第10話 洞窟での戦闘④
マルナとマリを守る? もしかしてこの人の正体は……。
「ゴロス、ゴロス、ゴロスゴロスゴロスゴロスゴロスゴロスゴロス!」
グサッ、グサッ、グサッ、グサッ、グサッ、グサッ
やばい、話し合いが出来そうな感じではない。それ以前に声が出せない時点で詰んでいる。
何度も何度も背中に突き刺さる剣の感触。痛いとか苦しいとかそんなこと言っていられない。このままいけば間違いなく死ぬ。
くそ、せめてカード化するときと同様に詠唱しなくても実体化できれば何とかなるかもしれないのに!
「~~っ~~~っ」
やっぱりだめだ、どれだけ土の塔と言おうとしても言葉にならない。このまま何も出来ずに――っ!?
急に全身にGが加わり思わず呼吸が止まってしまう。気力を振り絞りつつ意識を全ぽに向けると、視界は先ほどまでよりはるかに高くなっていた。
土の塔を使用することができた……のか? でも、声を出すことは叶わなかったはずだ。もしかすると、念じただけで使えるようになったということなのか?
分からない。何が起こったのか、どうして念じただけで使用できるようになったのか。だけども、今はそんなことはどうでもいい。そういうものだと仮定して動くだけだ。
頼む、成功してくれ。清浄ポーション、上級ポーションリリース!!
【名称】
清浄ポーション
【クラス】
アイテム
【詳細】
月神草、聖光草、狂毒草からエキスを抽出したポーション。体内の毒物を全て浄化する。
【名称】
王級ポーション
【クラス】
アイテム
【詳細】
月王草・陽王草・水王草からエキスを抽出したポーション。HPとMPが10000回復する。100%抽出ボーナス(損傷:超回復)
頭の中で念じると、思い通りの場所にポーションが出現した。確かにそこには硬いガラスの感触がある。そして、そのまま力を籠めてガラスに圧力を加える。
「いっっったい!」
口の中からガラスの破片を吐き捨てる。口腔内は傷だらけで正直背中の傷よりも痛いような気がする。ポーションを原液のまま残していたらこんなことせずに済んだのだが、今更愚痴を言ってもしょうがない。
改めてポーションを取り出し、口腔内の傷も癒しておく。
体は特に違和感もなく動く。よかった、これならまだ戦えそうだ。
今回ばかりは本当に危なかった。幸いにも清浄ポーションと王級ポーションを持っていたから良かったものの、他のポーションでは回復できずに死んでいただろう。それに、このポーションは入手素材が少なすぎるため残り2桁もないため、これ以上の消費は避けたいところだ。
愛剣を新たに構えなおし、俺を殺害しようとした者を観察する。そいつは急に獲物がいなくなったことに戸惑い、キョロキョロと周囲を見回していた。ドラゴン同様全て測定不能と表示され、唯一分かるのは名前だけだ。
その名前は『負のアケルウス』。ダリンという名前ではなかったが、あの発言から考えてこの人がダリンさんを元にしていると予測はできる。なにより、名前からして恐らく彼はもう……。
「ヤバイ、目が合った」
顔を上げ俺を見つけるや否や、雄たけびを挙げながらダリンさんが迫ってきた。
垂直な塔を眼にも留まらぬスピードで登るとか化け物じみている。重力はどこにいったというのか。
再び接近されてはたまらないため、ダリンさんが登ってくる面の反対側から咄嗟に飛び降りた。そして、急いで土の塔を作り変え、既に飛び降りてきているダリンさんに向かって土の塔を実体化させる。
「ごめんなさい、ダリンさん」
先端を尖らせた土の塔がダリンさんに迫る。ドラゴンとは違い、ダリンさんの大きさは人のそれと変わらない。空中のため回避する術もないはずだ。この物量に押されたら流石にダメージを追うだろう。
「ジャイア゛ンド・グロス・ショッグヴェーブ」
ダリンさんはどこからともなくもう一本の巨剣を取り出し、2本の剣を十字架の軌跡を描きながら振り下ろした。
「――ちっ」
俺の甘い考えをあざ笑うかのように、衝撃波と思われる黒い十字の塊が塔にぶつかり――塔は跡形もなく消滅した。
右足で地面を蹴ってその場から飛びのき、そのまま迫る衝撃波から逃れる。
その直後、核実験でも行ったかのような轟音が部屋中に鳴り響く。
「おいおい、マジかよ……」
