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第8話 あの日見た星空

 コクコクコク……ゴックン

 口の中にフルーティーな味が広がると共に全身の擦り傷が嘘のように消えていく。薬は苦いものだというのが当たり前だったけど、おにいちゃんの手が加われば小さい子どもでも美味しく飲める魔法の薬に早変わりだ。



【名称】 特製ポーション 

【クラス】アイテム

【詳細】 満月草・半月草・三日月草・ミクス草からエキスを抽出したポーション。HPとMPが500回復する。100%抽出ボーナス(損傷:回復)ミクス草により、飲み易さ上昇。



 支給されている特製ポーションは残り90個だ。このポーション1つでプルキエスなら20回、グラウィタスなら1回使うことができる。

 おにいちゃんは、私たちにもしものことがあったら困ると、みんなにそれぞれ100個支給していた。最初は大げさだなと笑ったけれども、今ではおにいちゃんの用心深さに感謝している。だっておにいちゃんを助けられる可能性が増えるってことだもん。


 森の奥深くに進むにつれ、黒い魔物しか出てこなくなってきた。

 全身トゲだらけの魔物、毒霧を吐き出す手足のないニョロニョロとした魔物、両手が鎌になっている魔物など、見たこともない強い魔物だらけだったけれども、グラウィタスのお陰で負けることはなかった。でも、逆を言えばグラウィタスを使わなければ勝つことは不可能だった。お陰でポーションの消費も激しい。 もしもグラウィタスが効かない魔物と出会ってしまったら……いや、大丈夫だ。私とおにいちゃん2人で習得した魔法が負けるはずがない。  

 

 森に入ってから何時間経過しただろうか、日が傾き周囲が一気に暗くなった。もし、今魔物とであったら厄介かもしれない。なんせ、全身が黒色のため暗闇と同化されたら視認することも困難だ。

 

 ん? なんか奥のほうから明かりが漏れている。もしかしたら――――。


「おにいちゃん!?」


 明かりの発生源に思わず声をかけたけれども、おにいちゃんはいなかった。そこにあったのは、円状に並んだ白い四角い石だけだ。

 いったい、ここは何だろう。白い石に囲まれたあれは魔法陣だろうか? そこから明かりが発せられている。確か、昔おかーさんが寝る前に話してくれていた物語にそんなものがあったはずだ。人の頭の中で考えているものを、図として魔力の溜まった石に描くことにより、魔法を習得できていない人でも使えるという話だったはずだ。

 あの明かりの中からは嫌な気配がひしひしと伝わってくる。今まで私が視てきたモノが幼稚に思えるほどの憎悪・嫉妬・怨嗟・悪意というものが濃縮されているようだ。しかも、最悪なことにおにいちゃんの気配があの中から感じ取れる。

 あまりに酷過ぎる。でも、この中を進んでいかなくてはいけない。これはどこかに繋がっている、そんな気がするからだ。

 震える足を動かし、魔法陣に近づこうとして再び足を止める。やばいものがやって来る。魔法陣の中でなにかが蠢き負の感情を撒き散らしながらそのなにかが姿を現した。

 

 今までの魔物とは比べ物にならない。その姿を見た瞬間、自分がいかに弱者なのか実感させられた。

 黒よりも濃い闇。あまりの黒さに凹凸の判断もつかない。大きさは2メートル程でそれほど大きくはないが、その代わり密度は計り知れない。

 それとの距離は10メートルはある。でも、その距離が限界だった。これ以上近づかれたら自我が持たない、そう確信したため私の持てる力をすべて使いその魔物に攻撃を仕掛けた。


「グラウィタス、グラウィタス!」


 重力を重ねがけしつつ、ポーションを次々飲む。


「グラウィタス! グラウィタス!! グラウィタスッ!!!」


 よし、魔物はあの場所から動かない。もしかしたら魔法が効かないかもと思ったけれども、どうやら杞憂だったみたいだ。後は、動かない的に向かってプルキエスを打ち込むだけだ。どんな魔物であっても、当りさえすれば倒す事ができる……そのはずだった。

 

「嘘!?」


 槍のように降り注ぐプルキエスをまるで雨粒のように扱い、あれほど重ねがけした重力場も無意味と言わんばかりに、軽々とこちらに向かい歩き出した。

 もう――限界だ。

 

