第6話 寂しい1人旅
空が薄明るくなってきた。鏡はいい天気になることだろう。ファンタ1号を取り出し、旅に出る準備を済ませる。まあ、準備といっても殆どカード化しているし、カード化できないものはアイテム袋に入っているから特にこれといってすることはない。
今は人通りのない、この世界の中央に位置する小さな国。この世界の人々がこんな国がなくても幸せに暮らせるのであれば、それが一番いい。しかし、残念ながら2つの国を見てきた限り、幸せそうなのは一握りの上位の人間だけだ。
それに、魔除月の効果消失の件もある。率先して魔物を討伐できる国が必要なはずだ。魔物さえいなくなれば森は資源の宝と化す。この世界の生活水準も向上するに違いない。
「ソウ兄、気をつけて行って来てください」
「ああ、後のことは頼んだ」
朝早い時間のため、見送りはミハルだけだ。出発前にマリの元気な笑顔を見ておきたかったが、寝ているだろうし起こすわけにもいかない。それ以前に、寝顔を見たら俺が離れがたくなりそうで怖かった。なので帰ってきてから沢山癒されるとしよう。そのためにも、出来るだけ早く用事を済ませてさっさと帰ってこよう。一人旅は少し寂しいからね。
「うーん、久々に運転したせいか疲れたな」
気がつけば辺りは真っ暗だ。どうやって国から国への街道を創ろうかと考えながら進んでいたため、思ったよりも時間がかかってしまった。もう少しで森を抜けそうな位置だけども、疲労感も出てきているし今日はこれ位でいいだろう。
晩御飯は俺お手製のおにぎりだ。具は魔狼の肉、なんかすっぱい木の実、野菜の漬物と3種類。うん、いつも通りの味だ。ただ、いつも通りの味だけど美味しく感じないのは何故だろうか?
それからお腹が空いては色々ご飯を食べるが、菓子パン、ハンバーグ、ステーキ、サラダ、シチューなど何を食べても美味しく感じることはなかった。
ああ、マルナさんの手料理が恋しい。恋しすぎるせいか、時々マルナさんの料理の匂いがする。末期症状かな……。
「凄いことになっているな」
翌々日、ようやくタークさんたちの元村に到着した。
そこには破壊され尽くした民家、荒された畑があり、既に原型は留めていなかった。ここには魔物たちがお腹を満たせるようなものは残していなかったため、腹いせに手当たり次第に荒しまわったのだろう。
お陰で見通しが良くなった。これだけ見通しが良いと、魔物が隠れる場所もないから奇襲をうけることはないだろう。まあ、ブラックラビットリング2号(魔物のみに反応)を持っているからそんな心配も必要ないんだけどな。
取りあえず久々に外で食べてみるのもいいかもしれない。そうすれば少しは美味しさを感じることが出来るかもしれないな。題して遠足ごっこだな。
まずはレジャーシートを敷こう。大きさは1辺2メートルもあれば十分かな?このレジャーシートが大きければ大きいほど遠足では人気者になれると聞いたことがある。俺は行ったことがないから実際どうなのかは知らないんだけどな。
「あれ? おにいちゃん今日は外で食べるの?」
「ああ、今日は天気もいいし、久々に気分を変えて外で食べてみるのもいいかと思ってね」
「確かに最近は外で食べるなんてことなかったもんね」
できればもっと景色のいいところが良かったんだけどね。
「それで、今日のお昼ご飯は何?」
「今日か? 今日はまだマルナさんにも披露していない新作料理を試してみようと思ってね」
「新作!?」
「ああ、その名もカレーさ」
遠足といったらカレーが定番だよね。あれ? キャンプだったっけ? まあどっちでもいいか。
「でも、今から作るってことは時間かかるの?」
「いや、実はもう作ってあるのがアイテムボックスに入っているから直ぐにでも食べれるさ」
カレーはすでに鍋にいれてあるし、ご飯も炊き立てのものがある。時間がたたないアイテム袋だから腐る心配もない。俺に抜かりはないさ!
「それじゃあ早速食べようよ」
「そんなに焦るなって。心配しなくても沢山あるから」
大人っぽく感じることがあると思えば直ぐこれだ。やっぱりまだまだ子どもだな。
…………ん? 俺はさっきから誰と話しているんだっけ?
「おにいちゃん」
確か一人旅だったはずなんだが。
「おにいちゃん、お腹すいたよー」
もしかして、この村に生き残りがいたのか!?いや、この村には老人しかいなかったはずだ。それ以前に全員俺たちと一緒にルーナ国へ移住したし、残っている人がいるわけがない。なによりあんな可愛い声を持つ老人がいるはずがない。
ということは、やっぱり…………。
「ねー、おにいちゃんってば!」
「マリ!?」
いやいやいや、なんでマリがここにいるんだよ!? というか、この2日間どこにいたの? 何してたの?
「えへへー。おにいちゃんにすぐ見つかったら帰らせられるかと思って今まで隠れてたの!」
確かに、この先危ないことがあるかもしれないから、俺ならばマリを送り返そうとするだろう。しかし、ここまで来てしまったのなら話は別だ。今更戻るのも時間の無駄だ。それに、マリ自身実力もつけてきた。1人なら俺が守れることも出来るだろう。
もしかして、俺のこんな思考を読んでいたというのか? いや、そんなまさか……ね。
「マリ、急にいなくなったら皆が心配するだろう?」
「大丈夫、おかーさんに手紙を残してきたし、おかーさんが後悔のないようにしなさいって言ったから!」
だからといって誰にも言わずに勝手についてきたのは良くない。ここは説教をしなくてはなら――。
「ねえ、おにいちゃん、マリこのまま着いていってもいい?」
マリが縋るようにお願いをしてくる。少し赤味がかった頬、顔の前で指先だけをちょこんとくっ付けた手、そして上目遣い。まあ、マリも悪気があったわけじゃないし、何でもかんでも怒るのはいけないよな……マルナさんの遺伝子恐るべし。
しかし、いつものように笑顔ではあるが、マルナさんの時とは違いその瞳には不安の色が見て取れる。一俺に怒られるとでも思ったのかな?
「まあ、ここまで来てしまったならしょがない。ただし、今後は俺の言うことをちゃんと守るんだぞ?」
「うん! おにいちゃん、ありがとう」
今回だけだ。今回だけは大目にみよう。別にマリが可愛いとか、嫌われたくないとかじゃないよ?
それにしても、この数日よく俺に気づかれずに隠れることができたな。……まあ、後ろを全く気にしないで運転していたせいだと思うけどね。
「ご飯とかどうしていたんだ?」
「ふふん、おかーさんの料理をアイテム袋に沢山入れていたからそれを食べてたんだ! でも、流石にもう無くなっちゃったけどね」
時々匂いすると思っていたら、本当にマルナさんの手料理だったのか! この数日、俺が何回マルナさんの料理をアイテム袋に保存しておけば良かったと考えたことか。
「まぁまぁ。取り敢えずご飯を食べようよ」
「ああ、そうだな」
2人分のカレーライスを準備して同時にスプーンを口の中に入れる。
「ん~! これ、少し辛いけど美味しい!」
「うん、思った以上の出来だ」
今日のお昼ご飯はいつも以上に美味しく感じられた。マリにも大好評で作ったかいあがる。今日の晩御飯は何にしてあげようかな。
「どうして……」
今日の献立を考えていた俺は、マリのその小さな呟きに気がつくことは無かった。
申し訳ありません、遅くなりましたが次話の投稿です。
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