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第8話 領主

 さて、領主に会いに行くと言ったのはいいものの、どうしたら会えるのだろう。普通に考えたら会うまでには色々と手続きが必要だし、そもそも一介の、しかも子ども商人が会えるようなものではない。


 色々と会うための手段はある。例えばあの真ん中のでっかい城まで橋を作って渡るとか、ファンタ1号で乗り込むとか。しかし、相手が比較的まともな人の場合引かれるだろうし、そもそも悪目立ちしてマリを危険な目に合わすわけにもいかないからな。


「ねー、おにいちゃん」

「すまんマリ、今考え事しているからちょっとだけ待っていてくれ」


 貴族街で珍しい食材を売り歩いて領主に興味を持ってもらうのがいいかな。でも、買いに来るのは基本下働きの人だろうし、誰が領主の城で働いているのか知らないからな。というか、今気がついたけど、そもそも領主の顔も名前も知らないぞ? 


 礼儀作法とか言葉遣いとか貴族特有なものがあればどうしよう。俺知らないんだけど。たぶんだけど、挨拶する時に頭下げるのは違うよな。膝まづき、頭を垂れて許しが出るまで顔をあげないようにするのが正解かな……違う違う、俺は一応ルーナ国のトップに近い存在だから対等で問題ないだろう。


「おにいちゃんってば」


 しかし、それで相手が納得するかな? ルーナ国なんて聞いたことがないだろうし、そもそもこんな子どもが国を治めているといっても、まともに取り合ってもらえないだろう。下手したら不敬罪とかで命を狙われる危険もあるのでは……だめだ、こればっかりは地球の知識も役に立たない。だからといって、マリの前で決め台詞を言った俺自身が、その言葉を覆すなんて出来るわけがない。マリに失望される危険がある。それだけは絶対に避けないといけない。嫌われたら間違いなく立ち直れない自信がある。


「お・に・い・ちゃ・ん!」

「いたた……。ま、マリどうしたんだ?」


 マリに腕をつねられた。まさか反抗期!?

 驚いた顔をしてマリをみると、ジト目で返された。話を聞いてなかった俺が悪かったからそんな目で見ないでくれ!

 心のなかで絶叫しつつ、普段通りのキリッとした顔を作る。ここで情けない姿を見せるわけにはいけないような気がする。


「あ、えっとね、あっちのほうからすごくゴテゴテした鎧の人を連れた、キラキラふわふわ衣装を着ている人がこっちに向かってきてるよ?」

「うん?」


 確かに、土煙を挙げてこちらに向かってきている一団がある。しかも、城がある方向から来ており、服からして地位の高い人のように見える。その視線は俺たちで完全に固定されており、こちらに用があることは確実だ。

 マリを後ろに庇い、一団の到着を待つ。相手の態度によっては全速力で逃げる予定だ。


「野菜を売っている商人というのは其方たちか?」

「ええ、そうですがあなたは?」


 到着するや否や、黒い名馬に乗った、豪華な服を着た男性が話しかけてきた。近くでみると遠くで見たよりも若く見える。大体30代位だろうか?しかし、顔に疲労が表れているせいかそれよりも老けて見える。折角、赤みがかった金髪で鼻も高く優れた容姿をもっているのにもったいない。顔は小さく手足も長いのだから、もっとそれらしい態度を取れば完璧なイケメンになるのに……いや、かっこよすぎるとマリが惚れる危険性もあるため却下だ。彼は今のままがベストにちがいない。


「キサマ! 誰に向かって口を聞いている!!」

「いえ、誰と言われましても……」

「よい、うちの部下が失礼しました。私はこの町の領主で、クレチマス・マリーゴールドと申します」


 彼が馬から下りて、丁寧な挨拶をしてきた。まさか領主とは思わなかった。年齢からいって、てっきり下級貴族かと考えていたが、俺にはやはり見る目がないようだ。

 それにしても、初対面の他国の商人相手にここまで丁寧に対応するこには好感が持てる。彼の部下たちが此方を睨みつけているので、それを止めさせてくれたら更に好感が持てるかもしれない。熊のような顔をした男たちがちょっと怖すぎる。


「お初にお目にかかります。私の名前はソウサク・ツクリと申します。こちらは、妹のマリです」

「始めまして、マリと申します」


 相手が家名を名乗ったため、つい俺も名乗ってしまったけど、先程とは違い護衛達が驚いた顔で俺たちを見ているため結果オーライかな。

 マリも俺を真似して無難に挨拶を終えることができた。よしよし。


「なんと、他国の貴族でいらっしゃったのですね。……どこの国出身か教えていただいても?」

「ルーナ国という、北にある大森林の中にある中規模な国に住んでいます」

「あの巨大な魔の森に、人間が安全に過ごせる場所があるのですか!?」


 国の場所を伝えた瞬間、護衛たちは懐疑的な目を向けるようになった。なんとも忙しい人たちだ。

 この世界の人の常識からしたらありえない話だし、信じてもらえないものは当然だ。しかし、クレチマスは静かに首を横に振り穏やかな笑みを浮かべた。私はその話を信じますよ、と。

 確かに彼の瞳には侮るような色も見えない。くいくいっと袖を引っ張るマリをみると、笑顔で頷いていた。どうやら、本当にまともな領主なようだ。

 しかし、そこまで領主に信頼されているのは何か負に落ちない。彼と顔を合わせたのは初めてだし、俺の人となりを知ってもらえるような長い期間この街に滞在したこともない。


「ソウサク様、私の領地を守っていただきありがとうございました。遅ればせながらお礼を申し上げます」


 お礼? 領地を守った? 領主の前で何かした記憶はないのだが。


「新たな城壁を作って頂いたおかげで魔物に襲われる心配は無くなりましたし、高品質な武器を与えてくださったため、魔物退治がとても楽になりました。特に城壁を一瞬で魔法で作るソウサク様には尊敬と感謝の年が拭えません。そんな私がソウサク様の言うことを疑うとでも?」


 なんでも無いことはなかった。そもそも、俺が関わっていたことを知られているとは思わなかった。あの時は仮面もしていたし、言葉も交わしていないためバレる要素は無かったはずだ。それなのに、俺の正体を見破ったなんて、案外領主というのは侮れない。

 彼の中で俺が美化されていないか多少心配ではあるが、今のやり取りを見ている限り彼ならば驚きや取り乱すこともなく話が通じよさそうだ。

 正直今までが今までだったから、領主がまともな人物だというのはあんまり予想していなかった。嫌な人物の中でも、まだマシな程度の領主とやり取りできれば良いかと思っていた位だ。まさか、ここまでまともな領主と出会うなんてことは想像できていなかったため、彼と出会えたことは予想外の良い収穫であった。

お読みいただきありがとうございます。本日は3話更新予定ですのでよろしくお願い致します。

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