第9話 領主との対談
「ソウサク様、宜しければ私の城で少し休まれていきませんか?」
領主のほうから願ってもいない申し出を受けた。彼の部下は不満顔だけども、その気持ちは分からないでもない。それに、領主の事を本当に慕っているように感じる。マリの許可もあるし、城に着いた途端に襲われることもないだろう。
問題は、彼の部下よりも俺の後ろから感じる無言のプレッシャーだ。笑顔は笑顔なのだが、いつもと違うような気がする。何かあったのだろうか。
城まで距離があるため、馬での移動を進められたが、これは却下する。乗馬の経験なんてないからな。もちろん貧乏だったマリも経験があるはずもない。それ以前に正直、走ったほうが速く城に着くし。彼かには先に城に戻ってもらったほうが面倒も少ないだろう。
「でしたら、城までつきましたらこちらを門番にお渡しください」
通行許可書かな?領主の判と思われる花の絵が押されている。ありがたく頂戴しよう。彼らを見送った後、未だに重苦しい空気を放つマリに目をやる。
「マリ、大丈夫か?」
「んー、なにがー?」
「いや、何でもないよ」
折角落ち着いているのに、突くと蛇が出てくるかもしれない。触れないのが吉だろう。
「マリ、城までは走っていこうと思うんだけど、背中に捕まってもらっていいかな?」
「うん、いいよ!」
城までおんぶを提案すると、先ほどまでの重苦しい雰囲気が霧散した。なんだかよく分からないが助かった。人力車は邪魔になるので、周囲に人影がないことを確認しカードに戻す。その後、マリに背を向けて屈むと、勢いよく飛びついてきた。
「えへへ、おにいちゃんのおんぶ久しぶりー」
どうやら、おんぶにご満悦なようだ。まだまだ子供だな。マリがギュッとしがみ付くものだから、ゴツゴツした骨が背中に当たる。うん、やっぱり子供だな。
道を高速で走ると変な目で見られる可能性もあるため、屋根伝いに移動する。気分は忍者だ。途中で、領主軍団に追いつきそうになったため、屋根の上で数回休憩を挟みつつ城まで移動する。
それにしても、毎回走るのもあれだし、細い道でも乗れるような乗り物も欲しいな。
「すみません、領主と面会の約束をしているのですが」
事前に話を聞いていたのか、通行許可書を手渡すと特に時間がかかることもなく城の中に通してくれた。門の先では執事っぽい人が待ち構えており、応接室まで案内してくれる。応接室の中は金銀の調度品で整えられ、少し目がチカチカする。マリも「うー」と目を押さえて悶絶している。かわいい。
しばらくすると、領主とその護衛たちが入室してきた。領主は笑顔で迎えてくれるが、護衛たちの表情は相変わらずだ。隣でプチっと何かが切れるような音がしたが気のせいだろうか?
