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第7話 街の変化

「おにいちゃん、早く早くー」


 ご飯を食べて満足したのか、マリはとてもご機嫌だ。一人旅で少し寂しかったから、マリがいるのは正直ありがたい。ただし、危険に巻き込まれないように気を引き閉めなければならないな。マリを傷つける奴は何人たりとも許さん。二度と妹を傷つけさせてなるものか。


「よし、出発するぞ」

「はーい!」


 うん、元気があってよろしい。車内が一気に賑やかになったな。何気ない会話がとても心地良い。


「ねーねー、おにいちゃん、ひとつ聞いていい?」

「どうした?」

「なんで髪を伸ばすのをやめたの?」

「あー」


 それはミハルと髪型がかぶっていたし、ミハルの方が似合ってたからさ、とは口が避けても言えん。兄として威厳を保つために何て言い訳をしたらいいか…………。


「それは、短髪の方が俺に似合うからな!」

「あ、それはマリも思ってた。おにいちゃんは短い髪の方が似合ってるよ!」


 よし、俺ナイス回答! 危機を乗り切ったよ。それに似合うって言われたし、今後はずっと短髪でいいな。うん、逆を言えば挑発は似合ってなかったと言われていたような気がするが、気のせいだろう。


「それに、長い髪はミハル兄の方が似合ってるしカッコいいもんね」


 あ、うん。絶対もう長髪にはしない。神に誓ってもう長髪にはしてやらない。


 ファンタ1号を走らせること数時間、1つ目の街が見えてきた。マリはファンタ1号の最高速に慣れ、その速度を楽しむことができていたためあっという間に到着した。たぶん、地球でジェットコースターを楽しむような感覚だったのだろう。マリのためなら速度違反も怖くない。


 街の人を驚かせないようにファンタ1号から降り、人力車に乗り換える。なんだかこの人力車も久しぶりに使うような気がするな。


「おにいちゃん、ここでは何を売るの?」

「そうだな、野菜系と香辛料かな」


 魔除月の効力が切れたため、俺が作った門の外には容易に出て行くことができなくなったはずだ。ということは、門の外にあった畑は魔物に荒らされ、新たに作物を育てることもできない。かといって、森まで入って自然に生えてる物を採りにいくこともできないため作物の需要が追いついていないはずだ。それに、ちょうどこの周囲は肌寒い季節であり、腐る心配もない。また、今の彼らの主食は魔物の肉だ。というこつは、肉のうまみを引き立てる香辛料も需要が高いに違いない。

 ゆくゆくは、長期的な商談をしたいところではあるが、魔物の影響により国の情勢が分からない。なので、当面の資金を確保するだけに留めることにしよう。


「ルーナ国の金庫を満たすために沢山売るぞ」

「おー!」




 門に近づいていくと門兵が驚いたような顔でこちらを凝視している。魔物があちこちにいる中、子どもだけでやってきたら普通に考えて驚くよな。しかし、他に手はない。そ知らぬ顔でいこう。怪しまれないように「こんなの普通ですよ?」って感じで通そう。


 門兵の格好は以前と違い、機能重視の重装備で、その腰には俺が置いていった剣を帯刀している。腕には多数の傷があり、魔物と激しい戦闘を繰り広げていたのが分かる。


「すみません、商売に来たのですが」

「あ、ああ、商売か。売り物は何だ?」

「野菜と香辛料です」

「野菜と香辛料だと?」


 すごく訝しそうな目つきでみられてる。そりゃあ、いろんな意味で怪しいですもんね。しかし、だからといって動揺してはならない。ここは俺の得意な笑顔で切り抜けよう。


「こちら試しに食べてみてください。瑞々しくておいしいですよ?」


 門兵に投げ渡すと、あわてた様子で赤く熟したトマトもどきを手にとった。

 これは、ルーナ国周囲で見つけたもので、今では栽培に成功している。最初カード化したとき、正式名称は『アカァトゥレィトゥマットゥ』と長ったらしかったが、自分の記憶に近い食材があるときは、名称をその記憶にあるものに変化できるようになっていた。地味に便利な能力だ。そのため今ではこれの名称は『トマト』だ。幸いにも、誰も見たことも食べたこともない食べ物ということで、そのまま名称を『トマト』で統一することにした。正式名称が日の出をみることはもうないだろう。さようなら『アカァトゥレィトゥマットゥ』。


 固まっている門兵の目の前でトマトをひとかじりする。うん、甘くて瑞々しくて最高だ。目の前で食べて見せないと怪しくて口に出来ないだろう。特に、この赤すぎる色が慣れていない人からしたら毒か何かと勘違いしてしまうのも頷ける。これに関してはすでに歴史が証明しているからな。

 俺があまりにも美味しそうに食べていたせいか、ゴクリと唾を飲み込み、恐る恐るといった様子でトマトにかじりつく。暫くそのままの姿勢で再び固まったかと思うと、次の瞬間には目を見開いて、残りを一気にいの中に収めた。どうやら満足していただけたみたいだ。