 助けて!! おにいちゃん、おにいちゃん、おにいちゃん、おにいちゃん、おにいちゃん……。

 やっぱり私にはおにいちゃんを助けるなんて無理だよ。こんなの勝てっこない。

 足も動かない、腕も、口さえ開かない。呼吸も思うように出来ない。

 弱者をじっくりいたぶる様に、口元を愉快に歪めた魔物がゆっくり近づいてくる。

 

「――っ!」


 魔物がその右手を軽く振るうと、腹部に衝撃を受け数本の木々をなぎ倒しながら私の体が吹き飛ばされる。声を挙げる暇もなかった。MPもHPも、もうほとんど残っていない。新たにポーションを飲もうと思っても、仰向けになった体は言うことをきいてくれない。悔しさのあまり、涙で視界が歪む。


 あーあ、おにいちゃんに褒めてもらいたかったな。強くなったなって、助けに来てくれてありがようって。きっと頭をなでなでしてくれて、笑いかけてくれただろう。そして、ご褒美としてキスして欲しかったな。おとーさんとおかーさんが私に内緒でよくしていたのを覚えている。少し、あれに憧れていたんだけどな。

 

 ――――諦めてもいいの?


 勝ちようがないししょうがないじゃん。ああ、でも前と違って今回は少しはおにいちゃんの役に立てたかな。少なくとも、この魔物が私を殺すまではおにいちゃんの生存率は上がる。おにいちゃんならこの少しの時間で逃げる事ができるだろう。


 ――――また、彼を1人にさせるの? 悲しませるの?


 おにいちゃんなら、私以外にも大切な人が沢山いるから大丈夫だよ。でも、私が死んだら少しは悲しんでくれるかな。私の死体を見て、大人気なく涙を流すおにいちゃん、その光景は見てみたかったかな。そうだったら嬉しいな。これだけ頑張ったんだ。おにいちゃんがこの先、好きな人が出来て夫婦になったとしても私のことをきっと忘れずにいてくれるに違いない。そうしたら、たまにおにいちゃんの夢に出て、お嫁さんを大切にしいなさいって叱ってあげるんだ。


 ――――それは本音?


 …………。


 ――――本音、なの?


 さっきからなんなの!? 本音かって? 本音なわけないじゃん! おにいちゃんとこの先も一緒に居たかったよ。おにいちゃんにこれからもマリ可愛いなって言ってほしかったよ! おにいちゃんの横に他の女がいるなんて許せない。だって……だって、おにいちゃんのことが好きだから! 死にかけた今になってようやくこの気持ちが分かったよ。おかーさんやおとーさんが好きというものとは違う。私はおにいちゃんのことを愛してる。好きで好きでたまらないよ! でも、だからって本音を言ったところでどうしようもないじゃん。私はもう直ぐ死ぬんだよ? あの魔物に殺されちゃうんだよ? だったら、本音を言ったところで虚しいだけじゃない!!


 ――――大丈夫、あなたならあの魔物に負けはしない。彼のことをそこまで強く思っているならば、まだあなたは戦える。ほら、思い出して。本当の魔法をあなたはもう知っているはず。今のあなたには何が見える? 彼と一緒になにを見た?


 私が今見えるもの? 

 ああ、気がつかなかった。きれいな星空が広がっている。あの夜もおにいちゃんと一緒に星空を眺めてたな。忘れられないおにいちゃんとの天体観測。あの時何をみたっけ。


『それは彗星っていって、氷と塵が集まって出来たものなんだよ』


 そうだ、彗星だ。おにいちゃんにそう教えてもらった。あれはきれいだったな。でも、きれいだけどあんなものが地上に降ってきたら大変だと思ったりもしたっけ。


 ――――さあ、再び彼に会いたいという思いが本物なら唱えてごらん。


「「コメーテース」」

 

 唱えた瞬間、全身の穴という穴から血液が噴出す。魔物の攻撃の比ではない激痛が全身を駆け巡るが、目の前の光景に見とれて今は気にならない。

 光の軌跡を描きながら、無数の輝くそれが降り注ぐ。ああ、やっぱり綺麗だ。 

 音を置き去りにしたそれは、瞬く間に魔物を含めた周囲のものを押しつぶし、地形を変形させる。そして、遅れて発生した爆風により全てのものが吹き飛ばされる。。

 

 やったよおにいちゃん、私頑張ったよ。でも、少し疲れちゃった。だから助けに行くのもうちょっとだけ待ってて……ね。


【星魔法】

「コメーテース」(消費MP10000)

天から彗星が降り注ぎ、全てを破壊する。



お読みいただきありがとうございます。

本日はこれにて終了となります。また次の更新をお待ちくださいませ。

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