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第12話 別離

「にいさん、ねぇ、兄さんってば。起きてよ」

「う~ん、あと5分……」

「もう、なに悠長なことを言っているのよ!」


 神速の鉄拳が俺の腹部を穿つ。相変わらず妹は容赦がない。

 でも、なんだか今日は疲れているんだ。研究のし過ぎなのかもしれない。だから今日くらいは多めにみてくれないだろうか。


「宗作くん、起きてください。時間がないのは本当なのですから」


 真里奈? あれ、今日はデートの約束でもしていただろうか。だから瑠奈もあんな起こし方を?不味い。真里奈との約束をすっぽかすなんて俺としたことがなんという失態だ。


「ごめん、真里奈。忘れていたわけではないんだ。ただ、無性に眠気が取れなく……て?」


 目を開けると、そこは見慣れた自室などではなく、暗い、どこまでも暗い空間があるだけだ。

 何だ? 何が起こっている。この現象はいったい……。

 確か俺は、寝る前まで実験を……いや、違う。実験なんかじゃない。さっきまで俺は戦っていたはずだ。何者かに背中から攻撃を受けて、目の前にはマリが……。


「マリ!!」

「はぁ、ようやく兄さんの意識が戻ったみたいだね」

「落ち着いて、宗作くん。ほら、深呼吸、深呼吸」


 は、そうだ。なんでここに瑠奈と真里菜がいるんだ?

 いや、それよりもマリが! 


「私たちがここにいるのはマリちゃんのおかげだよ」

「この空間では外と時間の流れ場が1万倍違うからマリちゃんは大丈夫ですよ」


 ~っ、急なことで頭が混乱しそうだが、混乱したところで良いことはない。とりあえず冷静にならないといけないな。


「ふぅ。それで、マリのおかげってどういうことだ?」

「兄さん、自分の体がどうなったか覚えている?」

「ああ」


 背中から腕のようなものが貫通し、恐らく心臓を握りつぶされたのだろう。


「地球なら心臓握りつぶされた時点で死ぬんだけど、さすが魔法のある世界だね。HPが完全に尽きるまで死なないんだもの」

「だから直ぐにマリちゃんの魔法で宗作くんの蘇生をして今に至るっていうわけです」


 心臓の復元まで出来るなんて。異世界凄いな。あれ、でも今までそんな魔法あると聞いたことがないし、そんなに簡単に死ぬ間際の人間を助けられるものなのか? それに、瑠奈や真里奈がいることと何の関係が?


「うん、兄さんが思っている通りそんな便利な魔法が何の代償もなく使えるわけないよね」

「この魔法の代償は、術者の魂なんです」


 代償が術者の魂? つまり、ということはマリは!


「ま、マリが代わりに死ぬということか!?」

「違うわよ」

「ねえ、宗作くん。私たちが何でここにいると思いますか?」


 瑠奈と真里奈がここにいる理由。それはずっと考えているが一向に答えが出てこない。正直、今でも2人は自分の妄想ではないのかと疑っているくらいだ。だって、瑠奈と真里奈はすでに――あれ? そういえばどうなったんだっけ?

 

「もう、兄さんったら私たちが妄想なんて失礼しちゃうわ」

「ええ、そうですよ。ほら、私たちは確かにここにいますよ」


 瑠奈と真里奈の手が俺の頬に触れる。その瞬間なぜだか涙が止まらなくなる。

 ああ、そうだ。完全に思い出した。瑠奈と真里奈は俺のせいで死んでしまったんだった。

 それなのに、こんな大事なことを一時でも忘れているなんて! 


「瑠奈、真里奈すまん、俺のせいで……それなのに俺――」


 謝罪の言葉をつむぐ前に、温かな感覚に包まれる。右からは瑠奈が、左からは真里奈が俺に抱きついた。


「兄さんのせいじゃないし、恨んでもいないから」

「宗作くんの記憶があやふやだったのも、精神の崩壊を防ぐために必要に迫られてのことだと思います。だって、0歳からやり直しているんですから」


 相変わらず2人とも良い奴だな。でも、だからこそ俺は自分で自分を許せない。

 

「う~ん、そんなに罪悪感を抱いているなら私たちの変わりにマリちゃんを幸せにしてほしいなー。そして、そのついでに世界を救っちゃえばいいと思うよ」

「そして、もちろん宗作さん自身も幸せになってくれないとだめですよ?」


 少しおちゃらけた口調だが、その瞳から2人が本心から願っていることだと悟った。

 マリを幸せにして、ついでに世界も救うか。

 この世界に来てから身近な人たちを幸せにしようとしているが、かつて失敗した俺に本当に可能なのだろうか。現に今だってマリを危険にさらしている最中だというのに。


「少なくとも私はそう信じているな」

「私も信じています。だって、宗作さんと過ごした日々は確かに幸せだったのですもの」


 そう言って、とても懐かしい、心が洗われる様な微笑を浮かべる。

 こんないい女にここまで言わせておいて、まだうじうじしている様なら男が廃るってものだな。

 ただ、迷わずに自分を信じてくれるみんなを信じて前に進むだけだ。


「まったく、2人には敵わないな。やれるだけやってみるさ」

「そうこなくっちゃ!」


 さて、折角こうして久しぶりに会えたんだ。もう二度と離れ離れにならないように……と言いたいとこだけれども、お別れしなくてはならないのだろう。


「さすがに察しがいいね。うん、私たち2人の魂を対価として兄さんを助けるから……もうお別れだね」

「マリちゃんに私と瑠奈ちゃんが偶然混じりあっていたお陰で宗作くんを助けられるんです。私たちは本望ですよ」


 ああ、そうだな。俺って幸せ者だよなぁ。


「もう、そんな顔しないでよ」

「別に私たちは消滅するわけじゃないですよ。ただ、別の世界で生まれ変わるだけです」


 そうか、消滅するわけではないのか。それはよか……いやいや、なぜそんなことを知っているんだ? 蘇生魔法にしたってそうだ。マリと一緒に育ったならば、そんなもの知る機会なんてなかったはずだ。


「えっとね、この世界に来る前に誰かからそんな話を聞いたような気がするの」

「私たちも自我が芽生えたのが最近で、あまり詳しくは覚えていないんです」


 誰か……。そうだ、この世界に来る前に俺も誰かに出会っていたはずだ。 

 思い出そうとしても思い出せない。あれはいったい誰だったのか。


「思い出してあげたいのは山々だけど、もう時間が本当にないみたい」

「そうか、いや、本当にありがとう。2人に出会えて俺は幸せだったよ」

 

 温もりが体から離れていく。視界が涙で滲みそうなのを我慢して、消える最後までその姿を眼に焼き付ける。俺の妹として、恋人として共に生きてくれた。そして、新たな命を授けてくれた2人の最後の姿を。


「2人が羨ましがるくらい、いい世界にしてやるからな。だから、瑠奈も真里奈も幸せになってくれよ!」

「うん、期待してるよ! そして、最後だから言っちゃうけれど、好きだったよ兄さん。1人の男性としてもね」

「あ、瑠奈ちゃんそれ今言うのずるいですよ。それに、私のほうがもっともーっと宗作くんのこと好きなんですからね!」


 こんなシリアスな場面のはずなのに、最後まで明るい2人に笑みをもらしつつ――。


「あ、マリちゃんも私たちに劣らず兄さんのこと愛しているので責任とって下さいよ?」

「幸せってそういう意味ですからね?」


 最後の爆弾発言により頭を抱えたくなった。


お読みいただきありがとうございます。


(泣)

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