今までただの一度も、ドラゴンのブレスでさえ傷つかなかったこの空間は破壊され、地面に大きな穴が開いていた。
既に地面に降り立っていたダリンさんは、もう獲物を逃がさないと言わんばかりの眼力でこちらを睨みながらゆっくり近づいてきている。
俺の魔法では攻撃は通らない。かといって、愛剣で戦おうにも接近戦でダリンさんと渡り合えるとも思えない。その他の投石物も牽制にもならないのは明白だ。逃げようにも、俺より素早いダリンさんから逃れる術はない。
このままでは俺は死に、外に出たダリンさんは全てを恨み地上からあらゆるものを奪ってしまうだろう。それだけは許容してはならない。
俺に残された手段はもうない。そう、ただ一つを除いて。
地面に開いた空間をちらりと見る。
本当にそれをしてしまっていいのか、後悔しないのか。様々なことを考えるが、他に手がないのも事実だ。
再びダリンさんに視線を戻すと、その姿が掻き消える。もう、迷っている時間はない。
「くそっ!」
何か背後に気配を感じるより前にその穴に向かって背中から飛び降りる。
しばらくして、案の定ダリンさん俺を追ってその穴に飛び込んできた。
眼を閉じ、神経を集中させる。
マリ、マルナさんごめん。俺は今から2人の大切な人をこの世から消します。
「イラソル・ヌーメンリリース」
剣が手元に現れると周囲を明るく照らし、そこはまるで昼間のような温かさに包まれた。
ダリンさんは剣を目にすると、初めて表情を憤怒から驚愕へと変化させた。
再び、衝撃波を出そうと剣を振りかぶる。しかし――。
「遅いっ!」
魔力を流しながらイラソル・ヌーメンを真上に向かって投擲する。
それは振り下ろされた剣を破壊し、勢いを殺さずそのままダリンさんを飲み込み――その存在を消滅させた。
土の塔で広間に戻り今後のことを考える。
一つはダリンさんのことだ。どんな様子だったのか、どんな最後を迎えたのか。俺はこれを彼女たちに正直に話す義務がある。その結果、もしも彼女たちに憎まれたとしてもそれはしょうがない。せめて遺品の一つでも渡せたらいいのだが、残念なことに残ったのは粉砕された剣の破片だけだ。
罪悪感に駆られるが、まずはこの空間を出ないことには償いも出来ない。
改めて広間を見渡す。
出入り口は、俺が入ってきたところ以外には見当たらない。そして、今まで通ってきた場所の中で一番大きな空間。その真ん中にある巨大なオブジェ。
もしかしなくても、ここが最深部なのではないだろうか。となると、外に出ようとしていたにも関わらず真逆に進んでいたことになる。なんとも間抜けな話だ。
ため息を吐きつつ、謎のオブジェを見上げる。これがこの空間の謎を解く手がかりになればいいのだが。
一旦手に持った剣の破片はここに置いておき、とりあえず調査を開始しよう。
土の塔で上から見ても下から見るのと特に変化は見られない。中に入れるような穴も特には見つからない。愛剣で斬りつけても傷がつくことはない。何度観察しても、特に得られるものはなかった。強いて言うならば、オブジェの中に渦巻いていた黒いものが薄くなっているような気がする。
調査を開始して数時間、背後からありえない声が聞こえた。
「おにいちゃん!」
マリ!?
振り声のするほうに目をやると、確かにそこには愛しい妹のマリがいる。
そんな馬鹿な、何でマリがここにいるんだ。
幻覚? それとも新たな魔物の能力か!?
しかし、解析するとマリに間違いない。となると、どうやってここまで……。
それ以前に、まだ心の準備がついていない。マリの父親をこの世から消した俺がどんな顔をして会えばいいというんだ。
「おにいちゃん!!」
あまりにも切羽詰ったマリの声に、罪悪感を一旦押さえ込んで出来るだけ優しい表情でマリに語りかけた。
「マリ、いったいどう――ごふっ……」
あれ、言葉がおかしいな。それになぜ俺は血を吐いているんだ?
なにより、俺の胸から突き出ているこの触手のようなものは何を持っているのだろうか。まるで、心臓のようにも見える。はは、何の冗談だ。
「コレデマズヒドリダ」
握りつぶされたそれから赤い液体を浴びた俺は、そのまま意識を手放した。
お読みいただきありがとうございます。
そろそろ戦闘も終盤に入ってまいりました。最後まで温かく見守って頂けたら幸いです。




