周囲の魔物を倒してくれるからルーナ国は安全なんですよ。感謝してもしきれないです」
「そ、そうですか。皆の役に立っているならば何よりです」
なんとも気恥ずかしいな。普段女性からこのように持ち上げられることはないからな。お世辞とは分かっていても照れてしまう。マルナさん恐るべし。ここにこれ以上いては危険なような気がする。
「では、俺はこれから行きますのでこれで」
「ええ、頑張ってください。夕飯は手によりをかけてグレンさんの鉱物をご用意いたしますね」
「…………」
「グレンさん?」
「あっ、ああ。ありがとうございます。ではっ!」
危ない危ない、一瞬意識が飛んでいた。あの笑顔はなんとも反則だ。俺はソウサクさんに一生を捧げると決めているんだ。あのような可憐な笑顔に引っかかっている場合では……でも本当に可愛かったな。そういえば、団員たちがマルナファンクラブなるものを立ち上げたと言っていたが。俺も入会を——って違う違う。
城の中を走ること数分、もう少しでトリゾウの部屋につくというところで人の話し声が聞こえてきた。
この声はトリゾウと……ソウサクさん!
「それでは無理しない程度に頑張ってくださいね」
「了解っす」
ソウサクさんと二人で話するなんてなんて羨ましい! こうしちゃおれん!
「ソウサクさん、おはようございます!」
「ああ、グレンさんおはようございます。僕はこれから用事があるのでこれで失礼しますね」
「そ、そうですか」
「ええ。ではそれでは失礼します」
ああ、折角のソウサクさんとお話をする機会が! トリゾウとは話を沢山していたのに。トリゾウとは……。おっと、トリゾウよ逃がさないぜ?
「さて、じっくり説明してもらおうか」
「ええー、勘弁してほしいっす。先にチョコとミントを起こしに行くっすね」
「あ、おいこら、まて!」
ぐぬぬ、逃げ足の速い奴め。絶対ソウサクさんと話した内容を聞き出してやる!
「えー、今日はパス!」
「私も折角の綺麗な服や髪の毛が汚れたら嫌ですからあなたたち二人にお願いしますわ」
「いやいやいや、何言ってるんすか」
トリゾウの後を追ってチョコ達の部屋に行くと、なんとも呆れる会話が耳に入ってきた。国境間自警団改めルーナ国自警団の一員としてあるまじき発言だ。
「おい、おまえら本気でそんなことを言っているのか?」
「う、グレン……」
「面倒なのが来ましたわ」
チョコとミントときたらソウサクさんから清潔な寝床や綺麗な衣服、煌びやかな装飾を賜ってから汚れるのを極端に嫌うようになってきた。自分たちでも自警団に入った当初の目的を忘れているわけではないが、それでも汚れるのは嫌なようだ。まったく、女心というのはよくわからん。
「いくら汚れたくないからといっても、国民を守るのが俺たちの仕事だろう?」
「わかってる。わかってるんだけど……」
「女性のこの葛藤を分かってほしいですわ……」
「まぁまぁ。グレンさんにチョコもミントも落ち着くっすよ」
珍しいことがあるもんだ。いつもは面倒事から逃げるトリゾウが仲裁してきた。
「誰にでも気分が乗らないことはあるっす。イヤイヤ狩りにでても集中力を欠いてミスをするだけっす」
「まあ、そうかもしれんが……」
「トリゾウ……」
「たまにはいいことを言うではありませんか」
確かにトリゾウの言うことは正しい。ルーナ国周囲の見回りは集中力が必要だ。国境間で狩りをしていた時と比べても魔物の強さが段違いだ。未知の魔物も多くいるためちょっとしたことでチーム全体が危機に瀕することもある。ふ、トリゾウもしっかり考えてるんだな。さっきのソウサクさんとの会話については今回のこの件に免じて許してやるか。
「でも残念っすね。ソウサクさん、今日新たに魔物を狩ってきたら新しい装備や衣服を作成してくれる予定だったんすけど。しかも新しい衣服には汚れない機能が付くとかつかないとか……本当に残念っす」
「えっ?」
「なんですって!?」
「——!?」
ななななななな、なんだって!? 新しい装備を賜れるだと?
こうしちゃおれん、急いで狩りに出ねば!
「おい、トリゾウ。チョコとミントは置いてさっさと見回りに行くぞ——って」
「なにしてるのよグレン。トリゾウならさっさと行ったわよ!」
「遅いですわ。ボサッとしてないでさっさと行きますわよ」
「ちょっ、待てお前ら!」
抜け駆けは許さんぞ! ソウサクさんから最初に新しい装備を賜わるのは俺だ!!
お読み頂きありがとうございます。
本日でリメイク版投稿してから1月が経ちました。皆様に少しでも楽しんで頂けているのであれば幸いです。ブクマ&評価してくださった方々、そして、最新話まで読んで下さった方々に心より御礼申し上げます。これからも、お付き合いしていただけると有り難いです。どうぞよろしくお願い致します。




