第15話 ソウサク様
今の生活を捨てて新しい地へ移住できるかと尋ねたら、明日には出発可能と返ってきた。
うん、よく考えなくてもおかしいよな。俺が聞いたのは移住できるかできないかであって、何時出発できるかではない。根本的に話が噛み合っていないような気がする。とはいえ、折角移住の許可を貰ったんだから棚ぼたでラッキーと思っておくことにしよう。
ただし、明日というのは気が早すぎる。まだ俺たちの国の受け入れ態勢が整っていない。数か月は時間が欲しいところだ。
「移住の件ですが、今すぐではなく数か月……半年以内に後迎えに来ますので、その時までお待ちしていただいても宜しいでしょうか?」
「数か月後ですか。なるほど、確かに今の我々ではソウサク様のお役に立てず、新参者として使えなければ肩身の狭い思いをするかもしれない。だから、迎えに来るまでに足手纏いにならない位まで各々技術を高めろと言うことですな」
いや、そこまで考えて言ったわけではないよ?
「最低限の事も出来ない者が、ソウサク様が与えて下さる新しい仕事というのも全うすることなど出来るはずがない。また、ソウサク様の国に着いてから直ぐに仕事が出来るように、数か月の間に自分がどんな仕事をしたいのか、その為の準備もしておけということですな。我らのことをそこまで考えていただけるとは。分かりました。それでは私は、この世の全ての人々がソウサク様を崇拝できるように尽力致します。是非、3ヶ月後楽しみにしてくだされ!」
「……エエ、アリガトウゴザイマス、ガンバッテクダサイ」
どうしよう、なんかここの人たちを国に迎えるのが怖くなってきた。いろんな意味で大丈夫だろうか。今なら、やっぱりさっきの話はなしでってことに出来ないかな。
「皆! ソウサク様から最低限の仕事は出来るようにして、新たな地で肩身の狭い思いをしなくて済むように、ソウサク様のお役に立てるように自分たちの技術をまずは磨き極めろとありがたい言葉を頂いた。その上で、自分がどんな仕事をしたいのかをよく考え、直ぐに仕事に従事できるように数か月の猶予を我らに与えて下さるそうだ。ソウサク様の期待に応えるためにも各々頑張ってくれ」
まてロウジ、俺はそんな事を一言も言っていない。
「おお、ソウサク様のお役に立てるチャンスだ!」
「自分たちが出来る仕事……私、実はソウサク様から与えていただいたこの服のように素晴らしい服を作ってみたいと思っていたのよね。ソウサク様の服を超える素晴らしい服を考えて見せるわ!」
「俺、人に教えるのが楽しいと思うようになったんだよな。何をどう教えるのがいいのか、数か月の間に最善のものを考えてソウサク様の期待に応えるぞ!」
おお、次から次にやる気に満ちた声が返ってくる。
うん、無かったことにはできそうにないな! まあ、まだ数か月も先の話だ、何とかなるだろう……。何とかなるよね?
それにしても素晴らしい熱意だ。この分なら彼らが俺らの国に来てもやっていけるだろう。
「あ、ソウサク様だ!」
「ソウサク様が来たわ!!」
そろそろこの町を出るために仮住まいまで戻ろうとすると数人の子どもに囲まれた。
子どもと言っても俺より年上だけどな。
「ソウサク様、これ私が考えた料理なんです。食べて頂けますか?」
「おお、これは!……うん、美味しいです」
「やった!」
目の前に出されたのは、薄くスライスされた作物を高温の油で揚げて塩を振っただけの料理だ。
しかし、この簡素なものが実に美味しい。油もしっかり切れており、胸焼けすることもない。
野菜チップス、よくこの発想にたどり着いたものだ。調理技術も確立していないこの世界では貴重な発想力だ。ステータスを見ると調理技術lv1を取得している。これはマルナさんの右腕としてやっていけるかもしれない。
「ソウサク様、この服を見てください。いかがですか?」
「可愛いと思いますよ。なんだかお姫様になったみたいですね」
「わあ、ありがとうございます!」
彼女が身に着けているスカート。ギャザーにより、平面から立体的なスカートに仕上がっている。今までボロボロな服しか来たことなかったからこそ、服飾に興味を持ったのだろう。簡単な作りとはいえ、10にも満たない子どもが良く考えたものだ。彼女の今後に期待だ。
「ソウサク様、これ俺が仕留めたんですよ。どうですか?」
「これは魔黒狼ですか。こんな大物を仕留められるなんて、すごく優秀なのですね」
「へへ、いつかソウサク様を守れるくらい強くなってみせます!」
これも普通にすごい。魔黒狼は決して弱い魔物じゃない。少なくともついこの間まで奴隷だった子どもに倒せるような魔物ではないはずだ。きっと血の滲むような努力を重ねたのだろう。スキルも槍術lv6を習得している。うちの子たちのいいライバルになりそうだ。
「おにいちゃん!」
子どもの集団から抜け出ると、機嫌の悪そうなマリ仁王立ちで待っていた。
な、なにか怒らせるようなことしただろうか?
「マリ、ど、どうかしたのか?」
「何でもない。ほら、行こう!」
なんでもないならそんなに強く腕に捕まらないでくれ。そう密着すると胸が当た――らないな。骨なら当たっている。ねえマリ、骨が当たってちょっと痛いよ? だが、これを伝えると本格的に怒らせそうだ。ここはマリの気が済むまで付き合ってあげるしかなさそうだ。
「おにいちゃんはマリのものだもん」
「ロウジさん、ありがとうございました。私たちはもうこの町を出ようと思います」
忘れ物なし、伝え忘れたことなし、この町に未練なし。よし、さっさと出よう。
「もうお出になられるのですか? もう少しゆっくりしていって下さっても……いや、これは私たちの我侭ですな」
「いえ。ただ、私たちにはまだやらねばならないことがありますし、これ以上この町に迷惑をかけるわけにはいかないですから」
「迷惑だなんてとんでも――いや、私たちが緊張してしまわないように気を使って下さっているのですな。それに、お忙しい中われ等の為に時間を費やして頂いていたなんて……お心遣い感謝いたします。数ヵ月後、町民一同お待ちしております」
あー、うん、もうそれでいいよ。なんだか慣れてきたような気がする。
お読み頂きありがとうございます!
申し訳ありません、昨日は寝落ちしてしまいました(・ω・)(反省)




