↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
69/84

第13話 最期の願い

「おにいちゃん、おにいちゃん」

 

 ゆっさゆっさゆっさ

 激しい振動により夢のような時間から目を覚ます。

 

「ん……おはようマリ。そしてただいま」


 ゆっくりと起き上がり周囲を見渡して現状を確認する。マリは服は所々破けているが、そこまで大きな怪我はしていなさそうだ。良かった。元ダリンさんらしき魔物は何があったのか蹲り頭……だろうか、を抱えている。距離も数百メートル空いていて直ぐに攻撃される気配もなさそうだ。


 まずはあれだな。瑠奈や真里奈との約束を守るために――。


「――っ、おにいちゃんっ!」


 ぐはぁっ!?


「ちょ、マリ痛い痛い痛い」


 マリが全力で抱き着いてくるため思わず全身に激痛が走り抜ける。まだ心臓は治ったけれども、流石に他の細かい傷に響く。


「あ、ごめんおにいちゃん。そんなに泣くほど痛かった?」

「えっ?」


 左手で頬に触れる。そこには確かに涙でぬれた跡があった。


「そうだ、おにいちゃん。ここまでくる間に色々あったんだけれど、少し不思議なことが――わきゃっ」


 マリの言葉を遮るように頭を右手で撫でる。マリにはまたそのうち彼女たちのことを話してあげよう。マリには聞く権利があるだろう。でも、もっと大きくなってからの方がいいだろうな。いろんな意味で……。


「マリ、助けてくれてありがとうな」


 彼女たちから聞いた最後の言葉。そして今の状況をみるとマリがどんな気持ちでここまでやってきたのか、流石に俺でも理解できる。でもなぁ、妹としては愛しているけれども流石に恋人としてみるのはなぁ。流石に犯罪だろうし。マリの方が年上だし、ドキッとするときはあるけれどもそれでもな。暫くは保留にするしかないか。


「ううん、勝手にここまで付いてきてごめんなさい。でも、おにいちゃんにもしものことがあったらと思うと……」

「いいさ、マリが魔法で助けてくれたんだろう? 感謝はすれど怒ることなんてしないさ」


 マリのおかげで生きながらえることが出来たし、瑠璃や真里奈と再び出会い、今度はちゃんとお別れすることが出来たからな。感謝してもし足りないさ。


「そう魔法で――っふぁ」

「どうした?」

「にゃ、にゃんでもない」


 急にマリがゆでだこ状態になった。言葉も噛んでもいるし本当にどうしたのだろうか。

 さて、それよりもそろそろこの場を何とかしないといけないよな。


「マリ、あれはいつからあんな感じになったんだ?」

「へ? ああ、うん。私がおにいちゃんに駆け寄ったあたりで急に動きが止まった感じだよ。できるだけ離れようとおにいちゃんを運んでいるときも、あんな感じでずっと動かなかったし。あの怪物っていったい何なの?」


 マリが来てから動きが止まった? まさか……ダリンさん、あなたって人は。

 マリはあれがダリンさんだということには気が付いていない。ダリンさんにとっても、マリにとってもこのことは伝えた方がいいのだろうか。

 

「あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛」

「――マリっ!」


 先ほどまで動きの止まっていたダリンさんが咆哮を挙げると同時に、一瞬で間合いを詰めてきた。

 マリを庇うように前に立ち、愛剣を水平に構え触手のようなものの攻撃を捌いていく。ダリンさんがいまだに抵抗を続けているのか、一撃一撃は重いが狙いはまるで定まっておらず無秩序な攻撃を繰り返すだけだ。だけども、それでも手数が多すぎる!


「しまっ――」

「おにいちゃん!」


 防ぎきれなかった一撃を右腹部に受け、何度も地面をバウンドして壁に激突する。多少肉が持っていかれているものの、幸いなことに動くのには支障なさそうだ。それよりもマリがやばい。多少魔法が使えるようになっているからといっても、今の状態のダリンさんを相手にするのは荷が重すぎる。






「よくもおにいちゃんを! プルキエス、プルキエス、プルキエス!」


 あのおにいちゃんが後れを取った相手だ。どれだけ私の攻撃が効くかはわからないけど、おにいちゃんに危害を加えるというのなら、私の全力で立ち向かってやる!