「ようこそおいで下さいました」
「いえいえ、私もクレチマス様に色々とお伺いしたいことがありましたので、ちょうど良かったです」
それからは和やかな時間が経過した。…………平和なのは俺と領主の2人だけだけどね。部下は相変わらず胡散臭そうにこちらを見ている者や、睨み付けている者がいるし、マリはマリでまたあの怖い笑顔になっている。まさにカオスな空間だ。
そんな状態にもかかわらず、領主は俺の国がどのようなとこにあってどんな町並みなのか、という話をきらきらした目で聞き入っている。なにこの生物、男なのにちょっと可愛いんですけど。
一通り話をすると、とても満足そうな顔をしていた。自分の国の話をして喜んでもらえるのは、悪い気がしないな。
さて、今度はこちらが質問する番だ。
「クレチマス様、単刀直入にお伺いしたいのですが、何故奴隷制度を廃止したのですか?」
この国に来たときから聞きたかったことだ。奴隷たちを物のように酷使していた彼らが何故奴隷制度を廃止していたのか気になっていたのだ。この返答により彼を見極めたい。
領主は俺の質問に対して一瞬驚いたような表情を見せた後、静かに目を伏せた。
「奴隷制度を廃止した理由……ですか」
ポツリとつぶやいた後、顔をあげて俺の目を見ながら語りだした。
「廃止した理由は、そうしなければ街が成り立たないからです。今までこの街の食料は、城壁の外にある畑で6割方賄っていましたが、魔物が領内を当たり前にうろつくようになった為、城壁の外で畑仕事をすることができなくなりました。本来ならばこのせいで大量に餓死者が出てもおかしくなかったのですが、幸いにもその魔物たちの肉のおかげで生き延びることができました。しかし、この肉を安定して供給できるのは、今まで肉体労働で酷使されてきた奴隷たちでした。ソウサク様から頂いた武器を使っても、今まで肉体を酷使したことのない下っ端の兵士や、市民達ではとてもじゃないですが魔物を倒すことはできません」
なるほど、なんとなく先の展開が読めてきた。ここで奴隷を今まで通りに扱ってしまうと、魔物を倒してさらに強くなった奴隷たちが暴動する危険性がある。もし暴動が起こってしまえば、魔物を倒すことができない市民達ではとてもではないがこの暴動をとめることができない。それに、彼らに魔物の肉を提供してもらえなければ結局、餓死してしまう恐れがあると。それならばいっそのこと、奴隷制度を廃止して彼らが狩ってきた魔物をそこそこの価格で買い取ったほうが色々と問題がないというわけだ。
「もちろん、貴族たちはそれに対して猛反対したのですが、だからといってほかに解決策も考えることができなかったため、仕方なく奴隷制度を廃止することにしたのです」
小さなため息をついて、彼が話を終える。その話は確かに筋は通っていた。しかし、奴隷制度を廃止した裏にはまだ隠された思惑があるはずだ。彼が語っている最中、特に護衛たちの方を気にしながら話をしていたのがその証拠だ。
彼の人となりを知るためには、もっと込み入った話をしなくてはならない。
「なるほど、よく分かりました。ところでクレチマス様、他者には漏らせない、内密な話をしたいと思うのですが、人払いをお願いできませんでしょうか?」
護衛たちを一瞥しながらお願いすると、領主は少しばかり思案した後、護衛たちに部屋から出るように指示を出した。
「クレチマス様、それは危険すぎます!」
「こんな子供風情の言うことなんて真実かどうかも怪しいですし聞く必要はないです!」
「本当に有益な情報を持っているならば、我らに忠誠を誓わしてから情報を聞き出し、ある程度の褒美を渡せば十分です!」
うん、そうだよね。思ったとおり罵倒された。でも、彼らには出て行ってもらわないと話ができないんだよな。
「お前たち、失礼にも程があるぞ! いい加減にしろ!!」
「こればかりはクレチマス様の言うことでも聞けません!」
うーん、どうしよう。ここで強制的に彼らを排除することは可能だが、果たしてその後、領主が対等話しをしてくれるかあやしいし、そもそも、そんな暴君みたいなことはしたくない。護衛たちは領主の身を案じているだけで、悪いことをしているわけでもないからな。だからといって、罵倒の嵐は勘弁して欲しいものだが。マリの教育上にも宜しくないし……。
「ふふふ、ふふふふふ」
隣から、ゾクリと寒気のする笑い声が聞こえてきた。本能が全力で逃げろと叫んでる。しかし、足は恐怖によりいうことをきかないため、逃げることはできそうにない。
護衛たちを見ると、恐怖からか尻餅をついていたり、中には武器を投げ捨てて、頭を抱えて命乞いをしている者もいる。
その護衛たちの前には、2メートルはあろう魔物の顎が、その歯をガチガチ鳴らしながら出現していた。
「おにいちゃんを馬鹿にするのもいい加減にしてくれるかな?」
マリの表情は笑顔のままだ。ただ、その声は今までにないくらい冷たい声だった。
あー、そういえば昔マリに防犯ベル渡していたよな……。
お読みいただきありがとうございます。
珍しくまともな領主様でした。このまま無事商談に持ち込めるといいのですが……。
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