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第10話 マリの怒りと領主の本心

「ねえ、おじさんたち、さっきから何を言っているの? 戯言? 詐欺師? 田舎者?」」


 カチカチ


「躾のなっていない野良犬? 妄想を垂れ流すゴミ? 暗殺者? 人殺し? ……ふふふふふふ」 


 カチカチカチ


「おにいちゃんは領主様が言うからこのお城までわざわざ来たのに、なんでおじさんたちにそんなこと言われないといけないの?」


 カチカチカチカチ


「おじさんたちはおにいちゃんの何を知ってるって言うの? おにいちゃんが今までどんな思いで頑張ってきたか知っているの? どれだけの人が助けられたか知っているの? ねぇ!?」


 カチカチカチカチカチカチカチカチカチカチカチカチカチカチカチカチカチカチカチカチ


「ひぃぃ」

「バ、化け物……」

「助けて!」


 護衛たちは顎がガチガチと、目の前で鳴らす音に恐怖し身を竦めている。領主の護衛としてこの醜態はどうかと思うが、元奴隷たちと違って恐らく魔物を狩に行くことがないであろう温室育ちの護衛たちにとっては、目の前の巨大な化け物に恐怖するなというほうが難しいのかもしれない。


「これ以上おじさんたちを見ていると、もう我慢できそうにないの。だからね、しばらくの間外に出て、私たちが言いというまで入ってこないでくれるかな?」 


 マリの言葉を聞いて、今まで頭を抱えていた護衛たちは領主と扉を見比べる。

 その言葉に従えばこの恐怖から逃げられるかもしれない。領主も外に出ていいと言っていたし……。といった心境だろうか?

 すぐに行動に移さない護衛たちに対して痺れを切らしたのか、マリが最大級の笑顔で最終通告する。


「今すぐ外に出ないと…………食べちゃうよ?」

「GAAAAAAAaaaaaaaaaaaaaaaaa!!」


 マリの言葉に呼応するように顎が巨大な口を開き、1キロ先にまで届かんばかりの雄たけびをあげた。

 うん、これやりすぎじゃない?

  

「ひぃぃ、わかった、わかったから!」

「たす、助けてくれ!!」

「悪かった! 許してくれ! いや、許してください!!」


恐怖で真っ青な表情のまま床を這いながら我先にと扉の外へ逃げ出す護衛たち。彼らはもうこの状況から逃げ出す事しか考えられないのだろう。

 

「おにいちゃん、これで領主様とおはなしできるね!」


 なるほど、俺と領主が内緒話できるように彼らを部屋の外へ追いやってくれたのか。先ほどまでの怖い笑顔とは違い純粋な笑顔を浮かべている。褒めてと言わんばかりのその笑顔がまぶしい。


「ありがとうな」


 頭を撫でてやると、眼を細めて気持ちよさそうだ。うん、可愛い。

 さっきまでのマリの表情はなにかの見間違いだったのだろう。こんなに可愛いマリが、あんなに恐ろしい表情を出来るなんてあるはずがない。あるはずはないけど……マリを怒らせることのないように気をつけよう。


「そ、ソウサク様、その魔物は……」


 あ、領主のことすっかり忘れてた。

 少し腰を抜かしているものの取り乱している様子もない。そればかりか、その瞳には少しばかりの好奇心が宿っている。肝が据わっているというかなんというか。でも、これくらいの人物でないと領主なんてものはやれないのかもな。


「心配しなくても、ただの防犯ブザー――相手を驚かすためだけの道具なので危険はないですよ。マリ、もういいよ」

「はーい」


 マリがカードに戻すと興味深そうにそれを覗き込むため、仕方なく領主に手渡す。



【名称】 防犯ブザー

【クラス】雑貨

【詳細】 巨大な顎を持つ魔物の幻影を見せ付けることができる。一定以上の魔力を込めると、巨大なブザー音(雄たけび)を発することが可能。



「これは、変化狐(チェンジ・フォックス)という魔物を基に作成した道具です。効果は先ほど見たとおりですが、そこにも書いてある通り幻影ですので危害を加えることはありません。マリは女の子ですので、もしもの時の為に持たせていたのです」


 自分に危険が迫った時ではなく、他人を脅すために使うとは思わなかったけどな。

 今更ながら冷や汗が背中を伝う。マリ以外の女の子が同じ様なことをしていたら、幼女恐怖症になっていたかもしれない。


 「それで、そろそろクレチマス様の本心をお聞かせ願えますか?」


 お茶を一杯飲み、少し落ち着いたところで本題に入る。扉は既に施錠済みだ。

 領主によると、この部屋は元々密談に使用される事も多く、多少大きい声で話しても扉が閉まっている限り外に声が漏れることはないそうだ。扉の厚さは1メートル程あったため恐らく嘘ではないだろう。念のため小声で話すが。