「グッ、ガッ、ギッ」


 あれ、さっきまでの動きと違って動きも遅い……というか止まってる? 効いてる? 私の攻撃が弱点とか? とにかく、今がチャ――きゃっ。


 急に怪物がムチのような攻撃を地面に激しく叩きつけ、大地が大きく揺れた。地面に立っていることも出来ずに尻もちをついてしまう。

 目の前では怒り狂ったような声で怪物が触手を振り上げていた。それが振り下ろされれば恐らく私は死んでしまう。

 ここで死ぬのがおにいちゃんではなく私でよかったな。でも、やっぱり死ぬのはちょっと怖いな。

 思わず目を瞑り、来るべき衝撃に耐える。


 ……あれ? どれだけ待っても衝撃が襲ってこない。


「――ス、――ロ、――ス、――ロ、――ロ」


 衝撃の代わりに、微かな声が怪物の方から聞こえてくる。なんだろう、どこか声に懐かしい響きを感じるのは気のせいだろうか。恐る恐る目を開けると、そこには触手を振り下ろそうとした状態で怪物が固まっていた。そして――。


「コロス、コロス、ヤメロ、コロス、ヤメロ、コロス、ヤメロ、ヤメロ、コロス、ヤメロヤメロヤメロヤメロヤメロー!!」


一際甲高い雄たけびを上げると同時に怪物の顔と思しきものがひび割れ、中から懐かしい顔が現れた。


「おとーさん?」




 あれだけ暴れまわっていたダリンさんがマリを攻撃しようとしたところで止まり、そしてついに怪物ではなく本来の顔を表した。駆け出した体をそのままダリンさんとマリの間に滑らせてマリを背後に庇う。

 マリはというと「うそ?」「なんで?」と混乱しているようだ。だから、落ち着くように出来るだけ動揺を与えないようにマリに告げる。


「マリ、あれは間違いなくダリンさんだよ。そして……残念ながらすでに亡くなっている」

「そんな……」


 そして、こうなった原因を直接本人に聞くためにダリンさんに視線を戻す。正面から対峙しても先ほどまでのような殺気は感じられない。黒く握った瞳の中にも、微かな光が見て取れた。あれ程の憎しみを抑えきるのは、奇跡であり、父親の鏡としか言いようがない。


「ジョウネンノ、言ウトオリダ。オデハモウ死ンデイル。コノ体ハ、様々ナ負ノカンジョウカラ作ラレタ、制御装置ダ。微カナ欠片カラモ、作リ直サレル」


 なるほど、そうだったのか。

 ダリンさんを完全に倒したと思っていたが、剣の破片が残ってしまっていた。この剣の破片からふkっかつしたということだろう。


「守ッヤレナクテ、スマン」


 ダリンさんは、何かに耐えるように言葉を紡いでいく。


「マリノコトモ、マルナノコトモ、愛シテイタヨ」


 ダリンさんが一言話すたびに、マリの目が涙が溢れ出てきている。


「あのね、私、大きくなったよ? おとーさん程じゃないけれど、魔物もいっぱい倒して強くなったんだよ? それから、それから、おかーさんも元気にやっているよ。最近じゃ、料理の腕もメキメキ上がってて美味しいんだよ? あとね、あと……ね、あど……」


 マリは沢山話したいことがあるが、涙と鼻水のせいでうまく話せないようだ。できるならば、もっと落ち着いてから2人で今までの時間が埋まるように沢山話しをしてもらいたい。勿論マルナさんも呼んでだ。だが、そんな僅かな願いさえかなわないだろう。ダリンさんの顔が次第に険しくなり、体も小刻みに震えている。


