第16話 釣り
フリーダムを去った後、次に俺たちはアワリティア王国を点々とすることにした。
正直、スペルビア王都よりも酷いことにはならないだろうと高をくくっていたが、この考えが間違いだと直ぐに気づかされた。
今までと同じように野菜を売りながら町を訪れたが、最初は笑顔で丁寧に対応してくれていたにもかかわらず、町中に足を踏み入れたとたん武器を構えた兵士に四方を囲まれ、命が惜しければ食材を置いて出て行けと言われた。なんでも、新たな制度がで町中の物は全て領主のものになるだとか。
町民の非常時だからよそ者でも協力するのが当たり前で、寧ろ領主の役に立てるのだから喜べ、とまで言われた。
確かに非常時ではあるし、自分の領地の民の方が大切だから、生きるためにも余所者から物資を奪うというのは仕方のないことかもしれない。明日生きるのにも必死な人たちに頼まれれば、素直に食材を領主に献上しようという気にもなる。
ただし、領主を含む貴族全員が歩けないほど太ってなければ、ではあるが。彼らは以前よりもやせ細った領民たちから、どのような目で見られているのか理解しているのだろうか。
もしかしたら、自分たちを出荷して領民の飢えを無くそうという画期的な算段なのかもしれないが、少なくとも俺は食べたいとは思わない。
最後の望みである王都も似たような惨状であった。それに加え、この魔物襲来の一連の責任がミハルたちにあるということになっているのには驚いた。
物知りのギルド受付のお姉さんによると、あれだけ馬鹿にしていたミゼルさんの言っていた事が本当だと今更認めたくない人々は、その息子であるミハルとその仲間である孤児たちが魔除月を害し魔物を招いたというシナリオにしたらしい。王は王で、こうした作り話を上手に利用して人々の憎しみをミハルたちに押し付けることで、王自身に対して不信感を抱かないようにしているそうだ。
さらに、少しでも王都住人からの心象を良くしようと、ミハルたちが住んでいた孤児院を焼き払うパフォーマンスを行ったらしい。流石の俺でも少し怒ってしまいそうだ。
こんな命令を下したやつがどんな奴なのか王城に忍び込んで見たところ、今まで以上に太く、全身金や銀で装飾された壮年の男性だった。こんなのが王だなんて、領民はよく我慢できるものだ。
そんなこんなで、国に長居をしてもここではなにも得られないと考えて俺とマリは王国を離れ、マルナさんの要望をかなえるために、海岸沿いまでやってきた。
「よし、マリ、沢山釣り上げるぞ! お魚のパーティーだ」
「うん!」
【名称】 釣竿
【クラス】雑貨
【詳細】
リール付の釣竿。500キロの重さまで耐えられる。
「釣れるかな?」
「ああ、きっと沢山釣れるはずだよ」
エサはそこら辺にいたミミズみたいな虫を使用したが、きっと何とかなるだろう。幸いにも王国巡りに時間はかからなかったため、多少時間に余裕はある。釣りはしたことはないが、素人でも簡単に出来るらしいから1日もあれば沢山釣れるに違いない。今日は魚パーティーに決定だな。
「おにいちゃん、釣れないね」
「いや、一応釣れたじゃないか」
あれから3時間が経過した。結果として釣竿が反応することはあったが、反応あってから直ぐに吊り上げているはずなのに魚を釣ることが出来ず、途方にくれていた。釣竿が揺れてから釣るのでは遅いのだろうか? こんな事ならば、地球にいるときに釣りを一度経験しておくべきだった。いとも容易く釣り上げる釣り人は偉大だったんだな。
魚以外であれば釣れたといえば釣れた。
俺達が釣りを始めてまもなく、魔物御一行が幾度となく襲いかかかってきた。正に、俺達を餌さとした釣りに魔物がヒットしたという感じだ。
流石に何回も来られては釣りを中断を繰り返すのに耐えられなくなり、釣りをしている場所を土で囲ってからは襲われることはなかったが。
せめて、半魚人みたいな魔物がであれば魚を釣ったと誤魔化せたかもしれないが……いや、無理か?
5時間が経過した。マリは暇すぎて船をこぎ始めている。
このままではマルナさんに良いとこを見せるチャンスが無くなってしまう。あんなに可愛らしくお願いされたからには、男としては何とかして持って帰ってあげたい。それに、マリに頼れる兄としてカッコいい所を見せようと思っていたのに、これでは呆れられるかもしれない。
こうなれば、奥の手を使うしかない。本当はこんな手を使いたくはなかったが、釣られない魚が悪い。
「よし、出来た!」
思い立ったらすぐ行動ということで、さっそく陸地に直径50メートル大の穴を作った。カード化能力が有能すぎるぜ。
「わあ、おっきな穴だね。これをどうするの?」
「ふふふ、これは魚を手っ取り早く捕まえる奥の手さ!」
ふふふ、マリに期待されたならばそれに応えるしかない。
まずは、海と穴を繋げる。
すると、一気に海水が穴の中に流れ込んだ。
「わぁ、凄いねー。次はどうするの?」
「しばらく待ちます」
「へ?」
「しばらく待ちます」
「……」
仕方がないじゃん……。
「それじゃぁ、マリもしばらく休むから、時間がきたら起こしてね」
そう言うや否や、マリの頭が俺の肩に乗っかりリラックスモードに入り始めた。
「マリ?」
「すーすー」
え、もう寝たの? 早くない?
もしかしたら5時間も釣りっ放しの成果無しだったから疲れたのかもしれないな。
1時間程度待とうと思ってたけど、3時間くらいは寝かせてあげるかな……役得だし。
「マリ、時間だぞ」
「ほぇ?」
「ははは、よだれが垂れているぞ」
「――――!?」
一瞬マリにすごい顔で睨まれた。反抗期!?
いや、気のせいだ。だって起こしただけで怒らせる要素はなかったはずだ。
「さ、さあ、じゃあ早速実演するぞ!」
一応ご機嫌取りのために早く魚料理を作らなければ……。
実演といっても、そんなに難しいことはない。穴と海の繋がりを土で生め、穴に残った水をカード化するだけだ。
ビチビチビチビチビチビチビチビチビチ!!
「……」
「……」
感想、地面が見えないくらいの多量の魚がピチピチ跳ねてる姿って意外とグロいんだね。
「マリ、魚料理食べるかい?」
「……暫くは要らない」
「デスヨネー」
それから30分もの間、魚は跳ね続けた。異世界の魚って生命力強すぎない?
できるだけ新鮮な状態で魚を手に入れたいため、息絶えるその瞬間まで俺はその光景を目に焼き付けなければならない。うん、俺も暫くは魚料理はいいや。
お読みいただきありがとうございます。
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これを書いていて思いましたが、池に餌を投げ入れた瞬間、鯉が一斉に飛び出てきてパクパクパクパクしている姿ってゾッとしますよね……。以上、どうでもいい話でした。