「うまい……うますぎる。これはなんだ!?」

「これはトマトという野菜です。それでどうしましょう? 売るの難しそうでしたら、今すぐにでも他の町に行こうと思うのですが」

「――まて、売るのを許可するからちょっとまて。少し怪しいかと思ったがもうどうでもいい。そのかわり、先に俺に売ってくれ!」


 よし、勝った! 新鮮な野菜に人類が勝てるはずがなかったんだ。

 思わず口角が吊り上りそうになる。このままでは完璧なスマイルが崩れてしまいそうだ。落ち着け、落ち着け。ここからが問題だ。値段を幾らにしよう。

 値段が複雑だと、買い手がいくらになるか計算するのが大変そうだから野菜は全て一律にするとして……1つ大銅貨2枚でどうだろうか。香辛料は100g大銀貨1枚かな。


「よし、買った!」


 少し高めな設定だけれど、問題なく売れそうだ。その後代わる代わるに兵士がやって来て野菜と、懐に余裕のある人は香辛料を購入していく。最終的に金貨10枚、銀貨2枚の売り上げとなった。日本円にしたら200万程度かな? 国を運営するためにはまだまだ足りない。


 それにしても、彼らはいつになったら仕事をしてくれるのだろうか。


「あの、街中に入りたいのですがどうしたらいいですか?」

「ああ、今は金なんかあっても食えないから、中で食い物を売ってくれるならそれでいいよ」


 え、そんなのでいいのか? 



 中に入ると、以前と様子が異なっていた。以前は門に入ってすぐのところに住んでいる住民の顔色は死んでいるような目をしていたが、今ではどことなく楽しそうに見える。また、男性は身体つきも逞しくなっているような気がする。


「ねえ、おにいちゃん、あれ……」


 マリが指差したほうをみると、そこにはガリガリに細くなった子どもの集団がいた。

 大人たちと体格の違いが激しい。しかし、その目はギラギラとしていて、何かを狙っているように見える。大方、人力車の中に食べ物があると踏んで機会を伺っているのかな。

 マリをみると、何とも複雑そうな顔をしていた。今でこそマリは沢山食べることができて、肉付きもいいが、初めて会った時はガリガリだった。食べるものがない苦しみをよく理解しているはずだ。しかし、ここで手を差し伸べても、それは一時しのぎにしかならない。それを分かっているからこそ、俺に言うことができずに、もどかしい思いをしているのだろう。


「さあ、町の皆さんこんにちは。食べ物を売りにきました。大人は食材一つにつき銅貨1枚、子どもはなんと、抱えられる範囲までなら無料で提供しますよ」


 俺の言葉を発した瞬間、一斉に住民達が集まってきた。

 正直ちょっとびびったよ。


「はい、一列に並んでください。まずは、お金を払う大人からどうぞー。あ、子どものみんなは無料で提供する代わり列を作ってもらえるように手伝ってもらってもいいかな? 大丈夫、食材は沢山あるから無くなる心配はないよ」

「わ、わかった」


 例のガリガリの子ども集団に向かって指示を出す。無断でちょっと盗むよりも、手伝って沢山もらえるほうがいいと思ったのか素直に従ってくれる。この人数を裁くのには1人では無理だから彼らの手伝いはとても助かる。


「ほら、マリも手伝ってもらってもいいかな?」

「う、うん」



 みんなに手伝ってもらったおかげか、特に混乱することなく10分程度で大人たちの買い物が終わった。残るは子どもたちだけだ。


「あの……」


 一番大柄のこの彼が、集団の代表だろうか? 他のみんなが見守る中、期待するような目でこちらをまっすぐに見つめている。


「もちろん、忘れていないさ。さあ、一列に並んでごらん」


 彼らには野菜だけでなく、タンパク質も必要だろう。肉も一緒に渡してあげよう。むき出しで持つのもあれだし、袋にでも入れてあげたらいいかな? おまけで穀物と果物も追加してあげよう。


「やったー、4日ぶりの食べ物だ!」


 彼らに食材の入った袋を手渡すと中を除いた子どもたちが歓喜の声をあげる。喜んでもらえて何よりだ。しかし、4日ぶりか。

 大人たちに、前よりも生活が良くなった理由を聞くと、彼らは「奴隷制度が無くなったおかげだ」と喜んで答えていた。しかし、この子どもたちになぜそんなにもやせ細っているのかと聞くと「奴隷制度が無くなったせいだ」と言っていた。

 奴隷制度が無くなったことに驚いたけど、喜ばしいことにちがいない。だけど、そのせいで困っている子どもがいるとは思わなかったな。


「ありがとう、おにいちゃん」


 去りゆく子どもたちを見ながら、嬉しそうな顔でマリが声をかけてきた。

 確かに彼らに食べ物を与えることは、その場しのぎにしかならないだろう。しかし、その場しのぎをすることで時間を稼ぐことができ、その間に解決策が見つかるかもしれない。だって、死んでしまっては解決しても意味がないから。


「さて、領主様にでも会いに行こうか」

「領主様に!?」


 まあ、驚くよね。この町で一番偉い人に会いに行こうというのだから。あれ? でも、ルーナ国のトップ的ポジションにいる俺のほうが正式な場では偉いのかな?


「何しにいくの?」

「お金稼ぎと、食糧事情の解消かな?」


 お金は一番持っている人から取るのが一番だからね。それに、奴隷制度を廃止した領主様自身にも少し興味があるかな。

 領主と対等に接し、問題を解決してマリに尊敬されたいという打算があることだけは秘密にしておこう。

お読みいただきありがとうございます。

マリとの2人旅が続きます。

果たしてこの街の領主は善か、偽善かそれとも悪か。次話をお待ちください。

少しでも続きが気になりましたら、ブクマや評価をしていただけるとありがたいです。また、ご意見ご感想もお待ちしております。これからも宜しくお願い致します。

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