第2話 課題達成方法
「あらソウサクくん遅かったわね。さあ座って座って」
ネスの鞄の装飾を考えつつ夕食の時間に食堂に行くと、他の皆はすでに席についていた。いつも料理を運んできてくれるマルナさんもすでに椅子に座っている。来ていないのはマリとネスだけだ。
俺が席について暫くたってもマルナさんは動くことなくじっと座っている。まさか本当に夕食を作っていないのではないだろうか。料理に対して急に興味がなくなったとか……。
「そうだ、ソウサクくん。今日のお昼ご飯どうだった?」
「えっと、普通に美味しかったですけど……」
「そう、美味しかったのね。ふふふ」
マルナさん急にどうしたんだ? そういえば、今日のお昼に持たせてくれた弁当もマルナさんにしては手を抜いていたように思う。別に不味いとか弁当自体が悪いわけではない。レタスみたいな野菜と肉を挟んだ簡単なサンドイッチだったが普通に美味しかった。ただ、最近ではおせち並みに豪華なお弁当ばかりだったから相対的にそうみえているだけだ。
それとも、気が付かないうちにマルナさんの気に障るようなことをしたのだろうか? もしそうならば今すぐにでも謝らないといけないが心当たりがない。いや、俺のことだから無意識のうちに人を気づつけている可能性も十分にあり得る。
よし、とにかく謝ろう。話はそれからだ。
「マルナさ――」
「おにいちゃん、お待たせ!」
突然のマリの声とともに食堂の扉が開かれた。
声のする方に目をやるとマリだけでなく、ネスの姿も見える。
二人が配膳車を率いて中に入ってくると、食欲をそそるソースの匂いが部屋中に充満した。年少組からはぐぅぅ~とお腹の音が大きく響いている。育ち盛りの彼らにはこの匂いは耐えられないだろう。
いつもと同じように食事の配膳を手伝おうと腰を浮かした皆を手で制しネスが声をあげる。
「みんな落ち着き。今日はウチらが配膳してあげるからじっとしといてや」
「今日だけの特別だけどね」
マリもネスも別段料理に興味もなければ、給仕の仕事をしたいと思っていたわけではないはずだ。なのにこれはどんな心境の変化だろうか?
ネスが皆に料理を配膳しつつ、マリに意味ありげに目で合図を送っている。マリは頷くと、一際大きいお皿をもって俺の所まで歩いてきた。
「はい、おにいちゃん。私が一生懸命作ったんだよ。どう、凄い? 嬉しい?」
なるほど、そういうことか。
ドヤ顔のネスと満面の笑みで料理を手渡すマリ。その姿を微笑んで眺めているマルナさん。そして、目の前には俺仕様に作られたであろうハンバーグ。流石の俺でもこれが意味することは理解できる。なんせハンバーグから付け合わせの野菜までハート形だ。
「ああ、嬉しいよ。一生懸命に作ってくれてありがとうな」
「えへへー、喜んでもらえてよかった」
頭を撫でながら周囲を見渡すと、タークさんやグレンさん達まで微笑ましくこちらを眺めている。これは普通に恥ずかしい。
何はともあれネスは課題を達成したのだ。商売をするうえで約束は絶対だ。ならば約束通り本当にネスには鞄を作ってやらないといけないな。
「う~ん」
ソウにぃから出された課題。今までの計算問題と違ってこれは難しい。あの二人がうちがお願いしたからといって止めてくれるとは思えへんし。さあ、どうしたらええやろか。
でもこれはソウにぃが出してくれた課題や。ソウにぃのことやからウチに無理な課題は絶対に出さない。何か方法はあるはずや。
今でも覚えてる家族と仲間を一度に失った悪夢の日。迫りくる凶悪な魔物、逃げ惑う人々の悲鳴、倒壊した建物、燃え盛る炎、何かが焼け焦げた匂い。あの時は本当に絶望しかあらへんかった。このまま死ぬんやないかと思ってた。最後に覚えているのは父ちゃんと母ちゃんの言葉だ。
『ネスだけでも生きるんだ。ネスは俺たちの宝物だからな』
結局、奇跡的にウチだけ助かった。最後に聞いたあの言葉、父ちゃんと母ちゃんの分まで長生きしてこそ親孝行になると思う。あの世でそう願ってくれているはずや。
そして、命の恩人でありこんなウチを今日まで支えてくれたソウにぃたち。皆には内緒やけど、ウチの中では皆のことは勝手に新しい家族やと思ってる。これまで助けられてばっかやったけど、これからはウチが皆を助けるんや。だからこそ、こんなところで躓いている場合やない。
「止めさせるのではなく、自分から止めたくなるような方法を考えた方がいいんやないかな」
ということは、料理やおやつよりなんかどうでもよくなるようなものを探せばいいってことやな。
マルナさんが料理よりも大切なもんといえばマリねぇに違いない。そして、マリねぇがおやつよりも好きなものといえばマルナさんを除いたらソウにぃしかいない。
マルナさんとマリねぇとソウにぃか。なるほどなるほど。これはうまくいけばなんとかなるかもしれへん。ソウにぃが課題やし多少恥ずかしい思いをするのも織り込みやろう。
その日の夜、マリねぇとパジャマパーティを開催した。
「なーなーマリねぇ。ソウにぃの心をつかむには手料理がいいらしいよ」
「ふぇぇっ?」
お茶を飲恩でいたマリねぇが勢いよく噴出した。顔が赤くなってちょっとかわいい。
「な、なにを言ってるの?」
え、マリねぇバレてへんとでも思ってたん!? 誰が見てもまる分かりやと思うねんけど。
「そりゃあ、おにいちゃんのことは大切だけど、心をつかむとかそんな……でも、いつもも助けてもらってるから偶には恩返ししようかな。…………本当に喜んでくれるかな?」
「もちろん。マリねぇのこと惚れ直すんやない?」
「惚れ直すって……頭撫でてくれるかなぁ……えへへー」
「マリねぇ? マリねぇってば!」
あかん、マリねぇの思考が完全に別の場所に飛んでっている。完全に恋する乙女やなぁ。可愛いにもほどがあるやろ。同じ女として少し自信無くしてしまうで。
「おかーさん、今日のご飯は全部私が作るから!」
「マリ、こんな朝早くから急に……ああ、そういうことね。しょうがないわね。なら今日だけ、今日だけ特別よ? 私は手を出さないから頑張りなさい」
「うん!」
いやいや、ちょっと待って。
「マルナさんええんですか?」
「あら、今回の発端はネスかしら。ソウサクくんの為に料理を作るのでしょ? それなら私が手を出したらダメだもの。全部マリの手で作ってこそ意味があるわ。それに、料理を作るより二人を見守っている方がちょっと楽しそうだしね」
マルナさん察し良すぎやろ……。
「マリねぇ、料理は味見が重要やで。余計なものを食べてると味覚が微妙に影響されて正確に味付けが出来なくなるから間食はあかんで?」
「勿論。おにいちゃんに美味しいものを食べてもらうんだもん。最高に美味しいものを食べてもらうんだから。そして頭を撫でてもらうんだもん。そのためならお菓子の一つや二つ我慢できるよ!!」
おお、マリねぇが燃えている。恐るべし恋する乙女パワー。
何はともあれこれで課題クリアや。なんか簡単に課題達成できたような気もするけど、商売人やったらラッキー思っとかなあかんな。
これでソウにぃから鞄がもらえる。ウチの夢に一歩前進や!
お読みいただきありがとうございます。
課題達成方法はとっても簡単でした。そして、遠慮のなくなっていくマリ。この先どうなるのでしょうか……。