「本心ですか。いいでしょう、ここまで来てソウサク様に嘘を言う必要がありませんし、それでどうこうしようとは考えておられないでしょう?」

「ええ」


 どうこうしようとは考えてないとも。ただ、俺の信頼度が変わるだけだ。もちろん、協力度合いもね。


「実は私は元々奴隷制度を好みません。色々ありまして魔物が領内をうろつく前から奴隷制度をなくしたいと思っていたのです。今の状況では他領の領主や国王の干渉も受けることが無いため半ば強制的に奴隷制度の廃止を決定したのです。そのせいか、領内の貴族に多少不信感を抱かれていましてね」


 なるほど、護衛たちの前で本心を言わなかったのも頷ける内容だ。奴隷制度が当たり前の国でこれに異を唱えることは、国王に異を唱えるのと同義だろう。なんたって、奴隷を物扱いする人種だからな。

 

「なるほど、よく分かりました。どうやらあなたとは良い関係が築けそうです」

「――ありがとうございます。どうかよろしくお願いします」

 

 何で奴隷制度を嫌うようになったのかは分からないが、なんとなく良い思い出ではないのは分かる。そこまで無理に聞きだす必要はないだろう。こんなクソみたいな法律がある国で、こんな良心的な考え方の出来る権力者がいて本当に良かったと思う。領主――クレチマスとは仲良くやれそうだ。

 しかし、今まであった奴隷制度廃止というのは良いことだけではない。


「クレチマス様は、奴隷制度廃止によって一番被害を受けている者をご存知ですか?」

「……元奴隷の孤児たちですね」


 どうやら、気づいてはいるようだ。

 今まで奴隷たちは、働いてもまともな金はもらえなかったが、奴隷たちが死んでしまうと働き手に困るため、奴隷の持ち主は死なない程度の食料は分け与えていたそうだ。しかし、奴隷制度が廃止になったためその僅かな食料さえ手に入らなくなってしまった。大人の奴隷と違い、魔物を狩ることもできない。それなら、今までどおり領内で働こうと思っても、適正な料金でそこまで高いスキルのない子どもたちを雇おうという者もいない。今では中級市民以下は自分たちが食べる食料の確保で手一杯だからそもそも食材を分け与える余裕がない。上級市民、貴族になってくると、流石に領主に逆らって罰を受けるわけにもいかないため、そんな危険を冒してまで子どもを雇おうという者もいない。このままでは餓死してしまうのが目に見えている。時々、元奴隷たちから食料を分け与えてもらえるようだが、彼らも家族がいるため、大量にいる孤児たちの面倒を毎回見ることはできないだろう。


「いろいろ手は尽くそうとしているのですがね、安い報酬で子どもたちを雇うという前例を作ってしまうと、奴隷制度を廃止した意味がなくなってしまいますし、今後食糧事情が解消した時のことを考えるとなかなか難しいのが現状です。我々もそこまで沢山の食料があるわけではないため、大量の孤児分け与えるのも難しいですし、子どもたち以外にも食料を欲している人は沢山いますから」


 せめて他の貴族が協力的なら何とかなると思うのだが、わざわざ孤児のために損をしようという貴族もいないだろう。孤児をなんとかしたいとは思っているが、領主としては孤児だけではなくてこの街中に住む全ての人を守らないといけない。そのためになかなか思い通りに進まないそうだ。

 苦虫を潰したような顔をしながらも、孤児を守るため何か良い方法がないか必死に考えているのが伝わってくる。

 そんな時、クレチマスは俺がこの国に来たのを知ったそうだ。なんでも、たまたま下町に赴いていた時に巨大な壁を作り出した俺を見たことがあったため、門兵から野菜を売りに来た子どもがいると報告を受けてピンときたと。そして、大魔法使いと思われる俺ならば何か良い打開策を持っているのではないかと思い、今に至ると。

 

「恥を承知でお聞きします。何か良い案はないでしょうか? こちらも出来る限りの事はさせていただきます」


 領主が子どもに頭を下げる。普通ならありえないことだが、クレチマスは領民の為なら立場やプライドを投げ捨ててでも平然とそれを行う。貴族としてはどうなんだろうとは思うが、別に俺は貴族ではないし、そんな体裁ばかり気にするよりも何とかしようと奔走するやつのほうが好きだ。


「頭を上げて下さい、困った時はお互い様ですよ。それに、案を出す代わりにしっかり報酬としてお金は頂きます。ですので、対等にいきましょう」


 本当にお金はもらうよ? それも数年計画で金銭をがっぽりね。

 



 

お読みいただきありがとうございます。本日の投稿はこれにて終了させていただきます。


マリが激おこです。ソウサクを馬鹿にする奴は地の底までも追いかけて追い詰めてメチャメチャに必ずしてやります。


ご意見ご感想、ブクマや評価を是非、是非よろしくお願い致します!

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