「マリ、モウ時間ガナイ。コノ体抑エルノ、限界ダ」

「そんなっ、まだ――」


 マリは昔に戻ったようにイヤイヤと駄々をこねるが、無情にも時間は待ってくれそうもない。ダリンさんの触手の一つが、俺たちを攻撃しいようとついには動き出した。


「オレノサイ期ノ願イ。マリノテデ、コロシテクレ。オデハ、マリモマルナモ、傷ツケタクナイ。オデヲノ魂、救ッテクレ」


 子供にとって残酷だが、同時希望でもあるお願い。ダリンさんから、どれだけマリを愛していたかが嫌でも伝わってくる。敵わないなぁ。

 マリも最初こそイヤイヤ言って絶望に染まったような顔をしていたが、救ってほしいというダリンさんの言葉でハッと顔を上げる。

 今のままだったら、止まることなく殺戮を繰り返し、この世の中から憎しみが消えるまで消滅することがない不死身の怪物だ。そこには救いが一つもない。消滅さえ出来れば、魂はこの呪縛から解き放たれ輪廻転生の輪に戻ることが出来る。瑠奈と真里奈がそうであったように。

 今まで、マリは自分の力が足りなかったせいで父親を助けられなかったと悔いてきたのを俺は知っている。だが、今回は救うことが出来る。今ならばまだ間に合うのだ。


 キッと目を吊り上げて、マリは力いっぱい叫ぶ。


「おとーさんの馬鹿! こんなに早く死んじゃうなんて。おかーさんもまだ若いのに。他の男の人とくっついても知らないんだから」

「マルナニモ、謝ットイテクレ。アト、イイ人ガミツカッタラ、遠慮スルナト」


 ダリンさんの表情が微かに崩れる。

 初めてダリンさんの笑顔を見たような気がした。


「私の成長した姿、しっかり目に焼き付けてね」

「アア」


 マリの表情をうかがうと、もう迷いはない目をしている。どうやら覚悟は決まったようだ。


「ショウネン」


 ダリンさんの視線が俺をとらえる。その瞳には力強い意志がこもっている。


「マリヲタノム」

「命に代えても」


 絶対に幸せにして見せます。お義父さん。

 

 一瞬睨まれたような気がしたが、気のせいだろう。

 

 さて、ダリンさんを消滅させるには生半可の攻撃では無理だ。イラソル・ヌーメンでも、消滅させることは可能かもしれないが、コントロールすることが出来ない。まあ、仮にできたとしても俺は手は出さない。マリが成し遂げることに意味がある。


「マリ、準備はいいか?」

「うん」

 

 ダリンさんから大きく距離を取り、親子の最後のやり取りが開始される。推測ではあるが、マリだからこそ使える魔法。すべてを無に帰す、最大の魔法だ。


 安心できるように、マリの肩に手を添える。

 初めは感覚をつかむために。


「グラウィタス、グラウィタス、グラウィタス」


 同じ場所に向かって何度も何度も重力魔法を掛け続ける。


「グラウィタス、グラウィタス、グラウィタス!」


 次第にダリンさんの背後の空間が小さく揺らぎ、割れ目が見え始めた。

 

「行けそうか、マリ?」

「うん、大丈夫だよ、おにいちゃん」


 感覚を感じ取ったマリが全力全開の最大の呪文を唱える。


「ニグルム・フォラーメン!」


 マリの魔力が急速に消費されていく。そして、魔力が尽きると次は体中の血管が破裂し、大量に体から血を流している。恐らく、必要な魔量が足りないため、血液を魔力の代わりに消費しているのだろう。その証拠に、飛び散ったはずの血液が蒸発して消えて行っている。

 このままいけば、マリの体が持たない。急いで、魔力をマリの体に流す。物体に魔力を流すことが出来るのだ。人の体であっても出来ないわけがない。

 そんな状況であってもマリは苦痛に顔をゆがめることなく、全力で魔法に力を注ぐ。


「ガッ……」 


 ついに抑えきれなくなった触手がマリの体を貫かんと、槍のように伸ばしてくる。しかし、途中ですぐに失速し、逆に背後で開き始めた大きな時空の揺らぎに吸い込まれていく。

 

 ブラックホール。宇宙で最大にして最強の超常現象だ。

 それは周囲の空間ごとすべてを飲みこみ、抗うことは許されない。

 

「さようなら、おとーさん。生まれ変わっても、おとーさんとおかーさんの子がいいな」

「きっと叶うさ。そして成長したな。ありがとう、マリ」


 光も音もなにもかも吸い込まれる中、確かにその声は俺たちの耳にまで届いた。



お読みいただきありがとうございます。

さようならダリンさん。お疲れ様でした。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。